電撃トレードで加入した「マスター」。東北楽天・阿部寿樹に期待されるものとは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

東北楽天ゴールデンイーグルス・阿部寿樹選手(C)Rakuten Eagles
東北楽天ゴールデンイーグルス・阿部寿樹選手(C)Rakuten Eagles

チームの主力選手のトレードという、まさに電撃的な移籍となった

 11月15日、中日の阿部寿樹選手と東北楽天の涌井秀章投手のトレードが発表された。阿部選手は29歳でレギュラーをつかんだ遅咲きながら、確実性とパンチ力を兼ね備えた打撃と堅実な守備を武器に活躍。今季もレギュラーとして133試合に出場し、シーズンのクリーンアップの一角を務めていた。

 前年に相手球団で主力を務めた野手の移籍とあって、当然ながら新天地でも大いに活躍が期待されるところ。今回は、阿部選手の球歴に加えて、「打球方向」と「球種別打率」に基づく打者としての特性を紹介。現在の東北楽天のチーム事情も確認しながら、イーグルスにおいて阿部選手に期待される役割について考えていきたい。

プロ入りの年齢は遅かったが、その後も着実な成長を見せて4年目にブレイク

 阿部選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

阿部寿樹選手 年度別成績(C)PLM
阿部寿樹選手 年度別成績(C)PLM

 阿部選手はホンダから2015年のドラフト5位で中日に入団。26歳での入団とあって即戦力としての働きが期待されたが、プロ入りから3年間は一軍で結果を残せず。しかし、4年目の2019年に一気に頭角を現し、二塁手のレギュラーをつかむ。自身初の規定打席に到達し、打率ランキングのトップ10に入る活躍を見せてブレイクを果たした。

 続く2020年も全120試合中115試合に出場し奮闘。打率こそやや落としたものの、本塁打が出にくい球場を本拠地としながら、自己最多の13本塁打を放つパンチ力を披露した。完全に主力に定着したかに思えたが、2021年は打撃不振と故障に見舞われ、66試合の出場にとどまった。

 それでも、2022年には復調を果たして2年ぶりに規定打席に到達。本塁打と打点はともにチーム2位となる数字で、苦しむ打撃陣の中でポイントゲッターとして気を吐いた。守備でも本職の二塁に加えて、一塁、三塁、外野をこなすマルチな才能を発揮。チーム事情に合わせてさまざまな役割をこなし、攻守にわたって堅実な働きを見せていた。

基本に忠実なセンター返しに加え、逆方向に一発を放てるパンチ力も

 次に、阿部選手が2022年に記録した、安打の方向を見ていきたい。

阿部寿樹選手 2022年安打方向一覧(C)PLM
阿部寿樹選手 2022年安打方向一覧(C)PLM

 センター方向への安打が60本とダントツに多く、安打全体のうち45.8%を占めている。基本に忠実なセンター返しを徹底できるだけの打撃技術を有することが、この数字からもうかがえよう。

 また、レフトに9本、左中間に17本、右中間に11本、ライトに18本と、センター以外の打球方向に偏りはなく、さまざまな方向にヒットを記録。今季の阿部選手はセ・リーグ4位タイとなる31本の二塁打を記録したが、外野の間を割る打球の多さを見れば納得だ。

 本塁打の方向に目を向けると、9本中3本がライトへの一発となっていた。その中には、来季から同僚となる田中将大投手が投じた外角低めのストレートを流し打った一打も含まれている。逆方向に強い打球を飛ばせる点は、阿部選手の大きな特徴と言えそうだ。

得意な球種は多くはないが、ウィークポイントとなる球種も少ない安定感が光る

 続いて、2022年に阿部選手が記録した球種別の打率を紹介する。

阿部寿樹選手 2022年球種別打率(C)PLM
阿部寿樹選手 2022年球種別打率(C)PLM

 カーブに対しては打率.400と非常に得意としており、投球のアクセントとなる球種にもタイミングを崩されずに対応できていた。ただし、打率.300を超える球種はカーブのみであり、明確に得意とする球種自体はさほど多くはなかった。

 その一方で、打率1割台の球種はチェンジアップ、打率2割台前半の球種はシンカー・ツーシームと、それぞれ一つのみだった。極端に苦手とする球が少なく、大半の球種に対して一定以上の数字を残せる対応力の高さと安定感は、阿部選手の大きな強みとなっている。

