【台湾プロ野球便り】呉念庭、張奕も台湾球団へ。激震のオフ!日本選手や元NPB組が続々と台湾へ

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.12.18(月) 19:30

今春のWBCでは台湾代表としてプレーした呉念庭【写真提供:CPBL】
今春のWBCでは台湾代表としてプレーした呉念庭【写真提供:CPBL】

 現地から台湾球界の話題をお届けしているこのコーナー、シーズン締めくくりの二回目はストーブリーグの話題だ。台湾では11月25日から4年ぶりとなるアジアウインターリーグがスタート、台湾からも3チームが出場しているほか、3日からはファン待望の台北ドームをメイン球場としてアジア選手権が開幕、台湾プロ野球の選手17名が代表入りするなど、冬も野球熱は冷めていない。ただ、ストーブリーグの話題も盛りだくさん、一言でいえば「激震のオフ」となっている。

呉念庭の帰国で、来年の台湾プロ野球ドラフト会議が早くも大きな話題に

 最も衝撃的といえるのが、呉念庭の埼玉西武ライオンズ退団だろう。涙もみせた記者会見の中で、今後について「台湾で野球を続ける」と話した呉念庭。本人も、マネージメント会社も明言こそしていないが、台湾プロ野球でのプレーは確実だ。1巡目での指名も間違いないだろう。

 過去に特例はあったものの、2021年の陳冠宇、呂彦青ら、海外リーグでプレーしていた選手が帰国し、初めて台湾プロ野球でプレーする場合は、毎年7月に行われている台湾プロ野球のドラフトの対象となる。また、一軍でプレーするためには、指名球団と正式に契約し、支配下登録されなければならないため、デビューは早くても7月中旬以降となる。

 台湾プロ野球のドラフト会議は、前年の最下位チームから順に指名するウェーバー制だ。ただ、昨年リーグに加盟した第6の球団、台鋼ホークスは来季から一軍に参入するため、アジアウインターリーグ終了(12月17日)後、ドラフトのくじ引き順を決める。

 ちなみに、「一番くじ」の可能性が最も高い、今季、年間最下位の富邦ガーディアンズの林華韋GMは「代表クラスの好選手、非常に興味がある」と明言、また、自力で「一番くじ」を引く可能性を残す台鋼の劉東洋GMは、「日本スタイルの我が球団にぴったりの選手」と、いずれも高い関心を示している。

 ただ、呉念庭が「一番くじ」の権利を得た球団から指名されることが確実かというと、現時点ではまだそう言い切れない。不確定要素もある。その一つが今季はボストン・レッドソックスでプレーし、現在FAの張育成の動向だ。台湾紙『The Merit Times』は4 4日、MLB2球団が張にメジャー契約を提示したほか、日韓球界も関心を示し、アジアプロ野球チャンピオンシップ開催中には日本の球団と接触したと報じた一方で、オファー次第では、台湾球界入りの可能性もあるとの見方を示している。

 今春、台湾台中で開催されたWBCの1次ラウンドで、打率.438、2HRを含む7安打、8打点の大活躍をみせ、プールAのMVPを獲得した台湾最強の打者が仮に台湾球界入りとなった場合、「超大物」であるがゆえ、入団に関して特別ルールが協議される可能性もあるが、各球団のドラフト指名に影響を及ぼすことは間違いない。
  
 呉念庭がドラフト会議まで台湾で過ごす場合、調整方法については、大きく分けふたつのパターンが考えられる。ひとつが、春期キャンプから任意の台湾プロ野球チームの練習に参加し、「練習生」扱いの契約を結び、二軍公式戦に出場しながら調整するケース、もうひとつが、台湾の社会人チームと契約し、練習やリーグ戦へ出場しながら調整するというケースだ。ちなみに呉念庭の父、元プロ野球選手の呉復連氏は社会人チーム、台北興富発の打撃コーチで、これまでもオフに同チームの練習へ参加したことはあった。

台湾プロ野球ドラフト参加を決めた張奕、アジアウインターリーグでは台鋼の一員としてプレーする。右は劉東洋GM【写真提供:CPBL】
台湾プロ野球ドラフト参加を決めた張奕、アジアウインターリーグでは台鋼の一員としてプレーする。右は劉東洋GM【写真提供:CPBL】

張奕はまず台鋼に「テスト生」の形で合流、一方、王柏融は年内にも台鋼入りか?!

