種市篤暉がついに完全復活へ。圧倒的な奪三振率を誇る剛腕の“進化”にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

千葉ロッテマリーンズ・種市篤暉投手(C)C.L.M.
千葉ロッテマリーンズ・種市篤暉投手(C)C.L.M.

3年ぶりに開幕ローテーション入りを果たし、ここまで好投を続けている

 千葉ロッテの種市篤暉投手が、3年ぶりに開幕ローテーション入りを果たして好投を続けている。将来を嘱望されていた24歳の剛腕がこのままトミー・ジョン手術からの完全復活を果たせば、チームにとっても非常に大きなプラスとなることだろう。

 今回は、種市投手の球歴に加えて、各種の指標、結果球の割合、故障前と現在の変化について紹介。具体的なデータをもとに、投手としての持ち味と魅力に迫っていきたい。(※成績は5月10日の試合終了時点)

若くして台頭を果たしたものの、故障による回り道を余儀なくされた

 種市投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

(C)PLM
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 種市投手は八戸工大一高校から、2016年のドラフト6位で千葉ロッテに入団。プロ2年目の2018年に一軍デビューを果たし、同年は7試合に先発登板。防御率6.10で未勝利と一軍の壁に跳ね返されたが、20歳の若さで貴重な経験を積んだ。

 翌2019年にはリリーフとして開幕一軍入りを果たすと、8試合に登板して11イニングを2失点、防御率1.39と素晴らしい投球を披露。この活躍が認められて4月29日にシーズン初先発のチャンスをつかむと、5回2失点と好投して待望のプロ初勝利をマークした。

 その後は先発ローテーションの一角に加わり、17試合の先発で8勝をマーク。114イニングで135奪三振を記録しただけでなく、当時の日本人投手タイ記録となる23イニング連続奪三振を達成。抜群の奪三振力を持つことを示し、若きホープとして台頭を果たした。

 そして、続く2020年は開幕から絶好調で、7月25日の埼玉西武戦ではプロ初完封を達成。7月終了時点で防御率2.20と圧巻の投球を見せ、近未来のエースとしてこのまま躍進を続けるかに見えた。しかし、8月1日の登板でひじを痛め、トミー・ジョン手術を受けることに。そこから1年半以上にわたって、マウンドから遠ざかることを余儀なくされた。

 種市投手は長きにわたるリハビリを乗り越え、2022年に実戦復帰を果たす。同年の一軍登板は1試合にとどまったが、2023年は開幕から先発陣の一角として好投。4月9日の東北楽天戦で988日ぶりとなる白星をつかむと、その後も安定した投球を継続。5月9日の試合では今季最長の7回を投じるなど、着実に完全復活へのステップを刻んでいる。

非常に高い水準の奪三振率に加え、課題の制球面も改善傾向にある

 次に、種市投手がこれまで記録してきた、年度別の指標について見ていきたい。

(C)PLM
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 先発投手としては非常に高い水準にある奪三振率が、種市投手の最大の持ち味となっている。2019年に奪三振率10.41という抜群の値を残しただけでなく、通算の数字でも投球回を上回る奪三振数を記録している。さらに、今季は奪三振率11.85とキャリアベストの値を記録しており、故障前を上回るペースで三振を奪っている点も頼もしい限りだ。

 その一方で、キャリア通算の与四球率は3.60とやや高く、制球面が課題となっていた。だが、今季は最初の4試合で12個の四球を与えたものの、4月30日と5月9日の登板では、2試合続けて無四球のピッチングを展開。K/BBも一般的に優秀とされる3.50を上回る水準に到達しており、著しい制球力の向上が見られていることも楽しみな要素となっている。

今季の好投は運に恵まれているわけではなく、種市投手の“実力”によるもの?

