足掛け8年の対戦成績は、通算打率.591――。
西武の十亀剣投手は2011年ドラフト1位で入団して以来、ソフトバンクの松田宣浩選手に打たれまくっている。内訳は、計55打席で44打数26安打、9本塁打、20打点、11四球、6三振だ。
「なんかもう、打たれることはしょうがないんですよ。僕も甘い球がありますし。ただ、結構いいところに投げても、いい打球を飛ばされるときもあるんですよ」
自然界の生物と同様に、プロ野球にも“天敵”が存在する。ピッチングとバッティングはタイミングを巡る駆け引きであり、十亀投手の投げるリズムに松田選手は合わせやすいのだろう。
「合っちゃうバッターは結構いますよ。楽天の藤田(一也)さんもそうです。結果的に何とかなっていますけど、苦手なんですよ。向こうが(僕に)合いすぎる」
十亀投手と藤田選手の対戦成績は、33打数7安打で打率.212。2013年に8打数4安打と打たれたことで十亀に苦手意識が植え付けられたのかもしれないが、総合的には抑えている(対戦成績は「nf3-Baseball Data House-」を参照して算出、以下同)。
やはり、松田への打たれ方は“奇妙”だ。
「周りがうるさいので、しっかり抑えたいですよ(笑)。正直、ソフトバンクはそんなに相性が悪くないので。柳田(悠岐)、上林(誠知)、中村晃……ボチボチ抑えているんですよ。“あの人”だけなんです」
ソフトバンクの主な打者との対戦成績は、以下の通りだ。
・柳田:37打数11安打、打率.297
・上林:25打数7安打、打率.280
・中村晃:32打数5安打、打率.156
ソフトバンク戦は30試合で113イニングに登板し、5勝12敗、自責点62、防御率4.94。1イニングにどれだけの安打と四球を許すかの数値で、投手の安定感を示す「WHIP」は2016年以降、「1.27→1.80→1.38→1.00」(1.32が「平均」の評価)で、「相性は悪くない」と言えるだろう。
では、なぜ松田選手だけに打たれるのか。その理由のひとつは、今年5月21日に沖縄で行われた試合の2回、第1打席に隠されている。
「映像を見ましたけど、見逃せばボールくらいのいいところにスライダーが行きました。でも僕のスライダーは変化が小さいので、曲がりっぱなをたたこうと、思い切り前に踏み込んできていると思うんですよ」
結果はフェンスぎりぎりのセンターフライだったが、秋山翔吾選手の好プレーがなければ長打になってもおかしくない当たりだった。
松田選手は打つポイントを前に置き、思い切り踏み込んでボールを振りにくる。そうした特徴と、十亀投手自身の球種が「合ってしまう」のだ。
「僕のカーブは、ストレートと球速が違いすぎます。真っすぐ、スライダー、シュート、フォークと、だいたい同じくらいのタイミングで待っていれば、当たるんです。変化も小さいし。そこが問題。抑えている人って、しっかり曲がるスライダーを外スラ(外角のスライダー)とかにして、ついていけてないことが多いので」
『Slugger』の選手名鑑で昨季データを参照すると、十亀投手の平均球速はストレートが145.2km/h、スライダーが134.9km/h(同誌は「カットボール」としているが、十亀投手は「スライダー」と定義)、シュートが139.8km/h、フォークが135km/h。いずれもストレートと大きなスピード差がなく、かつ変化は小さいため、打者は対応しやすい。一方、カーブは112.1km/hとストレートと球速差があり、ストレート待ちでも対応できるだけの時間がある。十亀投手はそこまで分析できているが、打ちとるとなると、別の話なのだ。
「いきなり大きい球種を覚えるのは難しいと思うので、考え方だと思いますね。(捕手の)岡田(雅利)や(森)友哉と相談します」
沖縄でマスクをかぶり、2打数無安打に抑えた森選手に聞くと、「真っすぐのタイミングで全部(の球種に)合うんだと思います」と話した。対して昨季までコンビを組んだ岡田選手は、「松田さんが苦手なのはインコース」と指摘する。
再び『Slugger』の選手名鑑を参照すると、松田選手のゾーン別打率は内角高めが.171、内角真ん中は.351、内角低めは.167と、内角高低に弱点がある。
ただし、十亀投手は制球力より球威で打ち取るタイプで、そこにミスマッチが生まれやすい。岡田選手が続ける。
「インコースを攻めても、甘く行ったら、松田さんの好きなゾーンになってしまう。去年の後半、今年はある程度抑えられました。高低と横の幅を使っていけば、なんとかなるとバッテリー側は思っています。ホントに外のボールも届いてしまうので、外角はボールにしてインコースの真っすぐで押すのか、外のボール球を振らすのか。駆け引き次第じゃないですか」
沖縄の対戦では、3打席ともスライダーが結果球になった。1打席目は外寄りのボールがいい当たりのセンターフライで、2打席目は外角低めに外れるボールを空振り、3打席目は同じコースを見られて四球を与えた。「2打数無安打、1四球」の裏には、西武バッテリーと松田の緻密な駆け引きがあった。
前半戦最後のカードで激突する今回、「十亀対松田」はこれまで以上に大きな意味を持つと岡田選手は見ている。
「やっぱり松田さんが打つと、チームも乗ってきます。今は柳田さん、今宮(健太)もいないし、松田さんが一番キーになってくる。そこを何とか抑えたら、勝ちにつながってくると思います」
「偶然」では片付けられないほど、極端な成績の出ている「十亀対松田」。マッチアップが実現するたび、ファンやメディアの注目を集めるほどだ。
なぜ、こんなに「合っちゃうのか」――そう思いを巡らせながら、プロ野球ファンには“奇妙な物語”を堪能してほしい。
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