39歳にして進化を続ける中村剛也。門田博光氏に続く、「不惑の大砲」の再来なるか

パ・リーグ インサイト 望月遼太

埼玉西武ライオンズ・中村剛也選手(C)SEIBU Lions
埼玉西武ライオンズ・中村剛也選手(C)SEIBU Lions

今年8月に40歳を迎える中村選手が、リーグトップタイの本塁打数を記録している

 今年8月に40歳を迎える埼玉西武の中村剛也選手が、5月22日の時点でリーグトップタイの8本塁打を記録。NPB史上3位となる6度の本塁打王を獲得してきた大ベテランが、7度目の戴冠を果たす可能性を感じさせている。

 ちょうど今から35年前の1988年には、同じく40歳でシーズンを迎えた門田博光氏が、打率.311、44本塁打、125打点という数字を残し、本塁打と打点の2冠を獲得。当時の野球ファンの記憶に強く残る圧倒的な活躍を見せ、「不惑の大砲」と称された。

 今回は、中村選手と門田氏の球歴を詳しく紹介するとともに、今季の中村選手が記録している各種の指標を紹介。年齢を感じさせない打撃を見せる今季の中村選手が、35年前の門田氏のような偉業を達成する可能性について考えていきたい。

若くして頭角を現し、ベテランとなってからも主軸としてチームをけん引してきた

 中村選手がこれまで記録してきた、年度別の打撃成績は下記の通り。

(C)PLM
(C)PLM

 中村選手は2001年のドラフト2巡目で西武に入団。プロ4年目の2005年にシーズン22本塁打を放ってOPS.924とブレイクし、「おかわり君」の愛称で注目を集めた。そこから2年間は1桁本塁打にとどまったが、2008年には46本塁打を記録。自身初の本塁打王に輝くとともに、チームのリーグ優勝と日本一にも大きく貢献を果たした。

 続く2009年からは4番の座に座り、48本塁打、122打点、OPS1.010と大活躍。2年連続の本塁打王に加えて、自身初の打点王の2冠を達成した。さらに、2011年は統一球導入の影響で極端な投高打低となる中で、リーグ全体の1割以上を占める本塁打数を一人で記録する離れ業を演じた。同年は自身2度目の2冠王に輝くなど、まさに他を圧倒する打棒を示した。

 その後も2012年、2014年、2015年に本塁打王を獲得し、2015年には自身3度目の2冠王にも輝いた。ベテランの域に達してからも活躍は続き、2018年には100試合未満の出場ながら28本塁打を記録。2019年は4年ぶりの30本塁打に加えて自己最高の打率.286を記録し、36歳にして自身4度目の打点王を獲得。主軸としてチームのリーグ連覇にも大きく寄与した。

 38歳で迎えた2021年にも打率.284を記録し、調子の上がらない打線を4番としてけん引する働きを見せていたが、2022年は打率.196、OPS.597と低迷。しかし、2023年はOPS.958と再び復活を果たし、打率.319、出塁率.400と、40歳にして新境地を開拓しつつある。

アキレス腱断裂を乗り越え、40歳を超えてからも出色の打撃を披露した

 門田氏が現役時代に記録した、年度別の打撃成績は下記の通り。

(C)PLM
(C)PLM

 門田氏はクラレ岡山から、1969年のドラフト2位で南海(現・福岡ソフトバンク)に入団。強肩・強打の外野手として早くから頭角を現し、プロ2年目の1971年には打率.300、31本塁打、120打点を記録して打点王を獲得。同年から3年連続で打率3割以上を記録するなど、確実性のある中距離砲として活躍を見せた。

 1979年にはアキレス腱断裂という重傷を負って長期離脱を余儀なくされたが、復帰を果たした1980年には自身初の40本塁打超えを達成。翌1981年にも打率.313、44本塁打、105打点と素晴らしい成績を残し、自身初となる本塁打王のタイトルにも輝いた。

 そして、1983年には直近4年間で3度目となるシーズン40本塁打を達成し、自身2度目の本塁打王を獲得。アキレス腱断裂以降は長距離砲へのモデルチェンジを成功させ、30代後半に差し掛かってからも、チームの主砲として息の長い活躍を続けていった。

