キャリア通算389犠打と、史上4人目の金字塔まであと11に迫る
福岡ソフトバンクの今宮健太選手がここまで19犠打を記録し、パ・リーグの犠打ランキングでトップに立っている。今宮選手は15年間のキャリアで通算389個の犠打を重ねており、NPB史上4人目となる通算400犠打という偉業達成まであと一歩に迫っている。
今回は、今宮選手の球歴と、セイバーメトリクスで用いられる指標に基づいた、選手としての特徴を紹介。それに加えて、シーズン別の犠打数ならびにリーグ内における順位についても確認することによって、他を圧倒するペースで犠打数を積み上げてきた今宮選手の歩みをあらためて振り返っていきたい。(記録は8月17日の試合終了時点)
若くしてレギュラーの座を掴み、チームの黄金期を支える存在に
今宮選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
今宮選手は明豊高校から、2009年のドラフト1位でプロ入り。高卒3年目の2012年に早くも主力の座を掴み、続く2013年には現在もパ・リーグタイ記録となっているシーズン62犠打を達成。自身初のゴールデングラブ賞も獲得し、攻守にわたって大きな飛躍を果たした。
続く2014年は全144試合に出場し、前年と同じく年間62犠打を記録。2年連続のゴールデングラブ賞と自身初のベストナインに輝き、リーグ優勝と日本一に輝いたチームを支えた。その後も2017年まで5年連続でゴールデングラブ賞に輝いた華麗な守備に加えて、2016年から4年連続で2桁本塁打と打撃面でも向上を見せ、チームの黄金期形成に大きく寄与した。
2022年には5年ぶりに規定打席に到達して自己最高の打率.296を記録するキャリアハイのシーズンを送り、プロ13年目にしてさらなる成長を示した。今季もショートのレギュラーとして例年通りの活躍を見せており、長年にわたってチームに欠かせない存在であり続けている。
30歳を過ぎてから、選球眼に関する指標が向上を見せている
次に、今宮選手がこれまで記録してきた年度別の指標を見ていこう。
キャリア通算の出塁率が.305、出塁率と打率の差を示す「IsoD」が通算で.053と、いずれも高いとはいえない水準にとどまっている。これらの数字からも、今宮選手はじっくりとボールを見るタイプの選手ではなく、積極的な打撃を持ち味とする選手であることがわかる。
しかし、2024年のIsoDは.068と、現時点でキャリア最高の水準に達している。さらに、死球を三振で割って求める、打者の選球眼を示す指標の一つである「BB/K」に関しても、2022年以降は3年連続でキャリア平均を上回る数字を記録している。30歳を過ぎてから今宮選手の打者としての成熟度が高まっていることが、これらの数字からも読み取れる。
長打率から単打の影響を省いた、真の長打力を示す「ISO」に関しては、キャリア通算で.112とやや控えめだ。ただし、4年連続で2桁本塁打を放っていた2016年〜2019年においては、いずれもキャリア平均を上回る数字を記録。そして、わずか43試合で6本塁打を放った2020年には自己最高の.177という数字を残すなど、要所でパンチ力を示している。
運に恵まれてこなかった? 近年はその傾向にも変化が
続いて、ホームランを除くインプレーの打球が安打になった割合を示す「BABIP」について見ていきたい。この指標は選手自身の能力以上に運に左右される部分が大きいと考えられており、基本的には.300が基準値とされている。しかし、今宮選手のキャリア通算のBABIPは.289と、一般的な基準値を下回る結果となっている。
この数字は、今宮選手がキャリアを通じてやや運に恵まれてこなかったことを示唆するものだ。その一方で、2022年のBABIPは.338、2024年は同.323と、近年においては基準値を上回る数字を残すシーズンも出てきている。これまで運に恵まれなかったぶんだけBABIPが上昇していくかどうか、今後の数値の推移にも要注目だ。
高いバント技術や、球際に強い華麗な守備を大きな武器とする今宮選手は、セイバーメトリクスにおける指標の分野では大きく評価されない傾向にある。それでも、30歳を過ぎてから指標における成績を改善させているところに、今宮選手の飽くなき向上心の高さが見て取れるといえよう。
規定打席に到達したシーズンは全て、リーグ3位以内の犠打数を記録
最後に、今宮選手がこれまで記録してきた年度別の犠打数と、各シーズンのパ・リーグ内における犠打数ランキングの順位を紹介したい。(今宮選手がリーグ10位以内に入っていないシーズンは棒線)
今宮選手は2013年と2014年に、パ・リーグタイ記録となるシーズン62犠打を達成している。22〜23歳という時期にこの記録を2年続けて達成していた点が、今宮選手が若くして卓越したバント技術を習得していたことを物語っている。
さらに、2013年から2017年までの5年間のうち、4度にわたってリーグ1位のバント数を記録した点も特筆ものだ。また、この期間で唯一リーグ2位となった2015年は、中島卓也選手がリーグタイ記録の年間62犠打を達成したシーズンだった。他の選手にとって今宮選手の牙城を崩すことがいかに困難であったかが、この事実からも読み取れる。
ただし、2018年は故障で99試合の出場に終わり、2019年は7犠打、2020年は5犠打と大きく数字を減らしている。故障による出場機会の減少がダイレクトに犠打の数に影響をおよぼしていたことがわかる。
レギュラーとして出場を重ねた2021年以降は再び犠打の数も増加し、同年はリーグ2位の23犠打を記録。2022年は打率.296と打撃面で開眼したことによってバントの機会はやや減少したが、それでもリーグ3位の19犠打を記録。2023年はリーグ2位の24犠打、そして2024年もリーグ1位の19犠打と、近年に入ってからもランキング上位に位置し続けている。
また、2013年〜2017年、そして2022年〜2024年と、規定打席に到達した8度のシーズンではいずれも、犠打数がリーグ3位以内に位置している。通算200犠打、250犠打、300犠打、そして350犠打をいずれも歴代最年少で達成した点も含め、故障さえなければコンスタントに犠打を積み上げられるという特性は大きな強みとなっている。
首位を快走するチームを主力として支えつつ、このまま金字塔に到達できるか
長きにわたるNPBの歴史においても、通算400犠打を達成した選手は川相昌弘氏、平野謙氏、宮本慎也氏と、わずか3名しかいない。この希少な記録に到達しようとしている今宮選手は、まさに稀代のバント職人と形容できる存在といえよう。
残り40試合を切った状況で記録まであと11犠打という状況はややハードルが高いが、今宮選手の過去の実績を考えれば、決して不可能な数字ではない。リーグ王座の奪還を目指すチームを主力として支えるなかで、偉大な記録を達成することができるか。今なお選手としての進化を続ける今宮選手が見せる、残るシーズンにおける活躍には要注目だ。
文・望月遼太
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