【Vol.1】子どもが「プロ野球選手になりたい!」と言ったら親はどうするべき? 教えて!鉄平先生!

パ・リーグインサイト 土谷鉄平

2022.3.18(金) 17:00

教えて!鉄平先生!(C)PLM
教えて!鉄平先生!(C)PLM

「プロ野球選手になりたい!」そんな子どもやその親御さんに鉄平さんが、「プロ野球選手のなり方」を伝授。アカデミーコーチをしていた経験をもとに、どんな子がプロになるのか、プロ野球選手のなり方というそもそも論から、親としての心構えなど、「鉄平式プロ野球選手の育て方」を全6回に分けて語ります。第1回のテーマは、【子どもが「プロ野球選手になりたい!」と言ったら親はどうするべき?】です。

◇ ◇ ◇

 こんにちは。土谷鉄平です。

 この度「教えて!鉄平先生!」というコラムを書かせていただくことになりました。昨年まで東北楽天ゴールデンイーグルスでコーチ業をしておりまして、今年からフリーで活動しています。野球の解説をしたり、スポット参戦ですがイーグルスのアカデミーコーチをしたり、趣味のギターを鳴らしてみたり。挑戦したいことを見つけながら、そして楽しみながらをモットーに生きていきたいと思っています。

 やりたいことはまだまだあるのですが、根底には野球をたくさんの人に広めたいという気持ちがあります。近年、野球人口はどんどん減少しており、野球人としてこの現状は寂しい限りです。何とかこれを回復させるためには、これからの時代をつくる子どもたちに、もっと野球を知ってもらうことが不可欠です。その中で、このコラムのお話をいただき、快諾させていただきました。自分なりの思いを伝えていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 まずは自己紹介も兼ねて私の野球歴を紹介します。

 野球を始めたのは小学校1年生からで、ずっと球拾いをしていました。4年生から試合に出始めて、5年生からレギュラーに。プロでは左打者として活躍しましたが、元々は右打者。イチローさんの出現によって左打者へのあこがれが強くなり、中学校から本格的に左打者に転向しました。

 高校は大分県内の津久見高校に行きまして、甲子園は出られなかったですが、遊撃手でプロ入り。のちのち外野手になりましたが、元々は内野手でした。

 プロ野球選手になることを意識し始めたのは、中学校3年生くらい。実際に「届くかも」と思ったのは、高校1年生の時にスカウトが観に来たことを聞くようになってからです。実際にスカウトの方が来て、より意識するようになりました。

 片田舎にスカウトが来るなんて一大事ですからね。「マジか」って周りの部員も張り切ってました。

 プロ野球選手になろうと決めてからは、とにかく野球に対して真摯に向き合いました。「生活の一部が野球」ではなく、「生活の全てが野球」。誰かに聞いたわけでもなければ、そうしましょうと書いていたわけでもないですけど、そのくらいフルコミットしないと届かない気がしたので。

 意識を変えないとダメだというか、グレードアップさせなければいけない。常に野球、特に打撃のことを考えて。もともとやっていたことの方向性はおそらく間違っていなかったので、どうすれば打てるようになるか、強い打球が打てるかなど、なにか思いついたらひたすら練習をしていました。

 私の場合は自分で練習の仕方を見つけていました。なかなか聞けることでもないので。運が良かった部分もあると思いますが、たまたま好きだった練習が的を射ていました。今振り返ってみれば、あの練習良かったなというものを好き好んでやっていたので。その練習が大事だと感じるセンスがあったのかもしれません(笑)。その練習方法も後日お伝えできればと思います。

 プロ野球選手になって良かったことは、変な話ですがお給料が高かったこと。他には普通では入れないような場所に入れることです。プロ野球の本拠地球場だって普通は入れないですから。芸能界の方とも知り合ったりできますし、普通に生活をしていたらなかなかできない経験ができました。

 ただ、プロ15年間を振り返ってみると、8割以上は苦しかったです。しんどかったというほうがいいかな。戦い続けないといけないですし。そのなかで1割程度、報われることがあるかどうかの世界でした。

