2021年9月4日、球団生え抜き初の通算2000安打を達成した埼玉西武・栗山巧選手。ライオンズ一筋20年のベテランの記録達成に、球団・ファンともに祝福ムード一色だ。2004年のプロ初安打から始まり、栗山選手がライオンズで積み重ねてきた数字。そのバットが生んだ2000安打の中でも、今回は2018年9月17日の試合で放った一打を振り返りたい。
2018年9月17日 10年ぶりリーグ制覇へ、天王山での一打
チーム打率.273、792得点と圧倒的な破壊力を誇った打線を中心に、開幕から快進撃を続けていた2018年の埼玉西武。その一方で前年王者の福岡ソフトバンクも夏場以降調子を上げ、逆転優勝へ猛追していた。2011年から7年にわたってシーズン負け越しと苦手意識も少なからずあった相手だけに、鷹の追い上げは脅威であった。
優勝争いはシーズン終盤の9月に入り、9月15日、3.5ゲーム差で首位攻防3連戦を迎える。ファンの不安をよそに初戦は相手エース・千賀滉大投手を打ち崩し大勝、次の試合も序盤から大量リードを奪って勝利を収めた。優勝への期待が膨らむ中、3戦目となる17日の相手先発はミランダ投手。前回対戦では9回途中までわずか2安打1得点に抑え込まれた左腕だった。
しかし、栗山選手のこの一打が不安を吹き飛ばす。初回、先頭の秋山翔吾選手がヒットで出塁すると、3番・浅村栄斗選手、4番・山川穂高選手も四球を選び満塁として、打席には5番・栗山選手。チャンステーマが鳴り響く中、カウント2-1から内角低めの直球を捉えた。
「会心でした」。そう一言残した打球はファンの大歓声を受けながら、バックスクリーンに吸い込まれていった。
この一打で完全に試合の主導権を奪い、投手陣も好投。4対1で迎えた終盤には、同期の中村剛也選手にもダメ押しの26号3ランが飛び出した。勝利したチームは優勝マジック11が点灯。本拠地ファンの歓声に迎えられ、お立ち台にはベテランコンビ・栗山選手と中村選手が上がる。
同期・中村選手とお立ち台「情けない思いもしてきましたけどね……」
「情けない思いもしてきましたけどね……こうやって今日は(お立ち台に)2人で立つことができて良かったです」
ヒーローインタビューで語った、この言葉が印象的だった。10年前、2008年の優勝を知る2人。しかし、中村選手は前半戦、かつてない不調に苦しんだ。栗山選手自身も前年から、ケガの影響や若手の台頭もあって出場機会を減らしていた。
前年の2017年8月17日、栗山選手が放った“炎獅子ユニフォーム”最終日のサヨナラホームランは、代打での一発だった。「チームが強すぎて出番がないですが、強いに越したことはないので」。ヒーローインタビューでは笑いながらそう言ったが、その裏には思い通りのパフォーマンスができないもどかしさもあったのではないだろうか。
そうした苦しい期間も経て、10年ぶりの優勝がかかった大事な時期に2人がそろって活躍。中村選手は後半戦に一気に調子を上げ、6試合連続ホームランなど7月以降だけで25本のホームランを放った。栗山選手も9月上旬に離脱した外崎修汰選手に代わって主に5番を務め、9月は打率.309をマーク。まだまだやれると、自ら証明してみせた。
『打って驕らず。達して止まらず。』栗山選手はこれからも進み続ける
リーグ優勝を果たした翌年、2019年8月31日には球団新記録となる通算1807本を記録。2020年は打率.272、得点圏打率.330の勝負強さで不調に陥った打線をリードした。そして2021年9月4日、ついに2000安打を達成。祝福の花束を渡したのは、他でもない中村選手だった。
記録達成後初のホームゲームとなった9月7日の試合では2安打を放ち、ヒーローインタビューでは「これからも期待されるような選手になっていきたい」とコメント。栗山選手にとって2000安打はひとつの通過点。『打って驕らず。達して止まらず。』――彼の伝説はどこまでも続く。
文・丹羽海凪
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