 また、「被BABIP」が.306と、平均値とされる.300に近い数字になっている点もポイントだ。被BABIPは本塁打以外のグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合を示す指標で、一般的には投手が制御することは難しく、運の要素が強く絡む指標とされている。

 種市投手の場合も、開幕から好調だった2020年は.277と低い数字であり、同年は運に恵まれていた可能性が示唆されている。しかし、今季はその2020年の序盤を上回る防御率と被打率を示しながら、BABIPは平均に近い値となっている。すなわち、現在の好投は決して運に恵まれているわけではなく、種市投手の実力によるものと考えられるということだ。

故障前と現在では、結果球の割合にも大きな変化が見られる

 続いて、種市投手が2019年、2020年、そして2023年に記録した、結果球となった球種の割合を紹介しよう。

(C)PLM
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 2019年はストレートの割合が54.7%に達し、フォークは26.7%と全体のおよそ1/4程度。スライダーも18.6%と一定以上の割合で投じており、当時から基本的に3つの球種だけで投球を組み立てていたことがわかる。

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 2020年もストレートの割合が全体の半分以上を占めており、フォークの割合も前年とほぼ同じ。スライダーの割合が全体の1/5にあたる20%を上回った点と、カットボールが結果球として残っている点が、前年からの主要な変化といえよう。

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 2019年と2020年は似たような配球の傾向を示していたが、2023年の割合は大きく異なるものになっている。上記の2シーズンはいずれも5割を超えていた速球の割合が、2023年には42.4%まで減少。その一方で、フォークの割合が44.7%と速球よりも大きい割合まで増加している。

 また、スライダーの割合も12.9%まで低下し、カットボールも再びグラフから姿を消した。これらの数字を考えても、今季は従来の速球を中心に組み立てる投球から、フォークを投球の軸とするスタイルに転換していることがわかる。

 その理由の一つとして考えられるのが、今季の球種別被打率だ。速球の被打率.292に対して、フォークの被打率は.161。より痛打される可能性が低いボールを決め球として使うケースを増やしたことは、理に適った判断と言える。このモデルチェンジが、今季の好投を支える要素の一つとなっている可能性はありそうだ。

甘いコースの球が減少し、決め球の制球力も増している

 最後に、種市投手が2019年、2020年、2023年に記録した、結果球の投球コースを確認していきたい。

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 2019年はストライクゾーン内でのバラつきが比較的少なく、ボールゾーン低めに落とす球も一定以上の割合で存在。その中でも、ストライクゾーンの真ん中から右上のゾーンがやや多くなっており、特に真ん中右のコースは59個と、極端に多くなっていた。

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 2020年は前年も多かったストライクゾーン真ん中右のコースに加え、ど真ん中と左上の割合も増加。全体的に真ん中から高めのゾーンにボールが行くケースが増えており、投手にとっては危険な兆候を示していた。

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 2023年は上述した2シーズンに比べて高めに行く割合が減少し、真ん中から低めの高さに投じられる割合が増えている。こうした傾向の変化が、各種の指標にも示されていた制球力の向上と、痛打を浴びるケースの減少にもつながっていると考えられる。

 また、ボールゾーンに落ちる球の割合がこれまで以上に多くなっており、三振を取るために投じられるフォークが適切に制球されていることがわかる。フォークの被打率が低く、決め球として多くの三振を奪えている理由が、この数字からもうかがえよう。

成長を続ける若き剛腕は、佐々木朗希投手と共に奪三振の山を築いていけるか

 持ち味である高い奪三振率はそのままに、課題だった制球力が登板を重ねるごとに向上。フォークの割合を増やしたことによって安定感が増した点を含め、種市投手は故障する前の自身を上回るような、完成度の高い投手へと成長を遂げつつある。

 ファンが待ち望んだ種市投手の完全復活によって、佐々木朗希投手と共に奪三振の山を築く若きコンビが確立されるかもしれない。抜群のポテンシャルを備えた大器が、大ケガを乗り越えてついに完全開花を遂げるか。若き剛腕が繰り広げる奪三振ショーに、これからぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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