圧巻の制球力で71年ぶりの快挙達成。加藤貴之の“歴史的シーズン”をデータで振り返る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV

“パ・リーグ元年”に生まれた記録を、71年ぶりに更新する快挙を達成

 北海道日本ハムの加藤貴之投手が、2022年シーズンに歴史的な投球を見せた。規定投球回に到達したうえで、与えた四球はわずかに「11」。この数字は、野口二郎氏が1950年に記録したシーズン与四球「14」という記録を、実に71年ぶりに更新するものだった。

 今回は、加藤投手が2022年に記録した、「年度別指標」「投球コース」「結果球割合」「球種別被打率」という4つのデータを紹介。新球場で迎える2023年の開幕投手にも指名されている左腕が見せた、過去に類を見ないレベルの快投をより深く掘り下げていきたい。

プロ入り初年度に日本一に貢献し、その後も主力左腕として活躍を続けてきた

 加藤投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

加藤貴之投手 年度別成績(C)PLM
加藤貴之投手 年度別成績(C)PLM

 加藤投手は2015年のドラフト2位で北海道日本ハムに入団。プロ1年目の2016年から先発と中継ぎを兼任し、30試合に登板して7勝を記録。幅広い役割をこなせる左腕として即戦力の期待に応え、チームのリーグ優勝と日本一にも貢献を果たした。

 その後も貴重な左腕として活躍を続け、プロ入りから2021年までの6年間のうち5シーズンで防御率3点台を記録。2019年には通常の先発に加えてショートスターターとしての登板もこなすなど、持ち前の安定感とマルチな才能を活かして奮闘した。

 さまざまな役割をこなせるがゆえに起用法が定まりきらない部分はあったが、2021年から先発に固定されるとその投球はさらに進化。2021年は自身初の規定投球回到達を果たし、10月にはプロ初完封を記録。2022年は交流戦で4試合に先発登板し、26イニングを無失点。交流戦の規定投球回をクリアしたうえでの防御率0.00は、パ・リーグの投手としては史上初の快挙となった。

 リーグ戦再開後もその勢いは止まらず。新型コロナウイルスでの離脱もありながら、8月下旬まで防御率1点台を維持。最終的には惜しくも防御率1点台は逃したが、防御率2.01というすばらしい数字を記録した。71年ぶりに年間最少四球の記録を更新したことも含め、その投球は過去に類を見ないレベルのものだったと言えよう。

2021年に先発に固定されてからは、持ち味だった制球力がさらに向上

 次に、加藤投手が記録してきた年度別指標を見ていきたい。

加藤貴之投手 年度別指標(C)PLM
加藤貴之投手 年度別指標(C)PLM

 通算奪三振率は6.60と決して高くはない一方で、通算の与四球率は2.04と優秀だ。これらの数字からも、四球を出さずに制球よくゾーン内で勝負し、打たせて取る投球を展開していることがわかる。

 過去の傾向を見ると、中継ぎが多かった2016年と2020年は与四球率が3点台、先発起用が主だったそれ以外の5シーズンは与四球率が2点台以下と、先発時は制球が良くなる傾向にある。ペース配分を考えずに済むリリーフ投手の方が先発投手よりも与四球率が低くなる傾向にある中で、加藤投手の特性は異質といえる。

 その中でも、2021年は四球率1.26、そして2022年が0.67と、ここ2シーズンにおける四球率はさらなる向上を見せている。それに伴い、奪三振を四球で割って求める「K/BB」も、2021年は4.86、2022年は8.91と大きく向上。奪三振数が少ないにもかかわらず、優秀とされる水準の3.50を大きく上回っている点は特筆ものだ。

 通算の被打率は.254と決して低くはないが、セイバーメトリクスの観点からいえば、被打率は投手によってコントロールできる要素が少なく、四球はその逆とされている。すなわち、加藤投手の圧倒的な四球の少なさは、投手としての能力の高さを反映しているということだ。

 セイバーメトリクスで重視されるK/BBは驚異的な水準に達し、1イニングで出した走者の数を示す「WHIP」も1を下回る。こうした各種の数字にも、加藤投手の投球がいかに支配的だったかが示されている。

