北海道日本ハムファイターズ マスコットB☆Bによる地域貢献活動「The HOME~B☆Bみらい大志プロジェクト~」とは?

パ・リーグ インサイト

2019.8.26(月) 17:00

 球団マスコットというと、スタジアムを盛り上げる姿が思い浮かぶだろう。しかし、球場を離れ、地域貢献活動に専念する異例の存在が北の大地にいる。それが北海道日本ハムファイターズのマスコット、B☆Bだ。

 2004年、北海道日本ハムファイターズの誕生とともにデビューしたB☆Bは、3年目にあたる2006年より北海道の212市町村(当時)を訪問し、その映像を札幌ドームで上映する地域貢献活動「212物語」を開始。この一大プロジェクトを10年かけて完遂させたB☆Bは、2018年にファイターズメインマスコットのポジションをフレップに任せ、自身の活動の場を北海道の地域貢献へ移すという、球団マスコットとしては異例の展開を見せる。

 札幌ドームでの活動を離れて1年目となる昨年は北海道命名150年事業に「みらい大志」として参加した。そして、今年4月に球団はB☆Bによる新規地域貢献プロジェクト「The HOME~B☆Bみらい大志プロジェクト~」を発表。

 「The HOME」は地域の実情に合った活動を行うべく、B☆Bが対象自治体に2週間程度の「長期滞在」することが目玉となっている。今年度は今金町・大樹町・斜里町の3町が対象自治体になっており、この夏B☆Bは大樹町で初めての長期滞在を行った。7月に開設されたブログ『B☆Bみらい大志Diary』でも、その様子が日々更新されている。今回は大樹町滞在中だったB☆Bに、この前“熊”未踏のプロジェクトについてお話をうかがった。そこには、一匹が“ファイターズ”という看板を背負って地域貢献に挑むにあたり、強い意志と使命感があったのだ。

「212物語」で北海道中を訪問したB☆B。写真は2007年に函館市の赤レンガ倉庫を散策する様子。
「212物語」で北海道中を訪問したB☆B。写真は2007年に函館市の赤レンガ倉庫を散策する様子。

「212物語」の経験を糧に「The HOME」へ地域貢献が進化

 「212物語」は北海道日本ハムファイターズになって3年目の2006年から始めました。2004年、球団が北海道をホームにする際、今でいうコミュニティグループの部長が、道内ほぼ全ての市町村にあいさつ回りに行ったという話を聞きまして。北海道は広いですし、一番遠いところで札幌から車で6時間以上かかる。北海道がホームだと言っても、遠方の人たちはどの程度(ファイターズを)身近に感じていてくれているのだろう、というのがありました。マスコットの役割として選手の代わりに出かけて行って、身近に感じてもらえればいいなと思って始めました。

 一つの市町村につき1日かけて町の中のいろんなところを回って撮影して、その町の見どころなどを紹介するのと、1日の最後に町の人に集まってもらって「交流会」というふれあう機会をつくっていたのが212物語です。

 すべての町に行った経験があるっていうのは、どこの町の人からしても、「B☆Bはあのとき来てくれたよね」と認識してもらえるし、北海道のどこへ行ってもB☆Bという存在を知っていただける人も多くなったので、意味のあることでした。そして僕自身も北海道のことを詳しく知る機会になりました。

 212物語では町の見どころや、特産品を映像で紹介しました。その映像は札幌ドームのビジョンで後日流して、町の皆さんもその日(球場へ)来てくれた方々もいました。その一年間分をDVDに10巻にまとめて発売しました。

 全市町村を回って、町によっていろいろ事情が違って、観光名所とか有名な特産品とかある町もあれば、観光産業よりも農業が盛んな町もあったり、町によって”売り”が違うなと感じました。どこの町も人口が減ってきて、廃校になっていく学校を多く見かけたり、少子高齢化の問題など、さみしい思いというのは感じていました。少しでも地方を元気にする力になれればな、というのはなんとなくずっと思っていたんですね。

 ファンの方からは「また2周目回るの?」と聞かれたんですけど、僕としては単純に同じことを繰り返そうとは思ってなくて。212物語で212か所回ったのですが、一つの町に1日限り、1回限りでそれきりになってしまうことも結構あったので、次をやるんだったらもうちょっと深く関わりたいなと思っていました。漠然と“本当に”町のための力になれることをやりたいという思いを持っていたんです。

