今季、楽天イーグルスはルーキー野手4人が一軍デビューを果たした。若い力の台頭はチームにとって喜ばしいことであるが、限られたスタメンの座をめぐる競争はますます熾烈さを極める。台湾で行われているアジアウインターベースボールリーグに外野手として出場を重ね、チームに貢献する小郷裕哉選手に、一軍と二軍の行き来で感じたこと、プロの驚き、オフの過ごし方について話を聞いた。
「もっとどん欲にいっていたら、また違っていたかも」
――ルーキーイヤーを振り返っていかがですか?
「もうちょっとやれたかなというのが一番ですね。1年目で何もわからない状態で入ったのですが、最初は一軍で試合に出られると思えずに想像もしていなかった。結果、それが準備不足につながりました。周りのルーキーは結果を出して活躍していたし、僕ももっとどん欲に『レギュラーとるぞ』と掲げて入っていたら、また違っていたのかなと思います」
――今年のイーグルスは大卒ルーキーだった小郷選手をはじめ、辰己涼介選手、太田光選手、渡邊佳明選手の4人が一軍デビューを果たすシーズンでした。やはり刺激になったのでは?
「春季キャンプから4人ともA組で、開幕一軍は辰己だけでしたが、そこから徐々に一軍へ。特に渡邊とは一緒の日に一軍に上がったので、意識をしました。ただ結果的に僕だけが早く二軍行きになって。その時が一番悔しかったですね」
――5月19日、ZOZOマリンスタジアムでの千葉ロッテ9回戦で、代走でプロ初出場を果たしました。その時の感想は?
「緊張しました。だけど、これがプロ野球だなと思いました。公式戦の雰囲気は、二軍とは違いました。高校時代には甲子園にも出場しましたが、あの時とも全然違いましたね。甲子園も応援がすごくて華やかなんですけど、やっぱり違うなって」
――実際、プロ野球ってスゴイと思ったのはどの瞬間でしたか?
「何でもいいですか? じゃあ……洗濯ですね(笑)。決められた場所に置いておけば、翌朝にはきれいに畳まれて返ってくるじゃないですか。自分で洗わなくていいのが感動しました(笑)。あとはやっぱり周りの反響ですね。初ヒットの時が一番すごくて100件以上連絡がありました。みんな見てくれているんだと実感しました」
――そして9月3日、スタメンで起用されたヤフオクドームでの福岡ソフトバンク21回戦で高橋礼投手からプロ初本塁打をマークしました。
「僕自身はファームであまり打っていなかった時期でしたが、また一軍に呼んでもらったんです。一軍でもそれほど出番がなかったし、ソフトバンクとの大事な時期なので出番はあるのかなというのが正直なところでしたが、アンダースローの高橋礼さんが先発の試合だったので少し期待していました。高橋礼さんとは大学時代に東都リーグの入れ替え戦で対戦して打っていたので、嫌なイメージはなかった。ただ、今シーズンはずっと先発ローテで活躍されていたし、大学時代よりも少し良くなっているイメージを持って打席に入っていました」
――打った時の気持ちは?
「もちろん嬉しかったです。それにその時期はファームでオコエの調子が良かったので、ダメならば入れ替わって二軍に落とされると思っていました。なので気合を入れて試合に臨んでいたので本当に嬉しかったです。ボールも戻ってきて、今は初ヒットのボールと一緒に実家に飾ってあります」
――1年間プロ野球を経験して手応えは?
「手応えは……。僕も同期のみんなもそれぞれ苦労したと思います。僕は、みんなに差をつけられすぎると思って焦ってましたけど(苦笑)。でも、僕は試合に出るレベルに達していないので、自主トレからもっと頑張らないと。ただ、来年から三木監督。今年はファームで多くの時間を一緒にやらせてもらったし、三木監督の目指す野球も理解しています。プラスに考えたいです」
台湾ウインターリーグで出た完璧な打撃
――ところで、入団時には俊足を高く評価する声が多かったですが、打撃面も非常に楽しみじゃないですか? 1年目はプロ初本塁打、さらに二塁打が2本。シーズン5安打のうち長打が3本を占めました。
「それほど自信はなかったです。当たったら飛んだくらいで。でも、秋の倉敷キャンプでコーチと話をして、引きつけて打つ方法から前さばきの打撃を取り組んでいます。その方が確率が上がると言ってもらっているので、台湾でのウインターリーグでも意識をしながら打席に立っています」
――このウインターリーグではNPBレッド(楽天、埼玉西武、福岡ソフトバンク、オリックス、東京ヤクルトの混成チーム)でプレーをしていますが、チームの雰囲気は?
「喋ったことある他球団の選手はそれまで居なかったんですが、キャプテン(に指名されている)山野辺さん(埼玉西武)が本当に面白い。山野辺さんを中心にまとまっています。また、各チームの色や個性もあるので、上手く乗っかっていったり、楽天イーグルスの色も発信したりいます。みんなノリが良くて、思っていたよりも楽しいです」
――この台湾でのウインターリーグをきっかけに大ブレイクをしたのが、昨年の村上宗隆選手(東京ヤクルト=昨年4本塁打14打点で二冠)。また、2016年に参加した吉田正尚選手(オリックス=打率.556、6本塁打、29打点で三冠王)も印象深いです。爪痕を残したいところですね。
「吉田正さんは東都リーグでも見ていたけど、当時からすごかったです」
――小郷選手も11月25日の試合ではレフトへホームランを打ちましたが、この打席でも取り組んでいる打撃のイメージでしたか?
「そうです、良い打撃ができました。僕は完璧主義なんですよ。自分でも嫌だなと思う時はありますが、70点や80点じゃ納得できないんです。妥協したくない」
――その高みを目指す姿勢が自主トレの場所選びに表れていると思います。広島カープの松山竜平選手に弟子入りするらしいですね。同じチームの先輩についていくと甘えが出たり、越えられないという考えがあると聞きました。
「そうですね。あと、もし自分が先輩の立場だったら、はたして後輩にすべてを教えるかなと思ったんです。ライバルですからね。チームの先輩から聞き出すのは難しいと思ったので」
――松山選手との接点は?
「(東京ヤクルトの)上田剛さんが高校の先輩で、以前からとてもお世話になっているんです。今回も相談をさせていただきました。最初は青木(宣親)さんにお願いをしようと思ったんですが、ヤクルト勢だけで練習を行うとのことだったのでそこに入り込むのは難しいなと思って。それで自分の理想像、どのようになりたいのかを上田さんに相談したら、上田さんが探してくれて。本当にありがたいし、優しい先輩です」
――松山選手のような三振の少ない、確実性のある打者を求めたいということですね。
「そうです。同じ右投げ左打ちですし。守備や走塁もレベルアップしないといけないけど、ひと冬の間に大きく変わるのは打撃だと思いました。このオフは打撃に特化して練習したいです」
――来季はどう見据えていますか?
「まずレギュラーを目指すのはもちろんですが、その前に一軍にいないといけない。一軍にいること。その中で結果を出せば、スタメンのチャンスもあると思う。力を発揮し続ける準備をして、シーズンの途中からでも何試合かスタメンに出て、レギュラー格の立ち位置にいられるようにしたいと思います」
文・田尻耕太郎
写真・「パ・リーグインサイト」海老原 悠
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