 40歳で迎えた1988年には打率.311、44本塁打、125打点と圧倒的な打撃を披露。本塁打王と打点王の2冠に加えて、シーズンMVPの栄冠にも輝いた。40歳を意味する「不惑」、ならびに門田氏を称した「不惑の大砲」という言葉が世間で流行するほどの、圧倒的なインパクトを残した。

 翌1989年はホークスの福岡移転に伴って新天地のオリックスで迎えたが、打率.305、33本塁打、93打点と、41歳にしてハイレベルな数字を記録。続く1990年も31本塁打を記録するなど、現役生活の晩年に至っても驚異的な活躍を見せ続けた。通算567本塁打・1678打点は、ともに王貞治氏と野村克也氏に次ぐ歴代3位の偉大な記録だ。

今季は長打力の復活に加え、「確実性」も大きく向上を見せている

 続いて、中村選手がこれまで記録してきた、年度別の打撃指標を見ていきたい。(太字は打撃タイトル獲得年)

(C)PLM
(C)PLM

 今季の長打率.558、OPS.958という数字は、いずれもキャリア通算の値を上回るものだ。2年連続で本塁打王を獲得した2014~15年と遜色のない数字となっていることからも、今季の中村選手の充実ぶりがうかがえる。

 また、長打率から単打の影響を除外した、真の長打力を示す指標ともいえる「ISO」にも変化が見られる。過去3シーズンはいずれも.150台だったが、今季は30本塁打を放った2019年と同程度の数字まで回復している。

 出塁率から打率を引いて求める「IsoD」も、キャリア平均に近い数字まで向上。そして、四球を三振で割って求める、打者の選球眼を示す「BB/K」は.652と、キャリア平均の.401を大きく上回り、これまでのキャリアで最高の水準を示している。

 選球眼を支える動体視力は、一般的には加齢とともに落ちていくとされる。だが、中村選手は今季で40歳を迎えるにもかかわらず、選球眼がむしろ向上している点が驚異的だ。今年の4月29日にNPB史上初の通算2000三振を記録したように、三振を恐れずに強振する打撃スタイルの持ち主であることを考えれば、今季の確実性の向上は著しいと言えよう。

 確実性という観点でいえば、今季の打率が.319に達している点も興味深い。中村選手はこれまで、シーズン打率.300を記録したことは一度もない。それだけに、この数字は打撃面における顕著な変化の表れとも考えられる。

 それでいて、1本のホームランが出るまでに必要な打席数を示す「AB/HR」は14.13と、37本塁打を放った2015年に近い水準となっている。確実性が高まりながら長打力も失われていない今季の打撃内容を考えれば、このまま全盛期に近い数字を残す可能性も十分にあるはずだ。

「40代で主要打撃タイトル獲得」という、新たな共通点が生まれるか

 通算567本塁打・本塁打王3度の門田氏と、通算462本塁打・本塁打王6度の中村選手。活躍した年代こそ違えど、いずれも10年以上にわたって和製大砲として圧倒的な活躍を見せ、その年代を代表するホームランバッターとして活躍してきた点は共通している。

 また、ケガを乗り越えて数多の記録を樹立し、ベテランとなってからも年齢を感じさせない打撃を見せてきたところも、中村選手と門田氏の共通点といえる。今季はそれに加えて、「40代で主要打撃タイトル獲得」という驚異的な記録が、この2名の新たな共通点として加わるかもしれない。

 はたして、中村選手はこのまま好成績を残し、新たな「不惑の大砲」となれるか。20年以上にわたってライオンズの屋台骨を支えてきたレジェンドが、今後も衰え知らずの打撃を続け、新たな勲章を手にすることに期待をかけたい。

文・望月遼太

関連リンク

種市篤暉の“進化”にデータで迫る
プロ5年目でついに覚醒か。藤原恭大の“変化”
2023年新たな番号を受け継いだ選手の顔ぶれ
埼玉西武で躍動する6名の若手野手

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE