2017年にはパ・リーグの3割打者はわずか2名だったが……
「3割打てば一流」という言葉がある通り、シーズン打率3割は多くの選手にとっての一つの目標となっている。しかし、実際に規定打席に到達したうえでシーズン打率3割を達成できる選手の数は、そう多くはないのが実情である。実際、今から2年前、2017年のパ・リーグにおいて、3割打者が秋山翔吾選手と柳田悠岐選手の2名だけという希少なケースが生じたこともあった。
しかし、その後は2018年が5名、2019年が6名と、直近2年間におけるパ・リーグの3割打者の数が再び増加傾向にある。そして、2019年にシーズン打率3割を達成した6名の選手たちの顔ぶれを実際に見てみると、先程の「3割打てば一流」という言葉が納得できるような、実績十分の選手たちが多く顔をそろえていることがわかる。その顔ぶれと、各選手の成績は以下の通りとなっている。
各選手の所属球団を見ていくと、埼玉西武が2名、北海道日本ハム、楽天、千葉ロッテ、オリックスが各1名ずつと、2019年には6球団中5球団が3割打者を輩出したことになる。唯一3割打者なしとなった福岡ソフトバンクに関しては、2014年から5年連続で打率3割を記録していた柳田選手の長期離脱の影響も大きいだろう。実力者が多く在籍するチームなだけに、2020年には再び3割打者を輩出してほしいところだ。
とはいえ、一口に3割打者といっても、当然ながらその特徴はそれぞれ大きく異なってくるものだ。そこで、今回は2019年にシーズン打率3割を記録した6人の選手たちについて、データを基に分析したうえで、各選手の優れている点についての解説を行っていきたい。
森友哉選手(埼玉西武)
2019年、見事に自身初となるパ・リーグ首位打者の栄冠に輝いた森選手。捕手としての首位打者獲得は、野村克也氏、古田敦也氏、阿部慎之助氏に続く、史上4人目の快挙となった。先述の3名はいずれも通算2000本安打の達成者でもあり、球史に名を残すレベルの名選捕手といえる存在だ。森選手が今後さらなる成長を続け、3名の先達と同様の名捕手となれる可能性は十二分にあるだろう。
捕手というポジションは、一般的に試合経験を積むことが重要となポジションといえる。そのため、高卒の早い段階から台頭してくる選手は少ない傾向にある。しかし、森選手はルーキーイヤーの2014年にいきなり一軍で41試合に出場して打率.275、6本塁打と才能の片鱗を見せ、翌年には外野と指名打者を務めて早くも規定打席に到達。主力打者としての地位を固めた後に捕手に再コンバートされ、若くして正捕手の座を確固たるものとしている。
球場で森選手の打撃を目にした際に、その豪快なスイングに魅了されるファンは少なくないはず。しかし、森選手の特徴はむしろ安定した打率と出塁率にある。プロ入り後の6年間全てで打率.275、出塁率.350を上回っており、若さに似合わぬ安定した打撃を見せている。捕手という守備の負担が大きいポジションにあって常に計算できる数字を残している点も、森選手の優れた部分の一つと言えそうだ。
また、2019年は自身初の20本塁打超えとなる23本塁打を記録し、打点も105打点と自身初めて3桁の大台に乗せている。先述の通り、これまでは中距離打者としての側面が強かった森選手だが、このまま本塁打数も伸びていけば、将来的には「打率.300、30本塁打、100打点」の快挙も見えてくる。まだ24歳という若さもあり、「打てる捕手」としてのさらなる成長にも期待がかかるところだ。
吉田正尚選手(オリックス)
吉田正選手といえば、バットを折りながら打球をスタンドに叩き込んだこともあるほどの豪快なフルスイングがつとに有名だ。しかし、そのパワーに加えて確実性も兼ね備えているという点が、この和製大砲にさらなる魅力を加えている。最初の2年間は故障に苦しみ、それぞれシーズンのおよそ半分を棒に振っていたが、椎間板ヘルニアの手術を経て迎えた2018年からは2年連続で全試合出場を達成し、その打棒を余すところなく披露している。
打率ランキングでも2018年は4位、2019年は2位と、規定打席に到達した2年間は揃って上位をキープしており、打席における対応力の高さはリーグ屈指だ。また、本塁打数も2018年は7位タイ、2019年は8位と、共にリーグ内のトップ10入りを果たしており、2019年には29本と30本の大台目前まで迫っている。持ち前のパワーが本塁打というかたちでも表れつつあることは、打者としてのさらなる成長を示してもいるだろう。
加えて、出塁率は3年連続で.400を超えており、高い打撃技術に加えて、優れた選球眼を持ち合わせているのも吉田正選手の長所の一つだ。さらに、2018年にはリーグ2位の37本の二塁打を記録するなど、本塁打だけでなく二塁打の数も多い。それゆえ、長打率の部門においては2018年が3位、2019年が2位と、2年続けてリーグトップクラスの数字を記録しているのも納得だ。
