独立リーグ出身の野手が、NPBで活躍を見せたケースは決して多くはなかった
育成ドラフトで入団したオリックスのルーキー・茶野篤政選手が、リーグトップまで2本差となる51安打と、2022年に四国アイランドリーグplusで首位打者を獲得した打撃センスをプロの舞台でも発揮している。1日の広島戦ではプロ初本塁打含む6打点と大暴れ。初の独立リーグ&育成出身の新人王候補の呼び声も高い。
独立リーグ出身で、プロの舞台でも活躍を見せた選手としては、又吉克樹投手(香川オリーブガイナーズー福岡ソフトバンク)や湯浅京己投手(BC富山ー阪神)が顕著な例として挙げられる。しかし、野手として一定以上の出場機会を得られた選手はほんの一握り。活躍を果たすためのハードルは、投手以上に高くなっている。
今回は、茶野選手の球歴や、独立リーグで残した具体的な数字について紹介。それに加えて、独立リーグ出身者としてプロの舞台で活躍した野手たちの顔ぶれを振り返っていくとともに、茶野選手のさらなる活躍にも期待を寄せたい。(※以下、記録は5月28日の試合終了時点)
育成ドラフトでの入団ながら、開幕直後からレギュラーの座に定着
茶野選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
茶野選手は中京学院大中京高校、名古屋商科大学を経て、2022年は四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスでプレー。1年目から俊足好打の外野手として主力の座をつかみ、打率.316でリーグ首位打者を獲得。37盗塁、出塁率.418とチャンスメーカーとしての適性を発揮し、大いに存在感を発揮した。
この活躍が認められ、2022年の育成選手ドラフト4位で、オリックスから指名を受けてプロ入りを果たす。育成下位での入団ではあったが、開幕前の時点で首脳陣へのアピールに成功し、実戦が始まってからも一軍メンバーに食い込むほどの台頭を見せていく。
オープン戦でも10試合で打率.273とプロの投手たちを相手に奮闘し、3月24日には早くも支配下登録を勝ち取る。そして、3月31日の開幕戦では「8番・ライト」で出場し、史上初の「育成ドラフト指名のルーキーで開幕スタメン」という快挙を成し遂げた。
その開幕戦で迎えたプロ初打席でさっそく安打を放つと、第二打席では堅実に犠打を決めて同点劇につなげる働きを披露。抜擢に応えてチームの開幕勝利に貢献すると、その後もレギュラーとして出場を続け、交流戦前の段階でリーグ8位の打率.277を記録している。
大黒柱の吉田正尚選手が大リーグに移籍し、打撃好調だった杉本裕太郎選手も故障で戦列を離れる中で、茶野選手は外野の一角としてコンスタントに活躍。離脱者が相次ぐ中で上位争いを繰り広げてきたチームにとっても、その存在は非常に大きなものとなっている。
出塁率につながる一つの特徴
続いて、茶野選手が2022年に独立リーグで残した成績を見ていきたい。
通算打率.316に対して、対右投手が.314、対左投手が.325と、投手の左右を問わずに好成績を残していた。また、プロ入り後の2023年も対右投手が.264、対左投手が.313と、左打者ながら左投手に強く、それでいて右投手も極端に苦手とはしない傾向は維持されている。
そして、21四球に対して12死球と、デッドボールが非常に多い点も特徴だ。この点に関してもプロ入り前後で変化はなく、ここまで8四球・5死球と、デッドボールでの出塁が多い。それでいて故障離脱には至らない身体の強さも、茶野選手の武器となりうるはずだ。
さらに、去年は2本塁打ながら長打率.424と、多くの塁を奪えていた点も見逃せない。プロではまだ本塁打はゼロ、長打率.301と単打が多くなっているが、持ち前の脚力を生かして一つ先の塁を狙える打球が増えてくれば、チャンスメーカーとしての貢献度もさらに高まることだろう。
2度の首位打者に輝いた角中勝也選手