撮影:東海林諒平
撮影:東海林諒平

子どもに「プロ野球選手になりたい!」と言われたら

 答えはとてもシンプルです。まずはその夢をとにかく応援してあげる。ただ、どの程度携わってサポートしていけるかなど、家庭によってさまざまな二人三脚の形があると思います。また、自分でやりたい子もいたり、いろいろ手伝ってほしい子もいたりと、どの程度望んでいるのかも違います。

 できる環境、できない環境は家庭によってさまざまなので一概には言えないですけど、自分の子どもが野球選手に限らず、将来こうなりたいという「目標」を立てることができた。「夢」を持つことができた。まずはその事実に賛辞を贈ってほしい。

 言うか言わないかは別として、「プロ野球選手? 無理でしょ」と思う親御さんは多いと思います。絶対にそれは心の奥底に閉まって、とにかく子どもたちの背中を押してあげてください。

 仮に親から反対されてしまったとしても、子どもたちには諦めずに突き進んでほしいです。プロ野球選手を目指すのは自由なことだし、プロ野球選手になれるかどうかを親が決めるわけでもない。落ち込むかもしれないですけど、やると決めたらその目標に向かって走る。親の意見が変わるくらい、努力している姿を見せましょう。

子どもの夢に向かって二人三脚。保護者のサポートについて

 まずは環境を整えてあげること。それにはお金もかかってきますけど、とにかく練習しないといけないので、野球塾を探す、12球団のベースボールアカデミーに連れて行くなど。少しでも多く子どもが野球に携われる環境をつくってあげることが重要です。

 今の時代だと、YouTubeの動画を探してくるのも一つの手ではあります。こういうのがいいよと見つけてきてあげて、一緒に実践できればなお良い。こんな形で一緒に歩んでいけると、子どもも気持ちが乗っていきます。

 ただ、気を付けてほしいのは、「こうしなければいけない」というやり方はあまり無く、全てはやり方の一つであること。ある程度似た意見もあれば、右打者と左打者で全く違う意見もある。「この人が言っていたからこうしなさい」ではなく、さまざまな人の意見があり、「方法の一つとして発信している」という意識を忘れないことです。たまたまYouTubeで観たからこうしなさい、というのは危ない。

 逆にこれだけ情報量が多い世の中だと、試しすぎるのもこれはこれで危険です。何をチョイスするのか。運も絡んできますし判別も難しいですが、肌感覚でも良いので、実際に試してみてこの動きがやりやすい、しっくりくるなど。取っ掛かりはそのくらいで良い。

 情報を得るのは決して悪いことではありませんが、全てを信用せず、自分に合ったものを吸収していく。憧れの選手に近付こうとするのではなく、一人の野球人としてその技術を取り入れて完成させていくイメージです。そこが最終地点というのを頭に入れて。材料の一つとして情報を取り入れてください。

「プロ野球選手になる」。大きな目標を達成するための考え方

 有名なプロ野球選手のなかには、小学校くらいから「なりたい」じゃなくて「なる」と明確に目標設定して、どういう選手になるかというビジョンまで考えていた人もいます。それができればいいですが、一段階手前の部分があります。本当にベタな言い方ですが、「楽しむ」こと。

 ただ、子どもたちに「楽しんでおいで」って伝えると、本当に楽しんでくるだけ。それも一つの楽しみ方としては間違いではないと思うし、そういう人もいていいと思います。

 ただし今回は「プロ野球選手になりたい」というテーマなので、勝つことを楽しむとか、技術が身に付く、上達することが楽しいとか。プレーすること自体が楽しいというよりは、もう一つレベルアップした楽しみ方。このようなマインドになれると良いと思います。

 まずはそこが第一歩。「やるだけで楽しい」から、「うまくいくことが楽しい」、「試合に勝てたら楽しい」、「ならばこういう練習をしよう」と、つながっていきます。その一歩を踏み出したら、「なりたい」から「なる」に意識を変える。そしてとにかく頭を使って練習をする。それに加えて、短期、中期、長期に分けて目標を立てられると、「プロ野球選手になる」という大きな目標にグッと近付くと思います。

