プロ野球選手の大半は、高校や大学、社会人、あるいは独立リーグといったカテゴリからドラフト指名を経てプロの世界に足を踏み入れる。この時、ドラフト1位や2位といった上位で指名される選手であれば、メディアやファンからもひと際注目を浴びることとなるだろう。
一方で、決して全国区に名前の知れ渡った選手でなくとも、下位指名からプロの世界で活躍する選手も多く存在する。そこで今回は、各球団に在籍する「ドラフト最下位指名」の選手を紹介。入団時の評価を覆し、プロ野球の世界で生き抜いてきた選手たちを見ていきたい。なお、本文での「最下位指名」は支配下での指名を示し、育成指名は含めない。
埼玉西武
・佐藤龍世選手…2018年、ドラフト7位
・綱島龍生選手…2017年、ドラフト6位
・田村伊知郎投手…2016年、ドラフト6位
・山田遥楓選手…2015年、ドラフト5位
・熊代聖人選手…2010年、ドラフト5位
埼玉西武に在籍する「ドラフト最下位指名」選手の中で、最もキャリアが長いのは熊代聖人選手だ。9年目を迎えた今季は、内外野をこなす守備と俊足を活かして試合終盤に活躍。シーズンを通して一軍に帯同すると、2年ぶりの安打を放つなどバットでも存在感を見せた。
ルーキーの佐藤龍世選手は、開幕一軍を勝ち取ると4月6日の北海道日本ハム戦で初安打を記録。その後は一旦ファームで経験を積むと、再び一軍昇格を果たして以降、プロ初本塁打を含む3本の一発を放ち、未来の長距離砲として確かな足跡を残した。来季以降のさらなる飛躍に期待がかかる。
また、他球団へ移籍した選手では、2005年に高校生ドラフトで4位指名を受けた田中靖洋投手(千葉ロッテ)と、2011年に5位指名を受けた田代将太郎選手(東京ヤクルト)が現役で活躍。中でも田中投手は、千葉ロッテ移籍後の2016年から徐々に登板数を増やし、今季はキャリアハイとなる44試合に登板する活躍を見せた。
近年では、未来の二遊間やクリーンアップといった主軸を担う内野手を下位で指名している埼玉西武。今年のドラフトでは支配下指名の最後に独立リーグ・徳島の岸潤一郎選手を指名した。明徳義塾高校時代には、甲子園に4度出場するなど全国に名を馳せた岸選手。高校球界を沸かせたヒーローの新たな船出に注目だ。
福岡ソフトバンク
・奥村政稔投手…2018年、ドラフト7位
・田浦文丸投手…2017年、ドラフト5位
・三森大貴選手…2016年、ドラフト4位
・川瀬晃選手…2015年、ドラフト6位
・上林誠知選手…2013年、ドラフト4位
・嘉弥真新也…2011年、ドラフト5位
例年、育成選手を多く指名し、支配下での指名数が他球団と比べて少ない傾向にある福岡ソフトバンク。その結果、「最下位指名」といっても4位や5位といった若い数字が並んでいる。
出世頭はなんといっても上林誠知選手だろう。2年目の2015年に早くも一軍出場を果たす炉、2017年には134試合に出場。規定打席到達を果たし、13本塁打、12盗塁の好成績を残すと、翌18年には全試合に出場し、22本塁打、13盗塁と各部門でキャリアハイを記録した。さらなる活躍を目指した今季だったが、故障などもあり打率は.194、出場試合は3年ぶりに3桁を下回る99試合に終わった。来季の復活をファンは待ち望んでいる。
2011年の5位指名、嘉弥真新也投手は入団当初から中継ぎ左腕として登板を重ねていたが、2年目の40試合をピークに徐々に登板機会が減少していた。しかし、2016年シーズンのオフにサイドハンドに転向すると、翌17年には58試合、続く18年には67試合に登板し、チームに貢献。今季も54試合に登板し、そのタフネスぶりを発揮した。
その他に、2014年のシーズン中に東京ヤクルトへトレード移籍した山中浩史投手も、2012年のドラフト6位指名での入団。新天地では2016年に規定投球回まであと一歩の140イニングを投げるなど、下手投げの先発として貴重な存在となっている。
福岡ソフトバンクでは、田浦文丸投手や川瀬晃選手など、先に挙げた選手の多くが一軍での出場機会を獲得している。今年のドラフトでは、5位指名で慶応大学の柳町達選手を指名。東京六大学野球で脚光を浴びた柳町選手は、日本一のチームでどのような活躍を見せてくれるか。
楽天
・鈴木翔天投手…2018年、ドラフト8位
・寺岡寛治投手…2017年、ドラフト7位
・西口直人投手…2016年、ドラフト10位
・村林一輝選手…2015年、ドラフト7位
・島内宏明選手…2011年、ドラフト6位
・辛島航投手…2008年、ドラフト6位
・渡辺直人選手…2006年、ドラフト5位
楽天では2011年のドラフト6位、島内宏明選手の活躍が光る。名門・明治大学からの指名となった島内選手は、1年目から一軍出場を果たして2本塁打を記録。着実にキャリアを重ねると2017年には全試合に出場し、自己最多となる14本塁打を記録した。翌18年こそ故障で103試合の出場に留まったが、今季は開幕戦で4番に起用されるなど133試合に出場。チームのAクラス入りに大きく貢献した。
また、昨シーズンオフに埼玉西武から復帰した渡辺直人選手も、プロ野球生活のスタートは「ドラフト最下位」から。来季からコーチ兼任となるベテランも、結果を残すことで厳しい世界を生き抜いてきた。そして、今季チームを率いてきた平石洋介監督も、2004年にドラフト7位で指名されて楽天に入団している。新設球団とともに歩んできた選手たちが、今季の楽天を支えていたと言えそうだ。