ここからは、これまでNPBで活躍してきた、独立リーグ出身の野手について紹介していきたい。
NPBでは千葉ロッテ一筋で17年目を迎える角中勝也選手は、独立リーグ出身者としては飛び抜けた実績を残す存在だ。プロ6年目の2012年に打率.312で首位打者を獲得する大ブレイクを果たすと、その後も主力として長きにわたって活躍。2016年には全試合に出場して打率.339、178安打で首位打者と最多安打の2冠に輝いた。
独立リーグ出身者では唯一となる主要打撃タイトルの受賞者であることに加え、規定打席に到達した経験がある独立リーグ出身選手も、現時点では角中選手だけ。また、通算1000試合出場と通算1000安打を記録しているのも、角中選手ただ一人となっている。
2度のベストナインを受賞し、2013年には日本代表として第3回WBCにも出場した角中選手は、まさに「独立の星」と言える存在だろう。
俊足とコンタクト力を武器に、初期の東北楽天を支えた内村賢介氏
パ・リーグにおいてその角中選手に次ぐ活躍を見せたのが、発足から間もない時期の東北楽天で奮闘した内村賢介氏だ。プロ1年目の2008年途中に支配下登録を勝ち取り、打率.289と奮闘。3年目の2010年には111試合に出場し、規定打席未到達ながら打率.304という数字を残し、俊足好打のユーティリティとして躍動した。
2011年には123試合に出場し、自己最多の390打席に立って打率.271を記録。規定打席到達こそならなかったが、それぞれキャリアハイとなる31盗塁、42犠打を決め、つなぎ役として持ち味を発揮した。翌年以降は打撃不振に陥り、横浜DeNAへの移籍後も完全復活は果たせなかったが、通算100盗塁・137犠打と、プロの舞台でも大いに持ち味を示した。
さらなるブレイクを果たせるか!? スタメンの機会増やす和田康士朗選手
セ・リーグにおいても、東京ヤクルトでバイプレーヤーとして10年以上にわたってチームを盛り上げた三輪正義氏、福岡ソフトバンクの育成選手から中日への移籍後に開花し、巧打と堅実な二塁守備を武器に躍動した亀澤恭平氏、巨人で俊足のユーティリティとして活躍を続けている増田大輝選手の3名が、独立リーグ出身者として存在感を示してきた。
そして、ここ数年は千葉ロッテの和田康士朗選手が台頭を見せている。プロ3年目の2020年に支配下登録を勝ち取り、主に代走として23盗塁を記録。そして、翌2021年には24盗塁を決め、独立リーグ出身者では史上初となる盗塁王のタイトルを獲得した。2023年はスタメン出場の機会も増えていることもあり、今後のさらなる活躍も期待されるところだ。
独立リーグ出身者では2人目の規定打席到達、そして打撃タイトル獲得へ
独立リーグ出身で多くの出場機会を得た選手の顔ぶれを見ていくと、三輪氏、増田選手、和田選手のように、俊足を活かして代走・守備固めを中心に活躍した選手が多い。内村氏と亀澤氏は打撃面でも好成績を残していたが、卓越した打撃技術を最大の武器として主力の座をつかんだ角中選手は、プレースタイルの面でも例外的な存在といえよう。
茶野選手も俊足の持ち主であり、強肩と球際の強さを活かした外野守備でも存在感を発揮しているが、最多安打を争うペースで安打を量産している点はやや趣が異なる。かつての角中選手と同様に、打撃面で結果を残し続けることができれば、レギュラー定着も決して夢ではないはずだ。
独立リーグと育成ドラフトを経て、プロの舞台でも大いに実力を発揮しつつある茶野選手。独立リーグ出身者では2人目となる規定打席到達、そして最多安打のタイトル獲得の可能性を秘めた、異色のルーキーが見せる打撃に、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
・茶野篤政がプロ初アーチ含む3安打6打点
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