11月16日から19日まで東京ドームで開催された「アジアプロ野球チャンピオンシップ」、侍ジャパン戦に先発、6回2/3を1失点と好投した古林睿煬(統一)や、好守備を見せたショートの馬傑森(楽天)、さらには韓国戦でHRを打った劉基鴻(味全)、3位決定戦のオーストラリア戦でサヨナラヒットを放った郭天信(味全)らのプレーを通じ、台湾プロ野球に興味をもたれた方もいるだろう。実質的な海外FA権を行使し、大会前最も注目されていた曾峻岳(富邦)は、疲れもありほろ苦い結果となったが、課題を得て、さらなる成長へのモチベーションとしたようだ。
現地から台湾プロ野球の話題をお届けしているこのコーナー、今季の台湾プロ野球のポストシーズンの振り返りと、ストーブリーグの話題を二回に分けてご紹介する。台湾ではこのオフ、連日大ニュースが飛び込んできているが、まずは、プレーオフと台湾シリーズの結果、年間表彰式の話題をお伝えしよう。
プレーオフは楽天が「下剋上」、台湾シリーズでも先に王手をかけたが…
以前の記事でご紹介した通り、今季の後期シーズンは、各チーム残り10試合前後となった段階で、なおも全チームに優勝の可能性が残されているという大混戦であった。こうしたなか、首位、味全ドラゴンズは、終盤8日間で7試合戦う勝負どころを5勝1敗1分で乗り切り、優勝を大きくたぐり寄せた。そして、他チームのつぶしあいによって26年ぶりとなる半期シーズン制覇、さらに年間1位も決め、直接台湾シリーズに進出した。
台湾シリーズ出場権をかけたプレーオフは、前期優勝の統一7-11ライオンズに1勝のアドバンテージが与えられたが、後期シーズン終盤、中信兄弟との3位争いを制し勢いに乗った楽天モンキーズが、第1戦、第2戦と接戦をものにし、そのまま3連勝、「下剋上」で頂上決戦に進んだ。
それでは、シリーズを振り返っていこう。今年の台湾シリーズは、史上初めて初戦から2戦連続で延長戦に突入、3年ぶりに第7戦までもつれた。
11月4日、味全の本拠地、台北市の天母球場で行われた初戦は、2-2のまま延長戦へ。シリーズ史上最多、計16人の投手が登板、5時間17分に及んだ熱戦は、14回裏、味全の若き4番、初回に先制2ランを放った劉基鴻のサヨナラソロHRで、味全が劇的な勝利を収めた。翌5日の第2戦も両者譲らず0-0のまま延長へ突入、11回表、楽天が打者10人の猛攻で一挙4点をあげて勝ち越し、楽天として台湾シリーズ初勝利を挙げ、1勝1敗とした。
7日、楽天の本拠地、桃園市の楽天桃園球場で行われた第3戦もシーソーゲームとなったが、4-4で迎えた8回裏、楽天は、味全のセットアッパー林凱威を攻め3得点、7-4で勝利した。味全ナインに硬さもみられ、前身ラミゴ時代のシリーズ経験者を多く抱える楽天が主導権を握ったかに思えたが、8日の第4戦、味全は第1戦、救援で3イニングを投げた37歳のブライアン・ウッドールが奮闘する。「中3日」で先発したウッドールは、7回を被安打4、1失点と今季最高の投球をみせて4-1で勝利、2勝2敗のタイに戻した。
10日、再び天母球場に舞台を移し行われた第5戦は、序盤から楽天の「暴力猿打線」が爆発、シーズン防御率1位、味全のジェイク・ブリガムを4回途中でKO、朱育賢の2HR、3打点を含む15安打11得点で圧勝、3勝目をあげて楽天初の台湾シリーズ制覇に王手をかけた。
TJ手術から8月に復帰、「龍之子」徐若熙がキャリア最高の投球
追い詰められた味全であったが、ここで立ちはだかったのが、台湾球界トップクラスのポテンシャルをもつ右腕、「龍之子」こと徐若熙だった。2021年3月、プロ初登板初先発で11のアウト全てを三振で奪う鮮烈なデビューを飾った徐若熙は、昨春にトミー・ジョン手術を受け昨季は全休、今年8月末に一軍に復帰した。