伸び悩んでいる子どもに対して周りの大人にやってほしいこと

 子どもによってアプローチの仕方が変わるので一概には言えないですが、小学校くらいのレベルであれば「伸び悩む」とか「スランプ」があるのはほぼ気のせいです。ただ、やっている本人はうまくいかないって思ってしまう。なので周りの人にやってほしいのは、できるだけ気にさせないこと。できていないからがんばれではなく、スランプを忘れさせるようなアプローチをしてあげる。

「最近野球どう?」といった質問でさえ気にしてしまうかもしれない。子どもにはメンタルのバックアップ機能がないため、突き詰めてがんばっている子ほど、うまくいかなくなった時に崩れる可能性があります。忘れさせてあげて、気づいたら元通りになっているのが望ましい。ただしこれも千差万別で、あきらかに体の動きがおかしい場合や、怪我をしてるとか。原因がメカニック的に見えて取れるならば、それは伝えるべきです。

 アカデミーで落ち込んでいる子どもに対して、「ミスしない選手なんかいないから」、「プロ野球選手でもたくさん三振するし、エラーもいっぱいするから、ミスしても落ち込む必要はないよ」、「大事なのはミスをしないためにどうすればいいかを考えることだから」、「全然落ち込む必要はないよ。僕も三振してきたし、エラーしてきたから大丈夫。思い切ってやろうよ」といった声掛けはたくさんします。気負いすぎるのも良くないし、気負わせすぎるのもよくない。子どものメンタルに関わるデリケートな部分ではありますが、適切な対応を取って忘れさせてあげましょう。

 最後になりますが、「プロ野球選手になりたい」と子どもに伝えられた親御さんは、どういう形であれ応援をする。目標設定ができたことに対して、手放しで喜んであげてほしいですね。また、家庭環境にはよりますが、できる限りの環境づくりをしてあげて、親子の夢として一緒に歩くこともあれば、陰から子どものことを見守るときも来ます。そんな風に子どもが気負わずのびのびと野球ができるような接し方が望ましいです。


 今、静岡でこの原稿を書いています。楽天イーグルスのオープン戦の解説に来ました。昨年まで一緒に戦ってきたみんなとは、久しぶりの再会です。と言っても、感染症対策のため、グラウンドに降りることはできないのですが…… 。いよいよプロ野球も開幕しますね。なかなか不便な時代ではありますが、熱く盛り上がるシーズンを期待しつつ、皆さんと一緒に一人のファンとして、私も楽しみたいと思います。

・土谷鉄平(つちや・てっぺい)
1982年12月27日生まれ、大分県大分市出身。津久見高校時代から、2000年のドラフト5位で中日に入団。プロ6年目の2006年に楽天へ移籍するとレギュラーに定着し、2009年には打率.327で首位打者に輝いた。その後オリックスへの移籍を経て2015年限りで現役引退。引退後は、楽天のアカデミーコーチ、二軍外野守備・走塁コーチ、一軍打撃コーチを務めた。現在は球団を離れ、野球解説者として活躍の場を広げている。

読者からの質問コーナー!答えて!鉄平先生!

Q.鉄平さん自身が「プロ野球選手になりたい」と、親に打ち明けたのはいつごろですか?

A.打ち明けたことないですね。私がプロ野球選手になると親族が知ったのは、チームの監督が親に連絡した時だと思います。親からしたらびっくりですよね。特に言う必要が無かったので。全力で野球をやっているし、わざわざ言わなかったというか。ドラフトで指名されたときは、喜んでくれましたよ、多分(笑)。田舎のおじいちゃんが庭を改装して記念碑とか立ててました。

Q.レギュラーシーズン中のひそかな楽しみは?

A.部屋でゲームしてました・・・と書くと暗っ。まあいいか。「ファイナルファンタジー」シリーズはやりこみました。ストーリーもさることながら、音楽も最高なんです。「X」(10)の楽曲「ザナルカンドにて」が大好きで、アコースティックギターで弾いてみたりしています。

◆鉄平さんへの質問を募集中!
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◆【Vol.2】軟式か硬式か。強豪校かシニアチームか。悩める進路の話は4月中旬に掲載予定!

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記事提供:

パ・リーグインサイト 土谷鉄平

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