パ6球団の「走った方がいい選手」とは? 各チームの盗塁事情を成功率から分析

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2019.7.22(月) 12:00

埼玉西武ライオンズ・金子侑司選手(C)パーソル パ・リーグTV
埼玉西武ライオンズ・金子侑司選手(C)パーソル パ・リーグTV

圧倒的な打力を誇った埼玉西武は、機動力の面でも……

 先の塁を狙う走者と、それを阻止せんとするバッテリー。盗塁を巡るせめぎ合いは、野球の醍醐味の一つでもあるだろう。しかし、確率の面からいえば、盗塁はリスクの高い作戦でもある。盗塁成功率には含まれない牽制死のリスクも考慮する必要があるが、セイバーメトリクスの観点から得点期待値が上がる、すなわち「盗塁したほうが良い」とされる目安は、成功率70%以上からとされている。

 2018年のパ・リーグを制覇した埼玉西武は、看板の強力打線が打率・得点数ともにリーグトップという圧倒的な打力を見せた。その一方で、132個の盗塁もリーグ1位の数字。ただやみくもに走っているというわけではなく、盗塁成功率73.3%と確実性も優れていた。2位の福岡ソフトバンク(685得点)を100点以上も引き離した、年間792得点というリーグトップの得点数には、高い機動力も一役買っていたと考えられるのではないだろうか。

 2019年のパ・リーグ各球団が記録した盗塁数と盗塁成功率を確認してみると、2018年と同じ傾向を示しているチームと、前年とは異なる傾向を示すチームがそれぞれ存在していることがわかった。そこで、今回は直近2年間のデータに加えて、今季の盗塁数が各チーム内で上位に入っている選手たちを紹介し、そこから見えてくる各チームの特色と、各球団内における「走った方がいい選手」について考察していきたい。

昨季の盗塁数がリーグ2位だった千葉ロッテは“モデルチェンジ”に成功?

 2019年のパ・リーグ各球団が記録した盗塁数と、盗塁成功率は以下の通り。(数字は7月22日時点)

2018
北海道日本ハム:盗塁98 盗塁刺24 盗塁成功率80.3%
楽天:盗塁69 盗塁刺39 盗塁成功率63.9%
埼玉西武:盗塁132 盗塁刺48 盗塁成功率73.3%
千葉ロッテ:盗塁124 盗塁刺57 盗塁成功率68.5%
オリックス:盗塁97 盗塁刺39 盗塁成功率71.3%
福岡ソフトバンク:盗塁80 盗塁刺30 盗塁成功率72.7%

2019
北海道日本ハム:盗塁37 盗塁刺19 盗塁成功率66.1%
楽天:盗塁31 盗塁刺21 盗塁成功率59.6%
埼玉西武:盗塁94 盗塁刺30 盗塁成功率75.8%
千葉ロッテ:盗塁55 盗塁刺19 盗塁成功率74.3%
オリックス:盗塁83 盗塁刺37 盗塁成功率69.2%
福岡ソフトバンク:盗塁78 盗塁刺31 盗塁成功率71.6%

 2018年にリーグトップの132盗塁を記録した埼玉西武は、2019年にもリーグ最多の94盗塁を記録。成功率も75.8%と優れた数値を残している。福岡ソフトバンクも2年連続で盗塁成功率が70%を超えており、常勝軍団ならではのそつのなさが表れている。両チームを率いる辻発彦監督と工藤公康監督は、現役時代はともにライオンズ黄金時代の中核を担った存在。そつのない走塁の源泉は、当時の緻密な野球にあるのかもしれない。

 また、千葉ロッテは2018年が就任初年度だった井口資仁監督が走塁改革を推し進め、盗塁数を2017年の78から124へと激増させた。しかし、盗塁成功率は68.5%にとどまって基準点となる70%を割り込み、得点数もリーグ5位とチームの勝利にはつながらず。その反省もあってか、今季は盗塁数こそリーグ4位と減少したが、盗塁成功率は74.3%と大幅に向上。意識改革の段階を終え、より得点に直結する形を模索し始めたということだろうか。

 オリックスは現役時代に4年連続で盗塁王に輝いた西村徳文新監督の下、キャッチフレーズでもある「Be Aggressive #超攻撃型」という看板に偽りのない積極的な走塁を展開。盗塁数は97盗塁を記録した昨季をさらに上回り年間3桁に届く勢いだが、その一方で盗塁死の回数もリーグトップで、成功率も.700を割り込んでいる。昨季から今季にかけての千葉ロッテと同様、今後はさらなる洗練化が図られていくのかもしれない。

