今季の対戦成績は打率.750、3本塁打、OPS3.800と、まさに驚異的
エルネスト・メヒア選手が今季見せた活躍が、実際の数字以上に印象に残っている方の数は、決して少なくないのではなかろうか。今季は75試合で6本塁打、31打点、打率.211という成績で、本塁打と安打数は来日後ではワーストだった。しかし、9月に入ってからは2度のサヨナラ打を放ち、9月23日の楽天戦では8回に満塁の走者を一掃する決勝の適時二塁打。9月はOPS.989と勝負所で大きく調子を上げ、チームのリーグ連覇にも貢献を果たしている。
その終盤戦において、ファンの間ではメヒア選手が楽天の松井裕樹投手に対して発揮した相性が話題となった。この2選手の2019年シーズンにおける対戦成績と、通算の対戦成績は以下の通りとなっている。
2019年:4打数3安打3本塁打5打点1四球 打率.750 出塁率.800 長打率3.000 OPS3.800
通算:20打数9安打5本塁打9打点4四球 打率.450 出塁率.542 長打率1.250 OPS1.792
このように、まさに驚異的な数字が並んでいる。とりわけ、今季放った3安打がすべて本塁打という点は特筆もの。9回1死から同点に追い付く2ランとなった5月4日の一発と、ホーム最終戦で優勝を争うチームに貴重な白星をもたらした9月20日のサヨナラ2ランは、いずれも値千金の殊勲打と形容できるものだ。
埼玉西武は今季、楽天に対して3つの負け越しとやや分が悪かった。それだけに、相手の守護神を打ち砕いたメヒア選手の活躍は、チームにとっても非常に大きな意味を持つものだった。松井投手が今季記録した自責点は15。実にその3分の1を、メヒア選手一人でつけた計算だ。右の強打者であるメヒア選手に対しては、松井投手の決め球の一つであるスライダーが投げにくい点は影響していそうだが、いずれにしてもその苦戦の度合いは際立っている。
今回は、メヒア選手が今季松井投手から記録した3本の本塁打について、バッテリーの配球を中心に1つ1つ分析。なぜメヒア選手が球界最高のクローザーの一人である松井投手からこれだけの好成績を収められたのかを、実際の投球を基にひも解いていきたい。
4月10日(9回裏・ソロ)
メヒア選手と松井投手の今季最初の対戦は、3点ビハインドの9回裏、無死無走者という状況で訪れた。この本塁打は、球団通算9000本目のホームランとなる記念すべき一打にもなった。しかし、メヒア選手は「あと1本打てば9000号ホームランであることは知っていたけれど、打席の中では特に意識することはなかったよ」と、平常心で打席に臨んだことを明かしている。
しかし、大きく明暗の分かれた今季の松井選手とメヒア選手の対決の始まりという点を鑑みると、数字の面を抜きにしても大いに意義のある一発だったといえる。この打席での、楽天バッテリーの配球は下図の通りだ。
まず目につくのが、メヒア選手が球種ごとに見せた反応の違いだ。初球はボールコースのストレートを見送ったが、そこから高めのストレートに2球続けて手を出している。この状況で楽天バッテリーが選択した配球は、高めを続けた後に低めの変化球を使って振らせる、というもの。いわばセオリー通りの攻め方の一つであり、相手がメヒア選手のような三振と長打が多い外国籍選手であれば、なおさら理にかなったものだった。
しかし、メヒア選手は2球続いたチェンジアップを見極め、フルカウントまで持っていく。ここでバッテリーは配球を変えて直球を選択するが、メヒア選手はアウトコースに投じられた真っ直ぐをきっちりと捉える。持ち前のパワーを発揮して力負けすることなく捉えた打球は、そのままライトスタンドへと消えていった。
総括すると、松井投手のウイニングショットの一つであるチェンジアップをしっかりと我慢し、狙っていた直球をミスショットせずに打てたからこその一発だったと言えるか。昨季もメヒア選手は打率.750、1本塁打と松井投手を得意としていたが、今季初対決で見事な一発を放ったことが、次回以降の打席にもつながることになる。
5月4日(9回裏・同点2ラン)
続けて、5月4日の打席についても見ていきたい。2点リードの9回裏にマウンドに上がった松井投手は先頭の中村剛也選手を一ゴロに打ち取るが、続く外崎修汰選手を四球で出塁させた。1死一塁の状況で、辻発彦監督は木村文紀選手の代打としてメヒア選手を送り込んでいる。その場面での配球は以下の通りだ。
前回の対戦では、最後にチェンジアップから直球に変えて被本塁打を喫した。それも影響してか、この打席では直球を使わず、3球ともチェンジアップで勝負している。だが、前回の対戦と同じように、メヒア選手はストライクとなった1球目、外角高めに外れた2球目ともに反応せず。バッテリーはなおもチェンジアップを要求するが、その球はど真ん中近辺に向かう失投となる。
