【台湾プロ野球便り】味全優勝の影の立役者、野手育成に尽力、「必殺仕事人」高須洋介コーチインタビュー

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.12.19(火) 07:00

指導者として、味全ドラゴンズの24年ぶりの台湾シリーズ制覇に貢献した高須洋介コーチ 画像提供:CPBL
指導者として、味全ドラゴンズの24年ぶりの台湾シリーズ制覇に貢献した高須洋介コーチ 画像提供:CPBL

 今季、一軍参入3年目にして後期シーズンで優勝、年間勝率1位も達成し、24年ぶりに台湾シリーズも制した味全ドラゴンズ。この味全でチーム再参入二年目の2020年夏から指導にあたっているのが高須洋介コーチだ。

 野村克也監督(当時)に「必殺仕事人」と称された勝負強い打撃と堅実な守備で、大阪近鉄や東北楽天で実働15年、BCリーグ(当時)新潟で選手兼コーチとしてプレー後、横浜DeNAや東北楽天でも指導者をつとめた高須コーチは、この3年半、味全でさまざまな役職を通じて野手の育成を行ってきた。


――あらためまして、台湾シリーズ優勝おめでとうございます。

「ありがとうございます」

――今年は8月に二軍の打撃兼内野守備コーチから、一軍の打撃コーチに配置転換となりましたが、2020年7月に内野守備コーチに就任以来、味全ドラゴンズでは様々な役職に就かれています。これまで守備、打撃、育成と、野手に関する全てに関わってきたというイメージでしょうか。

「そうですね。2年目、一軍に参入した2021年は二軍のヘッドコーチのような役割で、その次の年は一、二軍のコーディネーター。これは一軍の練習目的を二軍に伝え、二軍では技術面の改善などを行う、野手育成に関わる仕事です。そして今年がバッティングコーチなんで、守備、打撃、育成と全てに携わってきた感じです」

――振り出しに戻りますが、そもそも、どのようなきっかけで味全のコーチに就任されたのでしょうか。

「葉君璋監督が国際派というか、チームに既にメジャーのコーチはいたんで、日本のコーチを加えて、いいところをミックスしたチームづくりをしたいというところで、二軍に(元NPBの)蕭一傑投手コーチがいるので、彼に依頼して、そして仲介が古久保(健二)さんですね。近鉄でつながりがあったので」

――昨年は一軍参入2年目でプレーオフ初出場、そして今年は後期を制し、さらに台湾王者。葉監督は「後期優勝もうれしかったが年間勝率1位がよりうれしかった」と仰っていました。どんなお気持ちですか。

「自分の想像を、期待値を上回るスピードで成長しているなっていうのは感じます。野手もそうですけど、ピッチャーも含めて、チームとしての成長ですよね。当初、若い選手が多いなか、ベテランがいないなかでスタートして、林智勝、そして他のチームから中堅選手も入ってミックスされて、チームが成長しているというのは感じました」

――就任当初の台湾プロ野球の印象はいかがでしたか。

「当初は各チームともに打率が高く、バッティングに力を入れていて、どちらかというとメジャーのバッティングを取り入れている印象でした。日本も統一球に変わった時代がありましたけれど、その後、ボールが飛ばなくなり、ホームランや打率が、がっと下がったときにどういう戦術でいくのかなということで、日本人の細かい野球が少しクローズアップされるようになったのではないか、と思います」

――選手たちの能力、技術面、性格面などの印象をお聞かせください。

「身体能力がすごく高いな、という印象は最初もちましたね。ただ、その身体能力まかせというか、力まかせの部分も結構あったので、当たり前のことが当たり前にできる技術、基本的なことが足りないとは感じていました。性格的には、人懐っこくて素直、なんでも受け入れるような選手が多いですね」

――この3年あまりで、ドラゴンズの野手陣のここが一番変わった、成長した、と感じられる点はどこでしょうか。

「台湾でプロに入るカテゴリーの選手って、強いんですけれど、結構、コーチや監督に言われたことだけをやるような感じで来ていて、プロに入ってどうするかって時に、壁に当たる選手も多い。そこで、自分で考える習慣というか、フィードバックの繰り返しで、どうやって成長していくかってところを選手たちにはよく言うんです。その点では、考えて動けるようになってきているのかなと。あとは、成功体験でさらに良くなっていく部分があると思います」

――アジアプロ野球チャンピオンシップでも、味全の野手が存在感を示しました。

「非常に嬉しく思います。彼らは若くて、入った時から見ている選手なので、成長を目の当たりにして、結果を出したというのが本当に嬉しいことですよね。例えば、(4番を担った)劉基鴻にしても、決して順風満帆という感じできていたわけでもないし、今年は数字も全部上がってきてよかったですが、今まで守備の不安や、打席でまだ自分の思ったパフォーマンスが出せない時期もあったなかで、少しずつ自分のやろうとしてきたことがゲームで出せるようになって。彼はもっと成長する余白がまだあるので、今後楽しみですよね」

――現在、6球団全てに日本人コーチがいます。それぞれに指導スタイルをお持ちのようですが、高須コーチはどのようなスタイルをとられていますか。

「国がどうとかあまり関係なくて、うちにはメジャーのコーチとかも当然いるので、いろんな話も聞いていくなかで、コーチングは世界共通だなと思う部分もあります。私は、選手をよく観察するようにします。性格や私生活もふくめてよく観察したうえで、選手がどんな練習をしているのか、今はいい時か悪い時なのかってところを踏まえて、選手が助言とかアドバイスを求めてこない限りはあんまり指導はしないようにしています。ただその分、コミュニケーションは普段からしっかりとっていて、困った時は手を差し伸べるような。そこは一緒に寄り添って、しっかりやりますね」