 北海道日本ハムは盗塁成功率が前年比で約14%下降しているが、成功率の高さで知られる西川遥輝選手が現在15盗塁と数字を伸ばせていないことが影響しているか。それもあって盗塁企図数自体が大きく減少しており、確実性の低下に伴い自重している面もあるかもしれない。楽天は盗塁数、盗塁成功率ともに2年連続でリーグ最下位だが、今季の打率と得点数はともにリーグ3位と攻撃陣は機能している。機動力よりも打力という、チーム方針の一端がうかがえるところだ。

 次に、各チームの盗塁数上位5名と、その盗塁数・盗塁成功率をそれぞれ見ていきたい。(数字は7月22日時点)

北海道日本ハム

西川遥輝選手:15盗塁 5盗塁死 盗塁成功率:75%
中島卓也選手:9盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:75%
杉谷拳士選手:5盗塁 1盗塁死 盗塁成功率:83.3%
大田泰示選手:4盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:66.6%
(4選手):1盗塁

 西川選手は2018年にはリーグトップの44盗塁を決めただけでなく、失敗はわずかに3つ、成功率93.6%と抜群の数字を誇っていた。しかし、今季はすでに昨季を上回る盗塁死を喫しており、昨季までの通算盗塁成功率87.3%という驚異的な安定感に比べるとやや確実性を落としている。それでも成功率75%と一般的に考えれば十分な数字を残しているだけに、ここから文字通りエンジン全開といきたいところだ。

 2015年には盗塁王にも輝いた経験を持つ中島卓也選手は、現在6年連続2桁盗塁を継続中。盗塁王獲得時の82.9%という成功率には及ばないものの、不測の事態さえなければ今季も2桁盗塁は間違いなさそうだ。また、ムードメーカーの杉谷選手も、現時点で高い成功率を記録。オーストラリアでの自主トレ中には「ワラビー走法を取得しました」と報告する一幕もあったが、今後も「野生化計画」の成果を見せ続けられるだろうか。

楽天

辰己涼介選手:9盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:75%
茂木栄五郎選手:6盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:75%
田中和基選手:3盗塁 6盗塁死 盗塁成功率:33.3%
ブラッシュ選手:2盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:50%
銀次選手:2盗塁 1盗塁死 盗塁成功率:66.6%
オコエ瑠偉選手:2盗塁 1盗塁死 盗塁成功率:66.6%

 ルーキーの辰己選手がチームトップの9盗塁に加えて成功率も75%と、プロ1年目から自慢の足で存在感を発揮している。盗塁のみならず塁上での判断力にも優れており、ここ数年機動力を使えていなかったチームにとっては貴重な存在となりそうだ。また、昨季までの通算盗塁成功率が72.2%だった茂木選手が成功率を75%に乗せ、走者としてさらなる進化を見せているのも明るい材料となっている。

 一方、昨季21盗塁・6盗塁死で成功率77.8%だった田中選手は、今季の成功率が33.3%。シーズン開幕直前に右足首を痛めた影響もあってか、打撃のみならず走塁面でも不振に陥っていた。辰己選手が台頭してきたとはいえ、一軍で機動力を使える選手の頭数はまだ少ない。高い身体能力を持つ昨季の新人王の、本格的な復調が待たれるところだ。

埼玉西武

金子侑司選手:30盗塁 6盗塁死 盗塁成功率:83.3%
源田壮亮選手:22盗塁 8盗塁死 盗塁成功率:73.3%
外崎修汰選手:16盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:84.2%
木村文紀選手:10盗塁 5盗塁死 盗塁成功率:66.6%
秋山翔吾選手:8盗塁 4盗塁死 盗塁成功率:66.6%

 上位3選手がいずれも70%を超える成功率をマークしており、今季も抜群の得点力を誇る打線を機動力が下支えしている構図が浮かび上がってくる。金子侑選手と外崎選手はともに盗塁成功率が80%を超えており、金子侑選手がリーグ1位、外崎選手が同5位タイに位置するなど、成功数自体も多い。犠打数がリーグ最下位と、打って返すことが信条のチームにとって、アウト無しで得点圏に走者を進められる両選手の存在価値は大きいはずだ。

 源田選手はルーキーイヤーから2年連続で盗塁王争いを繰り広げ、2017年が78.7%、2018年が81%と高い成功率も残してきた。過去2年に比べると今季の成功率はやや下がっているが、それでも70%を超えているのは流石といったところか。一方、リーグ屈指の安打製造機として知られる秋山選手は、昨季までの通算成功率が63.7%にとどまるなど、盗塁はやや不得手。今季も成功率は66.6%となっており、走者としては「盗塁すべきでない選手」に分類されるかもしれない。

千葉ロッテ

荻野貴司選手:18盗塁 4盗塁死 盗塁成功率:81.8%
中村奨吾選手:10盗塁 4盗塁死 盗塁成功率:71.4%
岡大海選手:9盗塁 0盗塁死 盗塁成功率:100%
三木亮選手:5盗塁 0盗塁死 盗塁成功率:100%
加藤翔平選手:4盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:66.7%