徐若熙は今季、公式戦5試合の登板は最長4イニング、球数も70球以内で、シリーズ第1戦も4回74球1失点で降板していた。徐若熙がどこまで投げられるかに注目が集まったが、この日は序盤から飛ばし、2回表、朱育賢を空振り三振に切って取ったボールはこの日最速の157キロをマーク、走者を許さない。5回1死からその朱育賢にヒットを打たれパーフェクトは途切れたが、その後も、ヒットを打たれず、結局7回78球うちストライクが58球、被安打1、四死球0、奪三振7、無失点と、ほぼ完璧な投球内容でチームを鼓舞した。
楽天先発、WBC代表の黄子鵬も6回途中2失点と試合をつくったが、味全は8回は林凱威、9回は陳冠偉と勝ちパターンでつないで2-0で逃げ切り3勝目、「逆王手」をかけた。ここ一番で救世主となった徐若熙がヒーローインタビューで感極まると、スタンドのドラゴンズファンからは大きな声援が飛んだ。
そして、迎えた12日の最終第7戦、味全が先発にシーズン投手部門二冠のドリュー・ギャノンを立てた一方で、楽天は、シーズン終盤からブルペンに回って活躍、ポストシーズンここまで5試合、2ホールド、3セーブ、無失点のジェイク・ダールバーグを先発に起用した。しかし、結果的に誤算となった。
1回表、1点を先制した楽天だったが、1回裏、先発ダールバーグの制球が定まらない。いきなりヒットと四球でつくったピンチは併殺で切り抜けたものの、そこから連続四球で満塁とし、内野安打で同点とされると、さらに連続押し出しという乱調。2/3回で降板すると、急遽マウンドにあがった「第二先発」の曽仁和が2点タイムリーを浴び、初回に5失点、4点のビハインドを負ってしまう。
楽天は直後の2回表、2点を返し3対5とするが、そこから両投手が立ち直り、そのまま両チーム無得点で終盤へ進む。再び試合が動いたのは8回裏だった。味全は二死ランナーなしから三連打、今シリーズ全試合スタメンマスクの蒋少宏がタイムリーヒットを放ち、6-3とリードを3点差に広げた。
9回表、味全ベンチがマウンドに送ったのは、シーズンでは全試合先発登板のブリガムだった。ブリガムはランナー二人を出し、一発を浴びたら同点という場面はつくったものの、代打の林泓育はキャッチャーファールフライ、この瞬間、味全ドラゴンズの24年ぶり5度目となる台湾シリーズ優勝が決まった。
1999年、リーグ三連覇を決めた直後に解散、2019年にリーグに復帰し、2021年から一軍公式戦に再参入した味全は、昨季、初のプレーオフ進出を果たすと、今季は前期2位、後期優勝、年間成績1位で台湾シリーズに進出、そのシリーズでも粘りを発揮し、一軍三年目のシーズンで見事、台湾王者に輝いた。一方の楽天は前身・ラミゴ時代、2019年以来の台湾王者まであと一勝まで迫ったが、涙を飲んだ。
シリーズのMVPには、初戦と第6戦で先発、特に王手をかけられた第6戦でキャリア最高の投球をみせた徐若熙が輝いた。また優秀選手には、投手のやりくりが厳しい中、第4戦での先発での1勝を含め、3試合に登板し、防御率1.50と貢献した味全のウッドール、敗れた楽天からは全7試合に先発、2HRを含む10安打、打率4割と活躍した朱育賢が選ばれた。
今季の台湾プロ野球は、WBCで野球熱が高まっていた中、前後期シーズンともに混戦となったこと、さらにチアリーダー人気やイベント企画など各球団の興業面の努力もあり、レギュラーシーズン300試合の総入場者数が初めて延べ180万人を突破、1試合平均は過去3位の6,000人となった。この勢いそのままに、台湾シリーズも盛り上がりをみせ、味全主催、天母球場開催の5試合は全試合1万人の大入り満員となったほか、平日の火曜、水曜に桃園球場で行われた楽天主催の第3戦、第4戦も、1万人を超えるファンが入場、7戦合計73042人(平均10,435人)に達した。