――アジアプロ野球チャンピオンシップで台湾野球に関心をもった日本のファンもいると思います。現状の課題、また魅力とはどこらへんでしょう。

「もっと伸びしろがあるとは思っています。もっともっと強くなる可能性を秘めたチームだと思います。とはいえ、日本とやって0対4で敗れ、点差以上の差はあるのかなと感じました。ただ、何でもそうですが、多分慣れていけばクリアできる問題かと。今回対戦したような日本の左ピッチャーは、台湾の国内にはなかなかいないので、課題といえば課題ですよね。どうしても外国人の先発ピッチャーとか多いので、中継ぎでぱっと対戦して対応できるというのはなかなか難しい。身体能力は非常に高いので、そこにプラスアルファが加わると、もっとおもしろいと思います」

――日本のファンに、是非注目してもらいたい選手はいますか。

「味全ドラゴンズからだと、ギリ(吉力吉撈·鞏冠/ギリギラオ・コンクアン)の長打力は魅力的ですし、ヘアスタイルもね(笑)。劉基鴻も韓国戦でホームラン打ったように、彼はもっともっと打てると思うし、いずれ台湾代表の四番にずっと座れるような選手になれると思うので、注目してほしいです。ピッチャーでいうと徐若熙。台湾シリーズでは怪我明けでもMAX157km/h投げて、キレがあるタイプで、彼も日本へ行っても即通用するんじゃないかというくらいの球は投げるんでね。他のチームですと、この前(日本戦で)投げた古林(睿煬)とかもね。日本相手に抑えているというところもあるので、そういった選手も台湾にいるので楽しみですね」

――かつて味全に所属された田澤純一投手や関係者の方が、「高須さんはグルメ王、何でも食べる、一人で出かけていく」と驚かれていました。海外での指導も初めてだと思いますが、台湾での生活はいかがですか。
 
「大変な部分もありますけど、慣れてきたというか、あまり食事も気にならないですしね。二軍は(中部・雲林県の)斗六が中心だったので、自分で電車に乗って台南や高雄、台中に行ったり、休みの日は一人で観光していました。食べ物とかは調べて行くので普通の人よりも知っていると思います。言葉も食べる時に必要な単語だけは覚えたり。あとはエビ釣りに行って、寮に持って帰って料理してカレーを振る舞ったりしています」

――結構、果敢にチャレンジされるタイプなんですね。

「もともとそういう性格ではないんですが(笑)、せっかく海外に来ているので、受け入れていかないとな、と思うので。まずは食事からですね。日本に来る外国人選手でもタフィー(・ローズ)とか、(フィル・)クラークとかもそうですけど、日本の文化をある程度リスペクトして受け入れていて、そういう選手の方が成功する確率が高かったように感じます。なので、自分が実際海外に来て、食事でも文化でも、なんでも受け入れる姿勢があれば、なんとかなるんじゃないかなと思っていました」

――指導者としてはどうですか。

「指導者としては、うちはそれこそメジャーからもコーチが来られていて、メジャーの野球にふれる機会もあるので、勉強にはなりますよね。さまざまなやり方があるということ、人があまり経験できないことが経験できている、日本だけだったらわからなかっただろうな、と思っています」

――旧近鉄、そして東北楽天のファンはじめ日本のファンにメッセージをお願いします。

「今台湾に来て、再結成した新しいチームで、育成とかに携わって優勝もできたので、その選手達が今後どれだけ成長していけるか。台湾対日本の代表戦で、もっといい勝負ができるように、いい選手を育てていけたらなと思っています」

 
 穏やかで丁寧な語り口は、現役時代のイメージのまま。一方、選手たちに自分の頭で考える習慣をつけるよう言い聞かせているという話のなかで、「自分は身体も小さいですし、あの世界で生きていくには頭を使うしかなかったのでね」とさらっと語る姿からは、現役時代のいぶし銀の活躍を支えた高いプロ意識を感じた。

「日本人コーチらしくないって、よく言われます」と笑った高須コーチ。「らしくない」が意味するのは、普段からしっかりコミュニケーションはとったうえで、じっくりと選手を観察、困った時にようやく手を差し伸べる「我慢」の指導方法、さらには、各種のグルメチャレンジやエビ釣りなどオフの日の行動も含まれているのかもしれない。もちろん、日本野球の優れた点、日本人の良い部分についても十分に知っている台湾人が、敢えて「らしくない」と表現するのは「褒め言葉」だ。こうしたエピソードからも、選手や関係者と、高須コーチとの信頼関係の深さがうかがえる。

 東北楽天のファンを中心に、「必殺仕事人」高須コーチに思い入れのあるファンは少なくないだろう。味全ドラゴンズは台北市郊外の天母球場が本拠地で、観光がてらに観戦しやすいチームだ。シャイな高須コーチだが、球場で声をかけたら、きっと喜んでくれるはずだ。

文・駒田英

関連リンク

呉念庭、張奕も! 日本選手や元NPB組が続々と台湾へ
味全が24年ぶりに台湾シリーズ制す
味全ドラゴンズが26年ぶりの半期シーズン優勝
台湾在住記者が送る「台湾の宝」孫易磊徹底ガイド
王柏融の「契約所有権」譲渡の背景、真相を台鋼GMに直撃

記事提供:

駒田英(パ・リーグ インサイト)

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE