連載の“延長戦”こと、課外授業編の第2回です。1回目は楽天イーグルスアカデミーについてお話しました。今回は、普段のスクールでも野球教室でも伝えているキャッチボールの大切さをテーマにしたいと思います。
キャッチボールは少年野球の子どもから、社会人・プロまで全てのカテゴリーで最も重要な練習のひとつと言えます。キャッチボールは1から基本を学べますし、応用的な動きも取り入れられます。
まず“捕る”ことから
野球の特性上、投手以外はボールを捕らないと投げられないので、捕り方からお話します。イーグルスのスクールに来る小学生には、まずグラブをしっかり開くように伝えています。グラブをつけた方の手をパーにして、相手が投げたボールを手の平にパンと当てて、グラブを閉じるイメージです。窓を拭く動きのようにグラブを使うと、手の平が相手に向いて自然な形で捕球できます。
ボールを捕る時に大事なのは、足を動かすことです。その場から動かず、腕だけを伸ばすのではなく、前後左右に足を動かして、自分から捕りやすい位置に移動します。足を動かせないのは、どこに動けばいいのか分からないからだと思いますが、はじめは間違えてもいいので、移動して捕る練習をしてみてください。
相手が投げたボールに合わせて動くためには、反応しやすい構え方がポイントになります。私はたとえ話が好きなので、「ドッジボール」を例に出します。ボールを持った相手に至近距離から狙われた時、どんな体勢を取るか思い出してください。少し低く構えて、どんな方向にでも動けるように準備します。その姿勢が理想的な捕球の構え方です。
中学、高校、大学とレベルが上がっていくほど、ゴロやフライを捕る時の足の動かし方でプレーのスピードや正確性が変わってきます。早い段階からキャッチボールで習慣化すると、守備力は確実に上がります。野球はボールを捕って終わりではありません。ほとんどの場合、投げるところまでが一連のプレーになります。捕球が早く正確になれば、送球にも生きてきます。
基本の直球の握り方を知ろう
次に投げ方ですが、意外と見過ごされているのが握り方の大切さです。正しく握れていないと、指先に力が伝わらず、力強さやコントロールを欠いてしまいます。人差し指と中指は指1本分くらい開けて握り、ボールの下を支える親指は、指1本分開けた位置の真下に添えます。人差し指と中指は、平仮名の「つ」のように見えるボールの縫い目の長い方の横線にかけます。
これが、直球(フォーシーム)の握りで、よりスムーズに力を伝達できます。小学生の頃は、握りによって投げるボールに違いが出るのがわかりにくいかもしれませんが、中学、高校と力強く腕を振れるようになると握りの重要性に気付くはずです。正しく握って投げれば肩や肘への負担が少なく怪我の予防にもなるので、小学生のうちから身に付けてほしいと思っています。
強いボールを投げるためには?
ボールを投げる時には、体を横向きにします。右投げの場合は、相手に対して左肩を向ける形です。正面を向いて、相手に胸を向ける子どもを時々目にしますが、体を回転させて腕を振るのが難しくなります。
強いボールを投げるためには、軸足(右投げなら右足)にいかに体重を乗せられるかがポイントです。軸足にためた力を踏み出す足(右投げなら左足)に移し、指先まで伝えます。元々、肩が強いタイプの子どもは上半身の力だけでも力強いボールを投げられますが、下半身や体重移動を使わないと肘や肩に負担がかかってしまいます。
体重移動は体を回転させることでスムーズになります。子どもたちの動きによってアドバイスの内容は変わってきますが、軸足を強く回す意識で投げると、体が回転しやすくなります。他には腰を回すと伝える時もありますし、右投げなら左肩の位置に右肩を持ってくるように体を回すと表現する時もあります。自然な体重移動というゴールは同じですが、たどり着くまでの道は1つではありません。
ボールを投げるうえでは、強さとコントロールの2つが重要な要素となりますが、まずは強く投げることに重点を置いて指導しています。これは、打撃指導でも同じですが、強いボールを投げたり、打球を遠くに飛ばしたりできるようになると、シンプルに楽しいからです。子どもたちには野球の楽しさを知ってもらいたいですし、楽しいと感じれば自主的に練習したり、考えたりするようになります。
コントロールが安定しない選手には、2つの共通点があると感じています。1つ目は、インステップするケースです。インステップとは、右投げの場合、ステップする左のかかとが軸足の右足よりも内側(3塁側)に入っている状態で投げることを意味します。もう1つは、左肩を開いて投げるケースです。インステップし、上半身の力を使って肩を開くと投球にスピードが出る一方、リリースが安定しないのでコントロールが定まりにくくなります。
プロ野球選手もキャッチボールを大事にしています。先ほどお話した足を動かすのは基本で、野手であれば送球につながる捕球の動きをキャッチボールの中に取り入れます。ステップを入れるのは一般的ですが、私は外野手だったので、後ろを向いた状態から反転して送球する練習をよくしていました。試合でクッションボールを処理して、内野手に中継するプレーを意識した動きです。他にも、横に走って体勢が崩れた状態から送球したり、普段とは逆の右足を前にして投げたりする練習もしました。右足を前に出して投げるのは、体をしっかりと前に倒せているか体の使い方を確認するためです。
ある程度、投げる土台ができているのであれば、小学生でも片脚で投げたり、少し体勢を崩して投げたりする動きを入れても良いと思います。体がバランスを取ろうとするので、運動神経の発達を促す効果が期待できます。ランニングスローは腕だけではなく足を使って投げられれば、キャッチボールのメニューに加えても良いと思います。中学、高校とステージが上がったら、同じ練習内容でも自分の重心を感じたり、体の軸を保ったりして投げる動きにステップアップしていきます。
キャッチボールは空間認知能力の向上にも効果が
キャッチボールをする場所がない時にオススメなのは、セルフキャッチボールです。自分でボールを真上に投げて、自分でキャッチします。体を上手く使わないと、上にボールを投げるのは難しいです。特に、リリースが早くなってしまう選手には良い練習になります。
小、中学生のうちは、キャッチボールが打撃にも生きてきます。ボールを捕るには、飛んでくるボールの場所とタイミングを合わせてグラブを閉じなければいけません。空間認知能力が必要で、投球に対してコース、高さ、タイミングを合わせてバットに当てる打撃と通じる部分があります。横向きで構える打撃と正面を向く捕球の動きには違いがあるので、カテゴリーが上がるとキャッチボールが打撃につながる面は少なくなります。ただ、スピードに慣れる点では効果がありますし、空間認知は走攻守あらゆるプレーに生きてきます。
キャッチボールは野球が上手くなる要素が詰まった練習です。第一段階は「握り」、「横向き」、「軸足」の3つがポイントです。そして、キャッチボールは相手がいる練習なので、どこに投げたら相手が捕りやすいのかを考えることも大事にしてください。
過去の連載
【Vol.1】子どもが「プロ野球選手になりたい!」と言ったら親はどうするべき?
【Vol.2】軟式か硬式か。高校は強豪校に入るべきか。悩める進路の話
【Vol.3】鉄平流・プロになるための練習
【Vol.4】大人はどうサポートする? 土谷家の場合
【Vol.5】私がプロ野球選手になれたワケ 鉄平が振り返る学生時代のとある大きな決断
【Vol.6】プロ生活で抱いた苦悩と挫折。それでもプロ野球選手になってよかった!
【課外授業編Vol.1】子どもの社会性も育つ「楽天イーグルスアカデミー」ってどんなところ?
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