楽天のドラフトでは、7位で明石商業高校の水上桂選手を指名。嶋基宏選手が退団し、新たな捕手の台頭が求められるなか、U18日本代表にも選ばれた有望株が、最下位指名から正捕手をつかみ取るか。
千葉ロッテ
【千葉ロッテ】
・土居豪人投手…2018年、ドラフト8位
・永野将司投手…2017年、ドラフト6位
・宗接唯人選手…2016年、ドラフト7位
・二木康太投手…2013年、ドラフト6位
・加藤翔平選手…2012年、ドラフト4位
・益田直也投手…2011年、ドラフト4位
・清田育宏選手…2009年、ドラフト4位
・細谷圭選手…2005年、ドラフト4位
ドラフト1位で石川歩投手が指名された2013年、同じドラフトで「最下位指名」だったのは二木康太投手だった。入団から2年間はファームでじっくりと力をつけ、3年目には先発ローテーションの一角に食い込んんだ二木投手。翌年には規定投球回に到達するなど、千葉ロッテの先発陣に欠かせない存在となった。
千葉ロッテでは二木投手に限らず、多くの選手が最下位指名から出世を果たしている。2012年のドラフト4位、加藤翔平選手は、プロ初打席初球本塁打を記録して強烈なインパクトを残し、2011年のドラフト4位・益田直也投手はルーキーイヤーから72試合に登板して新人王を獲得。清田育宏選手もルーキーイヤーから日本シリーズで優秀選手に輝くなど、早い時期から頭角を現す選手が多い。
一方で、今季限りでの引退となった福浦和也選手は、1993年のドラフト7位指名からのスタート。2000本安打を積み上げる大打者のキャリアも、「最下位指名」からのスタートだった。
今年のドラフトでは、5位指名で法政大学の福田光輝選手を指名。パンチ力が魅力の内野手で、大阪桐蔭高校時代には甲子園出場も経験している福田選手。同じく「最下位指名」からのし上がってきた先輩達同様、ルーキーイヤーからの活躍に期待したい。
北海道日本ハム
・福田俊投手…2018年、ドラフト7位
・宮台康平投手…2017年、ドラフト7位
・今井順之助選手…2016年、ドラフト9位
・姫野優也選手…2015年、ドラフト8位
・石川亮選手…2013年、ドラフト8位
・鶴岡慎也選手…2002年、ドラフト8位
パ・リーグの「最下位指名」選手の中で、最古参となるのは北海道日本ハム・鶴岡慎也選手だ。入団3年目に初めて一軍出場の機会をつかむと、以降は高橋信二選手(現・北海道日本ハム二軍コーチ)らとのツープラトン起用の中コンスタントに出場。14年には福岡ソフトバンクにFA移籍したものの、18年から再び北海道の地へ舞い戻った。来季からはコーチ兼任となる鶴岡選手。自身同様に下剋上を目指す選手にとっても、大きな目標となることだろう。
その鶴岡選手の後を継ぐように、徐々に出場機会を増やしているのが2013年の8位指名・石川亮選手だ。高卒新人だった14年シーズンから一軍出場を果たした石川選手は、今季出場試合数、安打数など各部門でキャリアハイを更新。次世代の正捕手として着実に経験を積んでいる。指名順位は鶴岡選手と同じ8位。大先輩の軌跡をなぞるべく、若武者が正捕手獲得に挑む。
一昨年には東京大学から宮台康平投手を指名するなど、粗削りながら魅力を放つ選手が選ばれる傾向にある北海道日本ハムの「最下位指名」。今年は東日本国際大学から片岡奨人選手を指名した。群雄割拠の北海道日本ハム外野陣の中で、新鋭が下剋上を狙う。
オリックス
・中川圭太選手…2018年、ドラフト7位
・山足達也選手…2017年、ドラフト8位
・根本薫選手…2016年、ドラフト9位
・杉本裕太郎選手…2015年、ドラフト10位
・鈴木優投手…2014年、ドラフト9位
昨年の「最下位指名」・中川圭太選手は、ルーキーの中で一番と言って良い存在感を放った。4月下旬に一軍昇格を果たすと、出場3試合目で早くも初安打を記録。勢いそのままに交流戦では首位打者に輝き、瞬く間にオリックス打線の中心的存在となった。ポジションの兼ね合いから出場できないこともあった中、最終的には打率.293、8盗塁と出色の活躍を披露。来季以降のさらなる飛躍が期待される存在だ。
「ラオウ」の相性で親しまれる杉本裕太郎選手も、ドラフト10位指名からプロのキャリアをスタートした。今季は18試合に出場すると、打率こそ1割台に終わったが自己最多となる4本塁打を放ち、確かな成長の証を披露。かつてオリックスでレギュラーを張り、現在は打撃コーチを務める後藤光尊氏も、そのスタートはドラフト10位から。足跡をたどり、打線の中核へと昇り詰めることができるか。
今年、オリックスの「最下位指名」は、国際武道大学の勝俣翔貴選手。東海大菅生高校では二刀流として名を馳せた勝俣選手だが、大学では野手としてそのキャリアを積んだ。大器が羽ばたいてきたオリックスの「最下位指名」を受け、勝俣選手がどのような成績を残すか注目だ。
ここまで見てきたように、たとえドラフトで高い評価を得たわけでなくとも、プロ野球では結果を残すことで鮮烈なインパクトを与えることができる。どの順位で指名されようとも、プロに入ればスタートラインは同じ。今年のドラフトで指名された選手達の中からも、順位に関わらず多くのヒーローが誕生するはずだ。
文・成田康史
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