2018年、ファイターズメインマスコットはフレップ(写真中央)になり、B☆Bの活動のフィールドは球場外へ。
2018年、ファイターズメインマスコットはフレップ(写真中央)になり、B☆Bの活動のフィールドは球場外へ。

 2015年で212物語が終わって、2017年まで僕がメインマスコットとして活動していたんですけど、2017年限りでそのメインを退いて、地域貢献活動に移りました。昨年2018年は北海道命名150年の記念事業に関わる仕事をしながら、次どういう活動をするべきかを模索していました。

 球団でパートナー協定を結んでいる市町村があって、そういった町に出向いて行って、これからの活動の参考になるようにいろんな話を聞いたんです。町が抱えている課題であったりとか、どういうことに力を入れているかとか、もしB☆Bが地域貢献に関わるんだったら、どういうことをB☆Bにしてもらいたいかみたいな希望があれば教えてください、と。それぞれの町に行って市役所であったりとか町の役場であったりとか、いろんな方に会っていただいて、ヒアリングをさせていただいて、町によって力をいれてることや課題とかがわかりました。

 プロジェクトのやり方として、212物語のときみたいに見どころを紹介するやり方にこだわるのではなくて、その町の要望とか課題とか事情に合わせたことをB☆Bがやっていく。それも1日ではなくて長い時間、1年間かけて1回限りではなく、その町に何回も出向いてその町の要望に合った内容の地域貢献をしていくのが、「The HOME」の主な活動のテーマです。

 北海道はすごく広い町があって、町の中心部だけじゃなくて町の端っこのほうも来てもらえるとうれしいという話もあり、長期滞在するという形になりました。2週間という滞在期間が長期というのかわかりませんが、とりあえず2週間くらい町に住んでみて、住民目線で物事を見たり、町の人とふれ合ったりする機会をつくりたいなと思ったんです。

B☆Bが訪れた大樹町は航空宇宙に力を入れている。
B☆Bが訪れた大樹町は航空宇宙に力を入れている。

大樹町で初めての長期滞在、ブログもスタート。充実の夏を過ごすB☆B

 (大樹町での生活は)すごく充実してますよ。ブログは本当は4月の活動開始から始めたかったんですけど、つい最近やっと立ち上げたばっかりで。まだちょっとペースがつかめてない部分があるんですけど、毎日ブログに追われています(笑)。動画も編集していますよ。動画の編集は212物語ではちゃんとした機材でやっていたんですけど、今はスマホで動画編集できるんです。昼間はあちこち行って、写真を撮って、それを整理して、動画があれば編集して、書いてアップして……。結構時間に追われる毎日なんです(笑)。もうちょっと生活にゆとりを持ってぶらぶら歩いたり、景色を見て写真を撮って歩いたりしたいなーと思っていたんですけど、今のところまだそういう余裕はないです。

 長期滞在は今回初めてで、僕自身も役場の方もどういう風にしたらいいんだろうね、と手探りですが、「昨日ここから来てほしいって依頼があったんだけど、行ってもらえる?」みたいな直前の依頼とかもあって、できるだけそういうのにも応えたいなと思っています。

 ブログにも書いたんですけど、今金町と斜里町に関しては活動のテーマを設定したんですよね。メディアとかに取り上げてもらうにはストーリー性があるようなテーマを一つつくっていったほうが、メディアとしても取り上げやすいので。今金町だったら中学校の野球部員を増やすとか、斜里町だったらドローンを飛ばすとかテーマを設定したんですけど、大樹町に関してはテーマがぼんやりしている感じだったんです。役場の方とどうしたらいいのかなと話し合いましたが、あまり具体的なイメージに固まらない。

 ただ、無理に(テーマを)つくらなくても、できるだけたくさんの人とふれ合うっていうことでもいいのかなと思っています。今日も午前中に保育園を回ってきて、昨日は高齢者福祉施設に行ってきたんですけど、どこに行ってもみんなすごいうれしそうにしてくれます。自分で言うのも恥ずかしいんですけど、「札幌ドームにいつもいる、スター的存在のB☆Bが、小さい町の小さなイベントに来てくれるなんて夢みたいだ」とおっしゃっていただいて、すごいうれしいんですよね。効率という目から見ると効率悪いかもしれないですけど、普段できない小さなふれ合いで地域の方に喜んでいただけているのは、肌で感じています。