そのため、出塁率と長打率を足して求める「OPS」という指標において、吉田正選手は素晴らしい数字を記録している。2017年はOPS.928、2018年と2019年は2年連続でOPS.956と、安定して高水準の数字を叩き出した。OPSは得点との相関性が高い指標としても知られているため、吉田正選手がいかに対戦相手の驚異となっているかは指標の上でも示されているといってよさそうだ。
荻野貴司選手(千葉ロッテ)
荻野貴選手はプロ初年度から相次ぐ故障に苦しめられ続けていたものの、試合に出場できる状態ならば高い能力を有していることは広く認められていたところ。そして、2019年にプロ10年目にして初めて規定打席に到達し、その打率は堂々のリーグ3位となる数字を記録。その他の数字も軒並みキャリアハイとなる数字を残しており、34歳にして自己ベストのシーズンを送った。
2019年も故障で短期間戦列を離れた時期こそあったものの、ほぼ年間を通して一番打者としてチームをけん引。出塁率.371という高水準の数字を残し、チャンスメーカーとして安定した活躍を見せた。ただ、前年までは出塁率が.350を超えた年は2度のみと、卓越した選球眼を有していたというわけではなかった。34歳にして選球の質を高め、打撃面におけるさらなる成熟を示したと見てよさそうだ。
また、2019年に記録した三振数は、規定打席到達者の中では内川聖一選手(福岡ソフトバンク)に次ぐ2番目の少なさだった。荻野貴選手は通算201盗塁(2019年シーズン終了時)を記録した俊足の持ち主でもあり、ボールがフェアゾーンに転がるだけで相手守備陣にプレッシャーをかけられる存在でもある。あっさり三振で終わることが少ないということは、それだけ相手に重圧を与える機会が増加することにもつながっている。
先述した通り、荻野貴選手といえばなんといっても新人時代からずば抜けていたその脚力がつとに有名だ。故障の影響もあって盗塁王の獲得経験こそないが、通算の盗塁成功率は84.5%(2019年シーズン終了時)と極めて高い水準を維持している。脚力に加えて打率と出塁率も向上し、さらに三振も少ないという、まさにトップバッターにうってつけの才能を有している荻野貴選手。2020年も規定打席に到達し、切り込み隊長として変わらぬ躍動を見せてほしいところだ。
銀次選手(楽天)
銀次選手は2013年と2014年に2年連続で打率.300超えを記録し、2015年も規定打席未満ながら打率.301を記録。若くして安定感抜群の打撃を見せていたが、2016年から3年間は打率.300未満に終わるなど、銀次選手の実力からすればやや苦しむ期間が続いていた。2019年に記録した自身4年ぶりとなる打率.300超えは、かつて首位打者を争った好打者にとって、久々に年間を通して本来の打撃を見せ続けられたシーズンと言えそうだ。
銀次選手はコンスタントに安打を積み重ねてチームに貢献するタイプの選手であり、本塁打数は2018年と2019年の5本が自己最多。分類するならば、典型的な短距離打者タイプと言える。その代わり、2019年の三振数は58個と、規定打席到達者の中では内川聖一選手(49三振)、荻野貴司選手(同56)、福田周平選手(同57)に次ぐ、リーグ4位の少なさだった。この三振の少なさも、銀次選手の卓越したミート力による部分が大きいだろう。
三振が少ない好打者の中には、先述した内川聖一選手のように好球必打の傾向が強く、あまり四球を選ばないスタンスの打者も少なくはない。しかし、銀次選手は三振の少なさに加えて、四球を選ぶ能力にも長けているのが特徴だ。2013年から7年連続で出塁率は.340を超えており、そのうち6度は出塁率.359以上という抜群の安定感を誇っている。長年に及ぶ三振数の少なさを考えれば、この出塁率の高さは特筆に値するはずだ。
2014年には当時オリックスに所属していた糸井嘉男選手と熾烈な首位打者争いを演じた銀次選手だったが、最終盤まで続いた競り合いに惜しくも敗れて自身初のタイトル獲得はならなかった。あれから6年。元々有していた高い打撃センスに加え、より円熟味を増した杜の都の好打者が、再び首位打者争いに顔を出したとしても、何ら不思議ではない。
秋山翔吾選手(前・埼玉西武)
NPB史上最多となるシーズン216安打を記録した2015年の活躍を筆頭に、1度の首位打者、4度の最多安打と、近年のパ・リーグを代表する安打製造機として目覚ましい活躍を続けた秋山選手。長きにわたってチームのトップバッターを務めてきただけでなく、連続試合フルイニング出場のパ・リーグ記録を更新したタフさも兼ね備えていることもあり、2015年から5シーズン連続で、その打席数と打数はリーグ最多の数字を記録し続けている。