シーズンMVPは投手二冠のギャノン(味全)、鄭浩均(中信兄弟)が新人王
アジアプロ野球チャンピオンシップ終了後の11月21日、台北市内のホテルでは年間表彰式が開催された。投打各タイトル、すでに発表されていたベストナイン、ゴールデングラブ賞などの表彰と共に、新人王、最大成長賞、年間MVPの発表が行われた。
年間MVPの候補には、13勝で最多勝、155奪三振もリーグトップと、チームの優勝に貢献、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を受賞した味全のアメリカ人右腕、ドリュー・ギャノン、夏場から調子をあげ、9月には月間MVPを獲得、23HRで2年連続のホームラン王に輝いた味全の主砲、吉力吉撈.鞏冠(ギリギラオ・コンクアン)、そして 元々は捕手ながら、昨季から打撃に専念、今季はほぼ指名打者での出場で、打率.313(リーグ4位)、22HR(同2位)、83打点(同1位)とキャリアハイの成績を残した廖健富(楽天)の3人がノミネートされていた。
結果、味全のギャノンが136ポイントを獲得、チームメイトの吉力吉撈.鞏冠を約20ポイント上回り、MVPを獲得した。2020年、韓国プロ野球のキア・タイガースでプレーしたギャノンについては昨季、韓国球界に加え、日本の球団も関心を示したが、ギャノンは味全の環境や首脳陣や選手間の良好な関係を気に入り残留を決めた経緯がある。味全ではギャノンを始め、シリーズ制覇に貢献した外国人選手との契約を延長する方針を示している。
今季、著しい成長をみせたプレーヤーに送られる「最大成長賞」には、富邦ガーディアンズの内野手、李宗賢が輝いた。104試合出場、117安打、打率.314(リーグ2位)、出塁率.378、長打率.424はいずれもキャリアハイ。昨年は新人年を除き、過去最少の出場試合と不振にあえいだが、球界を代表するイケメンが見事な復活を果たした。
新人王には、中信兄弟の昨年のドラフト1位、鄭浩均が選ばれた。鄭浩均は今季開幕からローテーション入りし、9勝5敗1S、防御率3.02の好成績をあげた。大学時代の2019年にロサンゼルス・ドジャースとマイナー契約。マイナーリーグ縮小の影響もあり、ルーキーリーグを経験したのみでリリースされたが、昨年は米独立リーグで小学校の大先輩、陽岱鋼とチームメイトになりプロの姿勢を学んだ。海外リーグ経験者の新人王は初。闘志あふれるマウンド上の姿からは想像できないユニークな性格の持ち主で、表彰式にもロックスターのような服装とメイクで登場、周囲をあっと言わせた。
なお、今年、ベストナインとゴールデングラブのW受賞者は、MVP受賞、投手のギャノン(味全)、ファーストの范國宸(富邦)、セカンドの李凱威(味全)、ショートの江坤宇(中信兄弟)、外野手の陳傑憲(統一)の5人だった。
MVPの候補やベストナイン、台湾シリーズやアジアプロ野球チャンピオンシップで活躍した台湾人選手たちは、来年のプレミア12台湾代表の有力候補だ。国際大会は相手チームの選手を少しでも知っておくと楽しみがぐっと広がる。台湾プロ野球に関心を持たれた方は、まず、これらの看板選手からチェックしてみることをおすすめする。
(情報は12月5日現在のもの)
文・駒田英
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