規模の小さなイベントに参加できるのは「The HOME」だからこそ。
規模の小さなイベントに参加できるのは「The HOME」だからこそ。

 ブログで町のことを紹介していて、今日は何をしましたとかリアルタイムで書いていますが、町に行ってないときもいっぱい材料は撮ってあるんで、小出しにして町のことをどんどん紹介していきたいと思っています。一つ一つの意味合いとして、B☆Bの発信力を生かして地域の情報をファンの方に知っていただくというのも重要なこと。ブログに書いて直接ファンの方々がいいねしてくれたりとか、SNSでコメント書いてくれたりすると、これだけの方が見てくれてるんだ、反応があるんだというのを感じられます。この地域のこの店おいしいよとか、こういういいところがあるよ、とかを発信していければ、ちょっとは町の宣伝にもなるのかなと思っています。

大樹町で砂金掘りに挑戦するB☆B。
大樹町で砂金掘りに挑戦するB☆B。

シーズンオフも大忙し! 秋と冬にファン参加型ツアーを計画

 今後は9月7日から22日まで今金町、9月29日から10月13日まで斜里町で長期滞在が予定されています。長期滞在の期間中に「B☆Bと巡る〇〇町ツアー」を予定しています。例えば今金町では9月7日、8日にB☆Bと一緒にキャンプをしよう! という企画です。斜里町は1泊2日のツアーを計画しています。大樹町は今回の長期滞在期間中のツアーは組んでいないですが、1月に「B☆Bと一緒に冬の魅力を味わおう」的なツアーを考えています。

 今僕が球場でみなさんとあまり会えなくなってしまったので、遠方でたまにイベントに出たりすると、わざわざ札幌のほうから会いにきてくれたりとか、道外からも会いに来られる方もいらっしゃるんですよね。そういう方にB☆Bに会うという目的も含めて(ツアーイベントに)来ていただいて、町のいろんなところを一緒にまわれば思い出にも残るでしょうし、またこの町に来たいと思っていただいたり、来るまでに至らなくても情報をSNSなどで発信していただいたりと、いわゆる「関係人口」をちょっとでも増やすことに役立てるかなって思っています。

 各町の長期滞在の間にも季節ごとに2、3日ずつ町に行きたいです。大樹町の長期滞在はもうすぐ終わってしまいますけど、8月25日もまたイベントに来る予定ですし、秋にも秋の良さがあるので取材に行くつもりでいます。

町はずれの酪農家のご家族と野球をするB☆B
町はずれの酪農家のご家族と野球をするB☆B

「みらい大志」B☆Bの目標は?

 目標ですかー(笑)。そうですね…… 「北海道を元気にしたい」って言うと、すごくぼんやりしてしまいますけど、地方が人が減って元気がなくなっていくのを見るのはさみしいので、地方が元気になるために少しでも役に立てればなということを思っています。

 ファイターズの本拠地となる新球場が2023年にできます。(開業が予定されている)北広島周辺は期待が高まっていますけど、そのほかの地域の人たちが置いてけぼりにならないように、盛り上がっている以外の地域をフォローしていくというのが僕の役目かなと思っています。

 新球場は「スタジアムを核とした街づくり」を基本コンセプトにしていますけど、このプロジェクトで得た経験や知識、地域とのつながりとかが、何らかの形で新球場で活かせれば理想ですね。例えば、B☆Bが店長を務める市町村のアンテナショップとか、地域の食材を提供するカフェなんかをスタジアムに出店するとか…。今は両者が別次元で進行してるけど、そうやってリンクしていけば、ある意味「北海道がひとつになれる」ような気もします。

 それからもうひとつ、欲を言えば、マスコット界の「常識」を良い意味で変えたいですね。どれだけ認知度が増しても、どうしても「マスコット=子ども相手」「イベントの賑やかし」的なイメージがまだ根強いので。本気で地域や人々と向き合えば、マスコットでもこれだけのことができる、っていう新しい可能性を示せたらいいな、と思ってます。

 今回のプロジェクトでは、212物語みたいに道内の市町村を全部回ります、とは言いません。全部回ったら何十年かかるんだってなりますし(笑)。でも、その分ひとつひとつの地域とは、深くしっかりと関わっていきたいですね。かなり地道な活動ですけど、そうやって少しでも北海道の役に立てれば、これまで支えてもらった北海道への恩返しになるかなと思っています。

大樹町の人から気さくに声を掛けられるB☆B。「The HOME」を通じて、北海道とファイターズの絆がさらに深まりそうだ
大樹町の人から気さくに声を掛けられるB☆B。「The HOME」を通じて、北海道とファイターズの絆がさらに深まりそうだ

文・菊地綾子
写真・(C)H.N.F

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