内外角の出し入れの巧みさと、「投げ間違え」の少なさが示されている

 続いて、今季の加藤投手が結果球として記録した投球コースを紹介しよう。

加藤貴之投手 2022年の投球コース(C)PLM
加藤貴之投手 2022年の投球コース(C)PLM

 結果球の多くがストライクゾーン内で記録されており、ここにも制球力の良さが示されている。高さとしては真ん中の3コースがいずれも60球台で、次いで低めの両コーナーが多い。こうした数字は、安定してストライクを取れるということに加えて、左右どちらの打者に対しても、精度の高い内外角の出し入れを行える特性の表れと言えよう。

 また、ボールゾーンの中では真ん中低めの3コースが多い。このコースは投手からすれば変化球で空振りを取る際に狙う場所であり、加藤投手もフォークやカーブを投じるケースが多かった。これらの3コースに行く球が多いという事実は、いわゆる「投げ間違え」が少ないことを示すものでもあるだろう。

7つの球種を使い分ける緩急自在の投球で、強打者たちを手玉に取っている

 ここからは、加藤投手が2022年に記録した結果球における球種の割合を確認していく。

加藤貴之投手 2022年の結果球割合(C)PLM
加藤貴之投手 2022年の結果球割合(C)PLM

 加藤投手のストレートは130km/h台後半~140km/h台前半と決して速くはない。だが、130km/h台後半という速球とほぼ同じ速度で変化するシュートと、それと大差ない130km/h台前半のスピードで縦に落ちる決め球のフォークが、相乗効果によって速球の攻略を難しくしている。

 また、130km/h前後のカットボールと、120km/h前後の緩いスライダーという、同じ方向に曲がる2つの球種にも約10km/hの球速差が存在する。それに加えて、110km/h台のチェンジアップと、時には100km/hを下回るスローカーブといったブレーキの利いた球も持つ。7つの球種を巧みに操り、自由自在に緩急をつけることで打者の的を絞りづらくしている。

 これらの球種の中でも、ストレート、フォーク、カットボールの3球種は結果球となる割合も比較的多く、球速帯も近い。この3球種の使い分けが、加藤投手の投球の軸となっていた。

投球の中心となっている3つの球種は、被打率や奪三振の面でも優秀だ

 最後に、2022年に加藤投手が記録した球種別被打率を紹介する。

加藤貴之投手 2022年の球種別成績(C)PLM
加藤貴之投手 2022年の球種別成績(C)PLM

 結果球になる割合の多かったストレート、フォーク、カットボールのうち、フォークとカットボールはいずれも被打率1割台に抑え込んでいた。この2球種がいかに効果的だったかを端的に示す数字であり、比較的多投する傾向にあった理由もうかがえよう。

 また、チェンジアップの被打率は.100と抜群の水準にあり、カーブもシーズン平均の被打率に近い数字を記録。この2球種は投じられる割合が比較的低く、球速帯の遅さも重なって打者にとっては対応が困難だったことがわかる。

 奪三振に目を向けると、速球とフォークの2球種がとりわけ多くの数字を記録。抜群の制球で見逃し三振を奪う速球と、鋭く落として空振りを取るフォークの優れたコンビネーションは、打たせて取る投球スタイルの中でも、要所でその効果を発揮していた。

唯一無二の投球スタイルを武器に、来季以降もさらなる金字塔を打ち立てるか

 抜群の制球力を活かしてテンポよく相手を追い込んでいく加藤投手の投球は、もはや円熟の域へと達しつつある。さらに、鋭く落ちる決め球のフォーク、被打率の低いカットボールとチェンジアップ、90km/h台のスローカーブといった独自の武器も備えており、文字通りの“七色の変化球”によって的を絞らせない投球術も大きな強みだ。

 加藤投手が唯一無二の投球スタイルを備えていることは、圧倒的な与四球の少なさにも示されている。新球場で公式戦最初のマウンドを踏む投手となる来季も、持ち前の投球術で新たな金字塔を打ち立ててくれるかに注目したいところだ。

文・望月遼太

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