打数が多いということは、それに比例してより多くの安打数を積み重ねなければ、高い打率は残せないということにもなる。しかし、毎年休みなく出場を続ける中で、秋山選手は直近5年間で4度の打率.300超え、そしてリーグ最多の安打数を記録。5年連続で170安打以上を記録してきたその安定感は、球界全体を見渡してもまさに図抜けたものだった。
また、2017年からは3年連続で20本以上の本塁打を記録しているように、近年は長打力の増加も目覚ましい。打点を稼ぎにくい一番打者を主に務めながら2017年から2年間は80を超える打点を記録するなど、ポイントゲッターとしての能力も向上しており、リーグを代表する強力打線の中でも欠かすことのできない存在の一人となっていた。
もちろん、トップバッターに求められるチャンスメイクという点でも、秋山選手は極めて優れた能力を有している。出塁率は2015年から5年連続で.380を超えており、2015年と2018年には出塁率.400を超える数字を記録。OPSが.900を超えた年も3度あり、打者としての総合能力の高さに疑いの余地はない。NPB年間安打記録保持者の看板を引っ提げて挑戦する米球界で、当代一の鉄人がどのような活躍を見せてくれるかに期待したいところだ。
近藤健介選手(北海道日本ハム)
近藤選手といえば、故障で57試合の出場にとどまったものの、夢のシーズン打率4割すら期待させる圧倒的な打棒を見せつけた2017年の活躍が印象深いところだ。そのシーズンも含めて故障に苦しめられるシーズンも少なくはなく、規定打席に到達したのはプロ8年間で3度だけだが、その3シーズン全てで打率.300を超える数字を記録。通算打率も.304と高い水準を保っており、アベレージヒッターとしての能力に疑いの余地はないだろう。
また、打率だけでなく出塁率が極めて高いことも近藤選手の特徴だ。規定打席に到達した3シーズンはいずれも出塁率.400を超えており、直近2年間の出塁率はいずれも.420以上。規定打席未満ながら、2017年には出塁率.567という驚異的な数字を記録していた。通算出塁率も.403と非常に高い水準を維持しており、選球眼という点ではリーグでも屈指と言える。
四球の数という面でも、2017年には231打席で60四球という驚異的なペースを記録。2018年には87四球、そして2019年には3桁の大台を超えるシーズン103四球と、近年における数字は年々伸びてきている。決して長打を売りにするタイプの選手ではない近藤選手がこれだけの四球を稼いでいる理由は、打席での冷静さに加えて、対戦相手にとっても常に警戒すべき存在と認識されていることの表れでもあるだろう。
先述の通り、近藤選手は規定打席に到達したシーズン全てで打率.300、出塁率.400を超える数字を記録してきた。過去2年間は長期離脱を経験することもなく、かつて悩まされた故障も克服しつつある。「規定打席に到達すれば打率3割」という縁起の良いジンクスが2020年以降も続くのかどうか、今後も要注目の選手であることは間違いなさそうだ。
打者としての成熟度の高さを示した、6人の好打者たち
全体の傾向としては、高打率だけでなく高い出塁率を同時に記録していた選手が多いのが特徴だ。2019年のパ・リーグにおいては冷静にボールを見極めつつ、好球必打でしっかりと高打率も同時に残すといった、打者としての完成度が高い選手が多かったと言える。セイバーメトリクスの普及に伴って以前よりも出塁率が注目されつつある中で、このような傾向がより顕著になりつつあるのは興味深い点なのではないだろうか。
年齢の分布としては、20代と30代がそれぞれ3名ずつときれいに分かれる結果となった。まだ20代中盤の森選手、吉田正選手、近藤選手の3名は、これから選手としての全盛期を迎える年齢ということもあり、今後のさらなる成長も期待されるところだろう。
また、抜群の実績を引っ提げて32歳で米球界に挑戦する秋山選手、同じく31歳で4年ぶりに打率3割を記録した銀次選手、34歳にしてキャリアハイのシーズンを送った荻野貴選手の3名も、今後さらなる躍進を見せてくれる可能性は大いにあるはず。6選手の打席での成熟度の高さは既に示した通りであり、今後も同様の傾向が示されるかは見ものだ。
世の中に一人として同じ人間はいないように、プロ野球選手一人一人にも、それぞれ全く異なる個性が存在する。そんな中で、一流のラインである打率3割を記録した選手たちに焦点を当ててみても、やはり異なる長所や特色が見えてきた。2020年に打率3割を記録する選手がどのような顔ぶれになるのか、そしてその選手たちはシーズンを通してどんな活躍を見せるのか。シーズンが終了した後に、あらためて振り返ってみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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