 荻野貴選手は今季、プロ初年度から10年連続で2桁盗塁という記録を達成。昨季までの通算盗塁成功率は86.5%と失敗も少なく、西川選手に匹敵する抜群の安定感を誇っている。今季も成功率81.8%とキャリア平均は下回るものの相変わらずの精度を保っており、33歳となっても驚異の脚力は健在だ。荻野貴選手にとって最大の敵である、ケガと無縁のシーズンを送ることさえできれば、キャリアハイの26盗塁を大幅に上回る数字も期待できるはずだ。

 昨季は39盗塁を決めて盗塁王争いを演じた中村選手だが、今季は故障の影響もあってか前年ほどに数字が伸びてはいない。成功率も昨季の72.2%からわずかに数字を落としており、打撃と同様に走塁面でもやや苦しんでいると言えるか。岡選手と三木選手はそれぞれ精度の高い盗塁を続けており、ともに成功率100%を継続中。スタメンでも、代走でも確実に仕事をこなしている2選手の活躍は、采配の幅を広げるという面でも貴重なものだろう。

オリックス

福田周平選手:19盗塁 9盗塁死 盗塁成功率:67.9%
大城滉二選手:10盗塁 9盗塁死 盗塁成功率:52.6%
佐野皓大選手:9盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:75%
小田裕也選手:8盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:80%
中川圭太選手:7盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:77.7%

 上記のように5名の選手が7盗塁以上をマークしており、チーム全体の積極性が増していることは数字にも表れている。しかし、現時点では盗塁数上位2名がともに成功率70%を下回っており、チーム全体の成功率を考えても確実性としては今一歩。盗塁死の多さがチーム得点数がリーグ最下位に沈む要因の一つとなっている可能性もあるだけに、今後の改善が期待されるところだ。

 そんな中で、9盗塁を決めて成功率も75%と十分な数値を記録している、22歳の佐野選手の台頭は明るい材料だ。小田選手も故障離脱がありながら8盗塁を決め、80%と高い成功率を記録している。さらに、今回はランク外ながら主砲の吉田正尚選手は5度盗塁して失敗なしと、堂々の成功率100%をマーク。積極的に次の塁を狙う姿勢はすでに浸透しつつあるだけに、確実性さえ上がってくれば走塁面はチームのストロングポイントにもなりうるはずだ。

福岡ソフトバンク

周東佑京選手:16盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:84.2%
釜元豪選手:10盗塁 0盗塁死 盗塁成功率:100%
甲斐拓也選手:7盗塁 3盗塁死 盗塁成功率:70%
上林誠知選手:7盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:77.7%
福田秀平選手:5盗塁 2盗塁死 盗塁成功率:71.4%

 上位5選手の成功率がいずれも70%以上で、チーム全体の意識の高さがうかがえるところ。今季開幕前に育成から支配下登録を勝ち取った周東選手は、チーム最多の16盗塁を決めながら84.2%と高い成功率を記録。二盗のみならず三盗も易々と成功させる脚力は圧巻だ。また、同じく育成出身の釜元選手も、ここまで10盗塁を決めながら成功率100%を維持。育成出身選手の活躍が目立つホークスのブランドは、走力の面でも発揮されているといえそうだ。

 もちろん、育成出身者といえば甲斐選手を忘れるわけにはいかない。甲斐選手といえば盗塁を「刺す側」として有名だが、今季は7盗塁を決めて成功率も70%と、走者としても大いに存在感を発揮している。上林選手と福田選手も70%を超える成功率を記録しており、さまざまな打順から相手にプレッシャーをかけることを可能にしている。故障者続出の中でも上位争いを続けるチームにとって、高い盗塁成功率は大きな助けとなっているかもしれない。

おなじみの顔ぶれに加え、新たな俊足ランナーも続々登場

 当然の結果と言ってしまえばそれまでだが、チーム全体の盗塁成功率が高い埼玉西武、千葉ロッテ、福岡ソフトバンクの3チームは、盗塁数上位の選手たちが軒並み高い成功率を記録している。しかし、先述した「盗塁したほうが良い」とされる盗塁成功率70%を超える選手が、各球団に最低2名は存在するという事実も興味深いところだ。

 盗塁は送りバントと共に有効性の低い作戦とされることが少なくないが、高い成功率を維持できる選手ならば話は別だ。西川選手、荻野貴選手、金子侑選手といったリーグを代表する俊足ランナーに加え、辰己選手、佐野選手、周東選手といったフレッシュな顔ぶれも台頭。チーム全体の盗塁成功率向上、そして得点増に貢献するような韋駄天たちの活躍に、今後も期待したいところだ。

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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