 埼玉西武から戦力外通告を受けた張奕の台湾での現役続行宣言もファンを驚かせた。張奕は当初、独立リーグを含め、NPB復帰を目指し日本でのプレーにこだわりをみせていたが、台湾メディアによると、台鋼ホークスの洪一中監督が12球団合同トライアウトを視察した際、「家族を養いたいと考えるなら台湾に帰ってきなさい。早いほうがいい。数年経っていざ戻ろうと思った時には、もう誰も必要としてくれないよ」と、本人に直言したという。張奕はこのストレートな一言に心を打たれ、台湾でのプレーを決意、ただ、幼いお子さんを含め、家族を慣れない台湾の地に連れて来るわけにはいかないことから、「単身赴任」を決めたという。

 11月23日、張奕は、アジアウインターリーグでは「テスト生」として台鋼の一員としてプレーすることを表明、27日から練習に合流した。呉念庭とは異なり、既に台湾プロ野球のドラフト参加を表明している張奕は、ウインターリーグ終了後もできればそのまま台鋼に残り、「練習生」契約を結び、ドラフト会議まで二軍戦出場を通じて調整したいと希望している。

 ただ、前述の通り、台湾プロ野球のドラフト会議はウェーバー制であることから、どの球団に指名されるかは未定だ。張奕はここから上位指名を目指し、実戦を通じて各球団にアピールしていくこととなる。
 
 11月13日に北海道日本ハムを退団した王柏融の動向も注目だ。8月10日、台鋼と楽天の間で交わされた「世紀のトレード」において、台鋼は今年7月のドラフト会議で全体1位で指名した元メジャーリーガー、WBC代表の林子偉を放出する代わりに、楽天からベテラン左腕の王溢正、実績ある外野手の藍寅倫、怪我からの復活を目指す若手右腕の翁瑋均を獲得したほか、王柏融が将来的に台湾球界へ復帰する際のCPBLにおける「契約所有権」を、台鋼へ譲渡することについて、楽天との間で合意をとりつけた。

 台鋼の劉東洋・GMは、現在、交渉中としながら、王は台湾でのプレーを希望しているとして、年内の契約締結に期待を示している。今季、過去最高の観客動員数を記録した台湾プロ野球。来季は、2008年以来16年ぶりに一軍は6球団制となる。代表主力クラスの帰国ラッシュにより、さらに盛り上がることは必至だろう。

拡張ドラフトで台鋼に移籍した郭俊麟(写真は富邦時代)【写真提供:CPBL】
拡張ドラフトで台鋼に移籍した郭俊麟(写真は富邦時代)【写真提供:CPBL】

補強進める新球団台鋼、新外国人に笠原祥太郎、拡張ドラフトでは郭俊麟ら獲得

 その第6の球団、台鋼ホークスであるが、一軍初年度の来季に向け、補強、テストを行っている。まず、11月14日、アジアウインターリーグに単独チームで参加するにあたり、広島、西武などNPBでもプレー経験のあるデュアンテ・ヒース、ABLや米独立に所属した右腕のジャック・フォックス、さらに、今季のBCリーグのMVP、元埼玉武蔵の右腕、小野寺賢人、ABLや米フロンティアリーグでもプレーした右腕、塩田裕一を補強した。この4選手はパフォーマンス次第で、来季の外国人選手に選ばれる可能性がある。

 そして、11月27日には、来季の外国人として、今季、横浜DeNAから戦力外通告を受けた、笠原祥太郎の獲得を発表、台鋼が合同トライアウト前から注目していたという左腕には大きな期待がかけられている。また、11月29日には独自のトライアウトを開催、今季まで広島でプレーした投手の行木俊、元巨人の捕手、広畑塁のほか、現役の独立リーグプレーヤーなど日本人選手を含む投手8人、野手3人、計11人が参加した。当日は球団幹部に加え、昨年、客員コーチをつとめた「侍ジャパン」日本代表の井端弘和監督に加え、吉見一起投手コーチも見守った。吉見氏は、今回のウインターリーグで台鋼の客員投手コーチをつとめる。

 拡張ドラフトも開催された。二年目の今回は、他5チームのプロテクト枠18人以外(今年、昨年のドラフト指名選手も自動プロテクト)から、台鋼が1人ずつ指名し、1選手あたり台湾元750万元(日本円約3500万円)の権利金を支払う形だ。

台鋼は11月28日、5球団から提出された名簿をもとに、味全からは今年の台湾シリーズ制覇にも貢献したベテラン中継ぎの王躍霖、統一からは2018年の新人王で、同年秋の侍ジャパンとの交流試合では2回をパーフェクトに抑えた右腕の施子謙、楽天からは昨季はブルペンの軸として44試合に登板した25歳の許峻暘、富邦からは、かつて埼玉西武でもプレーした郭俊麟、そして中信からはアジア選手権代表、俊足巧打の外野手、陳文杰を指名した。いずれも一軍で豊富な経験をもつ選手だ。

