ホークスを退団して以来、初めての再会。「おー、久しぶり」。太陽のように眩しい笑顔も、元気をくれる快活な声で迎えてくれた。以前と何も変わっていなかった。
川﨑宗則は、台湾に行っても川﨑宗則のままだった。
現地で11月23日より開幕した「アジアウインターベースボールリーグ」。川﨑の所属する味全ドラゴンズは今年20年ぶりに再結成された。来季から二軍リーグに参戦し、2021年シーズンからのリーグ本格参入に向けて動き出している。その一環としてこのウインターリーグに単独チームとして参戦している。
川﨑は開幕戦にさっそく「3番指名打者」で出場。すると初回の第1打席に左投手の直球を、左翼線にライナーで弾き返すクリーンヒットをいきなり放ったのだった。しかし、フェンスまで到達する打球にもかかわらず一塁どまり。そして代走が送られて交代となってしまった。どうやら右太もも裏付近を痛めてしまったようだった。
再会を果たしたのはその2日後、雲林県立斗六棒球場。
まず球場に到着して姿を探したが見当たらない。嫌な予感がしたが、室内練習場から聞こえてくる打球音の主が川﨑だと教えてもらった。しばらくしてグラウンドに出てきた彼は冒頭の笑顔である。悲壮感などまるでなかった。
「相変わらず楽しんでますよ」
カラカラ笑う。現役復帰についても「なんてことない。生きてて、空気を吸えて、野球ができて、仕事ができるだけで楽しいです。もうチャレンジはしないかな。ゆっくり自分の楽しむようにやっていますよ」と目を細めた。心配した足については「大丈夫」と軽症を強調。「あのヒットはいいバッティングだったね。昔と変わってない。良い打ち方でした。調子いいですよ。ずっと打率もいいし」とひとまず安心だ。
入団発表時には「選手9割、コーチ1割」と発言していたが、あれから3カ月経った現状を訊ねると「コーチも10割、選手も10割」とムネリン節がさく裂。これから先の野球人生についても「いやー、わかんないです。もういいかなと思っている時もある。十分満足したから、明日辞めてもいいというくらい気持ちではやっています。でも、まだ何も考えていない。ノープランだよ、相変わらず(笑)」といつもの調子だった。
現在、味全が本拠地にしている斗六という街は、台湾第三の都市である台中から在来線の鉄道で1時間前後(急行や各駅停車で移動)の場所にある。川﨑はこの街で家族と生活をしている。
「田舎でね、何もなくていいよ。ゆっくりできる。(故郷の)鹿児島の方が都会かな(笑)。球場も綺麗だし」
言葉はなかなか難しいといいながらも、川﨑がいるおかげか味全というチーム自体も非常に活気があふれている。
味全の葉君璋(イエ・ジュンジャン)監督も“ムネリン効果”を口にする。
「味全は若い選手がほとんどだから、本来ならば最初から一つにまとまるのは難しい。しかし、川﨑サンのおかげでチームのみんなが仲良くなり、雰囲気もいい。なにより、彼がいることでみんなが落ち着いている」
実際、川﨑はコーチの肩書も持っているが、首脳陣ミーティングなどには参加していないようだ。葉監督は「99%が選手。だけど、自分の経験をもとに若手にアドバイスをしてくれている。今は彼のやりたいようにやってもらえればいいと思っています」と話す。
「また、感じるのは、彼は日本人より台湾人に近いかな(笑)。(今年阪神タイガースを退団して現在味全に所属する)歳内宏明投手はすごく日本人らしくルールに従って、礼儀やマナーを大切にしようとしている。でも、川﨑サンはすごくオープンな人ですね」
味全ドラゴンズとしても川﨑の入団や、以前ホークスに所属して今年ベイスターズを退団したエディソン・バリオスもこのウインターリーグでプレーをしている関係もあり、ホークスとの良好な関係を築きつつあるという。今年秋にはホークスから「味全の選手を練習に参加させませんか?」と打診があったという。この件はウインターリーグ参加の関係もあり実現しなかったが、来年以降は交流戦などが行われることも期待される。
そして、川﨑から日本のファンへ――「ぜひ台湾に来てください。でもタダじゃ来られないからお金貯めてね」
味全はウインターリーグで、イーグルス、ライオンズ、スワローズ、バファローズ、ホークスのNPBレッド、ジャイアンツ、ベイスターズ、マリーンズ、タイガースのNPBホワイト、韓国リーグ選抜(KBO)、台湾リーグ選抜(CPBL)という顔ぶれの強敵相手に、27日時点で2勝2敗と健闘をしている。
「ルーキーが多いので、試合を経験できる良い機会です。ウインターリーグはほぼ毎日試合がある。挑戦だし、良いトレーニングになる。好不調や調整の仕方を知る機会になる」と葉監督。アジアウインターベースボールリーグは、12月15日の決勝戦・3位決定戦まで台中市や斗六などで開催されている。
文・田尻耕太郎
写真・パ・リーグインサイト海老原 悠
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