阿部選手が2022年に残した成績は、新天地でもさまざまな面でチーム内上位に相当

 ここからは、2022年に規定打席に到達した東北楽天の選手の顔ぶれを確認していこう。

東北楽天 2022年規定打席到達者一覧(C)PLM
東北楽天 2022年規定打席到達者一覧(C)PLM

 規定打席に到達した選手は6名。リーグ最多安打に輝いた島内宏明選手は、昨季の打点王に続いて2年連続で個人タイトルを獲得。打率.298も自己最高で、年間を通じて打線をけん引した。また、辰己涼介選手は昨年まで3年連続で打率.220台だったが、今季の打率は.271と急上昇。自己最多の11本塁打を記録し、課題だった打撃で長足の進歩を見せた。

 浅村栄斗選手は7年連続となる全試合出場を達成。打率こそ.252にとどまったが、リーグ2位の27本塁打を記録し、OPSも.800台と、貴重な長距離砲として活躍を見せた。小深田大翔選手は今季も遊撃手のレギュラーを務め、3年連続で規定打席に到達。打率.248に終わった昨季からの復調を見せ、自己最多の21盗塁を記録した。

 鈴木大地選手は10年連続の規定打席到達を果たしたが、打席数は過去10年間で最少。7年ぶりにOPSが6割台に落ち込むなど、2020年の打率.295をピークに成績が下降しているのは気がかりだ。新戦力の西川遥輝選手も序盤戦は絶好調だったものの、その後は不振に陥った。打率は自己ワーストの.218に終わり、前年から続く苦境を抜け出せなかった。

 阿部選手が2022年に残した成績をこの中に当てはめると、打率は島内選手、辰己選手に次ぐチーム3位に相当。安打数は同3位、本塁打とOPSでも同4位と、チーム内でも上位に入る成績を記録していた。また、二塁打は島内選手がリーグ最多の36本を記録したが、阿部選手がそれに匹敵する数字を残している点も興味深いところだ。

深刻な右打者不足に悩むチームにあって、阿部選手の加入は大きな意味を持ちうる

 また、今季のイーグルスで規定打席に到達した6名のうち、右打者は浅村選手ただ一人。100打席以上に立った選手まで範囲を広げてもその内訳は左打者が大半で、右打者としてはは捕手の炭谷銀仁朗選手と太田光選手が加わるだけだった。右の主力打者不足は非常に深刻であり、打線全体の左右のバランスを取るという意味でも大きな補強と言えそうだ。

 また、浅村選手は2022年に全143試合に出場したが、そのうち二塁手として出場したのは111試合。二塁手としてのフル稼働は難しくなりつつあるだけに、同ポジションで高い守備力を備える阿部選手の加入は意義のあるものになりそうだ。

 浅村選手は2013年に一塁手としてベストナインとゴールデングラブ賞に輝いており、阿部選手との“共存”は可能だ。打線全体の攻撃力を大きく落とさずに浅村選手を一塁手として起用できれば、長いシーズンを戦ううえで、攻守両面でチームにとってプラスとなりうる。

 もちろん、浅村選手が二塁を務め、阿部選手が一塁手や三塁手に入るかたちでの共存も可能だ。阿部選手の高いユーティリティ性は、チーム全体の選手起用の幅を広げることにもつながってくることだろう。

数奇な縁を感じる大型トレードを経て、新天地でも主力の座をつかめるか

 前年に規定打席に到達した選手のトレード移籍は、近年のNPBでは非常に稀だ。過去の例としては、糸井嘉男選手が2012年オフに北海道日本ハムからオリックスにトレードで移籍。以降の4年間で3度の打率.300超えを果たし、2014年には打率.331、OPS.948と大活躍。2016年には53盗塁でタイトルを獲得するなど、新天地でも不動の主軸となった。

 阿部選手は岩手県出身で、東北楽天は地元に近い球団となる。さらに、現チームには明治大学時代の同級生である島内選手と、ホンダ時代の同僚・石橋良太投手も在籍している。数奇な縁を感じる大型トレードを経て、大きな期待に応える活躍を見せてくれるか。生まれ育った東北に帰ってきた「マスター」が見せる熟練のプレーに、あらゆる意味で要注目だ。

文・望月遼太

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