メヒア選手はこのチャンスボールを逃さなかった。豪快なスイングで流し打った打球はライトスタンドの最前列に飛び込み、起死回生の同点2ランに。自らの失投でまさかの同点劇を招いてしまった松井投手は、ボールの行方を目で追った後にがっくりと膝に手を置き、しばらくの間はそのまま動くことができなかった。
被弾直後の松井投手の反応にも如実に表れていた通り、打たれた球は完全なコントロールミスだった。しかし、前回の対戦と同様、変化球に全く反応しないメヒア選手の打席での所作が、バッテリーにとっては不気味に映った可能性もある。
メヒア選手は試合後のお立ち台で、「松井投手という本当に素晴らしい投手が相手だったので、ホームランを狙うというよりは、しっかりといいコンタクトをするというのを心掛けて打席に立ちました。結果的に同点になるホームランを打てて、本当に良かったと思います」と振り返っている。振り回すことなく冷静に打席に立てていたことが、このコメントからもうかがえる。
この打席に関しては、バッテリーの組み立て、メヒア選手の反応ともに、いわば今季初対戦の延長線上という趣だった。だが、それから約3カ月半を隔てた3本目の本塁打の際には、また違った傾向が示されてくる。
9月20日(9回裏・サヨナラ2ラン)
その後、9月20日までの間にメヒア選手と松井投手は2度対戦。一邪飛となった7月24日の打席では、ストレートが3球、チェンジアップとカットボールが各1球と、複数の変化球を織り交ぜた攻めを展開。メヒア選手が10球粘って四球を勝ち取った9月7日の対戦では、ストレートが7球、カットボールが2球、スライダーが1球と、ストレートを軸に変化球を交えた配球を見せていた。
そして、今季5度目、かつ最後の対戦が9月20日に訪れた。同点で迎えた9回裏にマウンドに上がった松井投手は、先頭の山川穂高選手にいきなり安打を許してしまう。しかし、ピンチバンターとして起用された熊代聖人選手にバントを許さず、1死1塁と走者を進めさせずに代打のメヒア選手を迎えた。そこからの配球は以下の通りだ。
もちろん、この打席でも直近2回の対戦と同様に配球の変化はあった。初球のストレートがファウルになると、バッテリーは過去2回の被弾時には投じていなかったスライダーを選択。この球が足元に外れてボールになると、続く3球目にもスライダーを選択。ストライクゾーンに来た変化球をメヒア選手が空振って2ストライクとなると、捕手の太田光選手は次の球を要求する際に中腰になって構えた。
松井投手がそこで投じた球は高めのストレート。1ボール2ストライクという状況を考えても、「釣り球」としての選択だったことは想像に難くない。しかし、メヒア選手はその4球目、アウトコース寄りに来た高めのボール球を、豪快なスイングで引っぱたいた。
身体から遠い位置に来たボールを引っ張り、飛距離を出すことが難しいのは周知の通り。しかし、メヒア選手の怪力と長いリーチはそういった不利な要素をものともしなかった。力強く捉えた打球はレフトへ高々と舞い上がり、試合を決める一打となってスタンドに飛び込んだ。
この打席においては、ストライクゾーンに来た変化球を空振ったという点が過去2回の本塁打とは異なっている。しかし、バットが届く位置に来た釣り球に対して、積極的に手を出したことが好結果へとつながった。
変化球に対して振り回したり、追いかけたりすることなく、狙っていた直球を確実に本塁打にする。言葉にすると簡単だが、プロの舞台でそれを実行するのは言うまでもなく難しい。松井投手ほどのクローザーが相手ならば、なおさらだ。シーズン打率.211と苦しいシーズンを送ったメヒア選手が、松井投手のボールは総じて冷静に見極められていたという点も、また興味深いところだ。
今シーズンは松井投手に対して無類の強さを誇ったメヒア選手だが、「松井投手は本当に素晴らしい投手なのですが、自分が打席に立つときは相手のピッチャーよりも自分との戦いだと思っていますので、いいピッチャーでも打ち返せることがある。難しい試合の中で、チームを助けることができてすごく嬉しく思っています」と、若き守護神に対するリスペクトの姿勢は崩さなかった。
単なる「相性」で片づけてしまうのは簡単だが……
昨季まで埼玉西武の十亀剣投手が、福岡ソフトバンクの松田宣浩選手に打ち込まれていた例がとりわけ有名だが、特定の投手にとって、「天敵」と言われるほどに対戦成績が悪い打者が存在するケースは少なくない。
それを単なる「相性」で片づけてしまうのは簡単だが、今回のように、具体的な打席内容に目を向けてみると、そうなった要因が少しづつ見えてくることもある。バッテリーと打者の考えを基に、今後の対戦成績がどう変遷するのかを予想してみるのも面白いのではないだろうか。
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