日本の皆さんにとって一番の注目は郭俊麟だろう。TJ手術を経て復帰も、富邦では起用法が定まっていなかったが、まだ老け込む年ではない。若い投手の多い台鋼では貴重な先発候補であり、復活を期待したい。

 このオフ、FA宣言した選手は3人。かつて日本球界でプレー、今季は5勝止まりながら、台湾投手リーグ4位タイの16試合先発、95イニング投げた中信兄弟の鄭凱文、今季、夏場以降は復調をみせた、リーグを代表する右の強打者、楽天の陳俊秀、そして、経験豊かな味全の捕手、劉時豪がFA宣言を行い、陳俊秀は中信兄弟への移籍が濃厚という報道もある。また、11月30日には各チームから60人の保有枠リストが発表された。なかでも楽天はブルペンを支えてきた球界唯一の100セーブ、100ホールド成功者の陳禹勳、500試合登板の左腕リリーフ賴鴻誠のほか、黄金期を支えた野手のベテランも漏れ、ファンに衝撃を与えた。

楽天モンキーズの新監督に就任した古久保健二氏【写真提供:CPBL】
楽天モンキーズの新監督に就任した古久保健二氏【写真提供:CPBL】

台湾プロ野球で10年ぶりに日本人監督誕生、日台交流戦の話題も続々と

 台湾プロ野球では、2020年の後期シーズンから公式球の反発係数が見直され、「打高投低」は解消、守備や戦術がより重視されるようになった上、台湾人投手の育成も喫緊の課題とされるなか、近年、日本人指導者が増えている。今季は味全の台湾王者を支えた高須洋介一軍打撃コーチはじめ、6球団全てで日本人指導者が活躍したが、台湾の楽天から東北楽天へ復帰した真喜志康永コーチを除き、おおむね契約更新が濃厚とみられる。

 こうしたなか、楽天は11月29日、古久保健二一軍ヘッドコーチの一軍監督就任を発表した。日本人が台湾プロ野球で監督をつとめるのは、2012年6月から2013年8月まで統一の監督をつとめた中島輝士氏以来10年ぶり。また、日本人のプレーヤーは上述の通り、台鋼が笠原祥太郎を獲得したほか、楽天も、BCリーグの昨年の投手三冠王で、今年も奪三振王に輝いた元信濃の鈴木駿輔を獲得した。アジアウインターリーグでは台鋼の一員としてプレーしている小野寺賢人、塩田裕一もここまで懸命にアピールしている。

 このほか、球団交流の話題も続々と明らかになっている。来年の2月17日、18日、楽天モンキーズは千葉ロッテのキャンプ地、石垣島に赴き、恒例の交流戦「アジアゲートウエイ交流戦パワーシリーズ」を行う。また、統一の蘇泰安GMも、現時点では計画段階としながら、来年2月、高知に赴き、埼玉西武との交流戦のほか、当地でキャンプを張るチームとの交流を行う方針を示した。このほか、読売ジャイアンツも球団創設90周年および台北ドームの開業を記念し、那覇での春期キャンプを打ち上げた後、台湾を訪問、来年3月2日に中信兄弟、3日に楽天モンキーズと親善試合を行うことを発表した。

 台湾プロ野球の盛況、日台球界の交流の深まりを感じるなか、悲しいニュースも伝えられた。阪神、日本ハムで現役10年、指導者としても豊富な経験をもち、中信兄弟の前身、兄弟エレファンツで1999年から2005年、2011年から2012年と計9年、アマチュアの崇越科技でも2年間指導者をつとめた榊原良行氏が11月26日に亡くなった。厳しい指導で若手選手の守備を鍛え、多くの内野の名手を育てた榊原氏は、優しく思いやりあふれる人柄で、選手たちから父親のように慕われ、尊敬されていた。現在、球界各方面で活躍する教え子たちの心痛ぶりが、恩師「BARAさん」の存在の大きさを物語っている。台湾野球に多大な貢献を果たした榊原コーチのご冥福を、心からお祈りする。(情報は12月5日現在のもの)

文・駒田英

関連リンク

味全が24年ぶりに台湾シリーズ制す
味全ドラゴンズが26年ぶりの半期シーズン優勝
台湾在住記者が送る「台湾の宝」孫易磊徹底ガイド
王柏融の「契約所有権」譲渡の背景、真相を台鋼GMに直撃

記事提供:

駒田英(パ・リーグ インサイト)

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE