私がプロ野球選手になれたワケ 鉄平が振り返る学生時代のとある大きな決断

パ・リーグインサイト 土谷鉄平

2022.7.19(火) 17:00

教えて!鉄平先生!(C)PLM
教えて!鉄平先生!(C)PLM

2つの“転向”がプロ行きのきっかけに

 連載も残り2回になりました。毎回ご意見やご質問をいただき、ありがとうございます。皆さんから感想が届くのを楽しみにしています。できる限り、参考になる内容を伝えていけたらと思っております。今回は、プロ野球選手になれたターニングポイントをテーマにお話しします。現役を引退してから振り返ってみると、大きな転機が2つ思い浮かびます。

 1つ目は野手に転向したことです。小学生で少年野球チームに入ってから、主に投手をしていました。ところが、中学2年生の時に練習で遠投をしていたら腰を痛めてしまいました。病院で検査を受けた結果ヘルニアと診断されて、約3カ月間、体を動かせませんでした。この時に、当時の監督が「このまま投手を続けたら、また腰を痛めて、将来を台無しにするかもしれない」と判断して、ショートに専念することになりました。

 そして、中学の監督は、私が進学する高校(大分県立津久見高)の野球部の監督にも「投手はできるけど、おそらく腰がもたない。将来を考えて野手に専念させてほしい」と伝えてくれたそうです。高校の監督も私の将来を考えて配慮してくれました。もし、成長期の体に負荷をかけてヘルニアを再発させていたら、怪我で野球を続けられなかったかもしれませんし、高校時代にプロのスカウトの目に留まらなかったかもしれません。2人の監督には感謝しています。

 早い段階で野手に専念できたのは、打撃の技術を身に付ける面でもメリットがありました。もう1つのターニングポイントになるのですが、私は小学6年生の時、イチローさんに憧れて左打者に転向しました。しかし、最初は全然バットの芯にボールが当たらず。左打席で初めてクリーンヒットを打ったのは、中学1年から2年になるタイミングの練習試合。本格的に左へ転向してから1年以上かかりました。うれしくて今でも忘れられません。投手をしていた頃はシャドーピッチングをしてから素振りするのが日課だったので、打撃に使う時間は自主練習の半分でした。野手に専念したことで打撃に100%集中できるようになり、上達、成長の速度が上がりました。

 左打者になってスピードが生きるようになった点も大きかったと思います。ドラフトで指名を受ける時に中日のスカウトの方からは「特に評価したのは打撃とスピード」と言ってもらえたので、右打者よりも一塁ベースに近い左打者に変えてよかったと感じました。

イチローさんにあこがれて

 スピードを磨く打ち方も研究しました。参考にしたのは、イチローさんの打撃フォームです。当時は軸足を固めてスイングするのが当たり前でしたが、イチローさんは軸足となる左足を投手方向にずらしながら打っていました。一塁に走り出す予備動作がスイングに含まれているので、一塁へ走り出すスピードが速いわけです。イチローさんが、その場で軸足を回転させる一般的な打ち方をしていたら、あれほど内野安打は多くなかったと思います。しかも、当時は軸足を固めずにスイングすると飛距離が出ないと言われていた中、軸足をずらすタイミングと体の使い方さえ正しくできれば本塁打も打てると、イチローさんは証明しました。

 プロに入ってからも、いかに一塁まで速く到達できるかを追求しました。その1つが、途中でスイングを止める打ち方です。打率3割で一流と言われる失敗の方が多い打撃では、なかなか理想通りの打球を飛ばせません。そこで、内野ゴロを内野安打にするため、打ちにいってゴロになると思った瞬間に一塁へ走り出します。バットにボールが当たる直前に「駄目だ」と分かるので、振り切らずにスイングを途中でやめます。一歩でも半歩でも速く一塁に向かった方がセーフになる確率は高くなるからです。

自分のタイプを客観視してみよう

 プロの選手を間近に見てきて、もし自分が投手を続けていても、ドラフト候補にさえ挙がらなかっただろうなと感じます。右打者のままでも、プロとは縁がなかったと思います。左右の打席を比較すると、プロに入ってからも右打席の方が長打力はありました。ロングティーでは、左打席だと思い切りスイングして何とか柵越えするのに対し、右打席は普段練習していなくても悠々スタンドまで運べました。

ただ、そのくらいのパワーや長打力のある右打者は溢れるほどいます。スピードを生かした左打者が、(私の場合は)プロになる唯一の道だったと言えます。野手への専念や左打者への転向は、投手や右打者では先のステージで通用しないという挫折に近い気持ちもありましたが、結果的には自分の能力を最大限に生かすベストな方法だったと考えています。

 プロに入ってからも、自分の特徴を発揮する方法を模索しました。私くらいの体格の選手がバットを振り回しても、相手投手は怖くありません。どんなコースや球種にも対応されたり、出塁されたりする方が嫌なわけです。自分のタイプを知ることが重要になります。

 選手として、コーチとして、たくさんの選手を見てきた中で、自分を客観視できるかどうかは、プロでの成績に深く関わってきます。これは少年野球でも高校野球でもカテゴリーを問わず共通しているかもしれませんが、自分に足りないところを理解して修正できないと技術は上がっていきません。能力が高くても伸びない人は、自分の考え方以外を受け入れられないように感じます。こだわりを持つのはすごく大事ですが、時に成長を止めるマイナス要因となります。指導者は基本的に、厚意でアドバイスしてくれます。第三者が「直してみたら」という部分は、少なくとも試してみた方がプラスに働くと思います。

 自分自身の現役時代を思い返すと、守備と走塁は、ほとんど指摘された通りに修正してきました。難しいのは打撃です。打撃は感覚の部分が大きいので、他の人の言葉が自分の中で消化できない時があります。それでも、一度はやってみて、感覚的に合うものを取り入れる取捨選択が長くプレーするためには重要です。

 プロに入ってからコーチによく指摘されたのは、先ほどお話した一塁に速く到達するための「走り打ち」です。走り打ちが過ぎると言われました。打ってから走り出すまでがどんなに速くても、そもそも安打性の打球を飛ばせなければ本末転倒です。指摘に納得できる点はあったので、しっかりバットを振ったうえで速く走り出すように練習しました。もちろん、長距離打者のように後ろに反りかえるようなスイングには変えません。一塁に速く向かうという大前提は保って、しっかり振るスタイルに少し寄せたイメージです。

 今振り返れば、プロになれたのは野手に専念し、左打者に転向したことが大きかったと思っています。目標をかなえる時にはターニングポイントが来ます。ただ、きっかけは偶然には訪れません。楽に技術が身に付いて、プロになる方法があれば、プロ野球選手を目指す子どもたちに教えたいですが、今のところ見つかっていません。目標に向かって努力して、野球と真剣に向き合っていれば、大きなきっかけが転がり込んでくるはずです。

読者からの質問コーナー 教えて! 鉄平先生!

Q.現役の選手で天才だと思う打者はいますか?

A.右打者は巨人の坂本勇人選手、左打者はオリックスの吉田正尚選手です。坂本選手は自分のスタイルを維持しながら、相手投手に対応する技術が非常に高いと感じます。タイミングの取り方やポイントを投手や場面によって変えられる引き出しが多くて驚きます。吉田正選手はスイングが理想的。あれほど無駄のないスイングは見たことがありません。小さい動作で打球を遠くに飛ばせるのは、並外れた筋力があってこそだと思います。

Q.流し打ちのコツはありますか?

A.体の正面にボールをトスしてもらう真横からのティー打撃は、外角の対応や流し打ちの練習になります。外角を打つポイントにボールが来るので、バットの芯に当てて打ち返すには流すしかありません。それぞれの選手を見てみないと分からない部分はありますが、流し打ちが苦手な選手は外角を打つためのポイントまでボールを引き付けられていなかったり、体の軸が倒れてバットのヘッドが寝てしまったりするケースが多いです。

Q.打撃がスランプの時はどうしていましたか?

A.考え方は2つあります。1つは徹底的に原因を究明して猛練習します。少しでも早く修正しようという方法です。もう1つは全く逆の考え方です。バットを振らずに走り続けたり、完全に休んだりします。疲労やメンタル面の問題がスランプの原因になっている可能性があるためです。いつもと同じことをせず、極端に振り切るやり方を選んでいました。

Q.今さらですが、なぜ登録名を鉄平にしたのですか?

A.名字の土谷は自分でも言いにくさを感じる時がありますし、鉄平の方が周りの人たちが覚えやすいと思ったからです。子どもの頃から、ほとんどの人に鉄平と呼ばれていたので、個人的にも土谷と呼ばれることにあまり慣れていません。


取材:間淳

過去の連載

【Vol.1】子どもが「プロ野球選手になりたい!」と言ったら親はどうするべき?
【Vol.2】軟式か硬式か。高校は強豪校に入るべきか。悩める進路の話
【Vol.3】鉄平流・プロになるための練習
【Vol.4】大人はどうサポートする? 土谷家の場合

記事提供:

パ・リーグインサイト 土谷鉄平

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