CPBL史上最大級のトレードの経緯とは
前回の記事で紹介した通り、台湾プロ野球では、8月中旬、史上最大級のトレードが成立、ファンに衝撃を与えた。
台鋼ホークスからは、7月のドラフト会議にて全体1位で指名したばかりの元メジャーリーガー林子偉が楽天モンキーズへ、楽天からは、王溢正、翁瑋均の2投手と外野手の藍寅倫の3人が台鋼へ移籍することとなった。さらに、両球団は、北海道日本ハムファイターズの王柏融について、CPBLにおける「契約所有権」を、楽天から台鋼へ譲渡することに合意したのである。
この史上最大級のトレードの背景、真相を確かめるため、台鋼ホークスの劉東洋・GMにインタビューを行った。
――林子偉のトレードについて決断したきっかけは何でしょうか。
我々は、林子偉の実力はもちろん、地元高雄出身のスター選手として高く評価していました。ただ、ホークスの現在の戦力(9月12日現在、二軍公式戦、63試合30勝29敗4分で、6チーム中3位)を考えると、彼一人で来季一軍を戦っていくのは厳しい。どうやって複数のポジションを一軍経験の選手で埋められるのかと考えていた中、台湾に戻ってきた林にとっては、トレード自体はアメリカでよく見る風景だし、他球団への移籍についても抵抗感がなかったので、どうしたらWin-Winにもっていけるのか、トレードについて考えました。
――林子偉のトレード相手として、楽天のこの3人、そして将来的な話となりますが、プラス王柏融を選んだ理由はなんでしょう。特に今回移籍した3人については、若手プロスペクトではなく、うち2人がベテランですが、これは洪一中監督の考えが大きいのでしょうか。
今回移籍した3選手、そして王柏融選手はいずれも、洪一中監督の元でプレーした選手です。洪監督は性格面も含めて、彼らが若いチームに何をもたらすことができるのか一番知っています。もちろんGMの私も技術面以外の部分を理解したうえでの獲得であり、総合判断です。ベテラン選手は、オフのエクスパンションドラフト、戦力外で獲ればいいという声もありますが、エクスパンションドラフトでは別の戦略を練っていますし、オフでなく、ファームの試合を戦っている今だからこそ、彼らがチームに加入することで若い選手にとっては刺激、模範になりますからね。
――楽天が得をしたトレードという見方もありますが、その点についてどう思われますか。
確かにトレード発表後には批判の声もありました。ただ、目先のことしか考えなければ恐らく今回のトレードは成立できないだろうし、チームは進まないと思います。このトレードは、今のチームに、そして来季のチームに何が必要か、何度もミーティングで話し合い、分析した上での判断です。私も洪監督も、球団経営陣も皆、信念を曲げずに、彼らを信じて突き進もうと思っています。
――ここからは日本のファンも気になるところだと思いますが、今回の楽天モンキーズとの協議、つまり王柏融選手が今後、CPBLに復帰した際の、楽天から台鋼への「契約所有権」譲渡に関する話は、北海道日本ハム側には伝わっているのでしょうか。
発表前、楽天モンキーズさんと合意した段階で、ファイターズさん側にはお伝えしました。まず、王柏融選手がファイターズに所属する選手であることは重々承知しており、契約関係を最大限尊重すること、そして、あくまでもCPBLに復帰した場合の契約所有権の譲渡であることをご説明した上で、これから両球団の、そして日台球界の長きにわたる友好関係についても大切にしていきたい、と伝えさせて頂きました。8月、私はファイターズを訪問し、関係者の方たちとお会いしましたが、王選手に対する手厚いサポート、ケアを目にし感動しました。台湾プロ野球の関係者として、感謝の気持ちです。
――王柏融選手本人には、どのような形で伝えているのでしょうか。
やはり、楽天と合意した時点で伝えました。先ほども申し上げた通り、王選手はファイターズの契約選手ですので、その契約関係を最大限尊重するという前提のもとで、「今後、仮に」という形で伝えました。将来の話ではありますが、CPBL復帰の際、本人は新球団でやりたいという気持ちが強いのではないか、と感じました。そうした「手応え」はあります。今回、札幌で会って、あらためて経緯を直接説明し、将来的な話として、「よろしく」と伝えました。
――その王柏融選手ですが、支配下登録され一軍昇格以降、滑り出しは好調です。本人も育成契約から這い上がっての活躍に充実感のある表情をみせています。台湾のファンも活躍に湧いています。残りシーズンも活躍し来季も残留、もしくは別のNPBのチームからのオファーなどがあり、戻ってこない可能性など、その点についてはどう考えるのでしょうか。その場合もあくまで、台湾に戻ってくるまで待つ、というスタンスなのでしょうか。
トレード発表の時点では王選手はまだ一軍昇格前で、このトレードに懐疑的な見方も多くありました。ただ、我々の、王選手に対する評価はずっと変わっていません。もちろん、王選手はファイターズの契約選手ですので、契約についてはこちらから触れることはできません。ただ、同じように感じているファンの方もいると思いますので、台鋼ホークスのGMとして私の考えを述べさせていただきます。
私もいち野球ファンとして、日本や台湾のファンと同様、王選手のファイターズでの成功を願っている一人です。ただ、同時に台鋼ホークスにとって王選手は、将来的にどうしても必要な選手です。実績もさることながら、その豊かな経験をもってホークスの若手を引っ張ってくれる選手だと評価しています。彼はこれから、台湾プロ野球の歴史に新たな1ページを刻むことができる、歴史を変えられる男です。我々は将来的に、彼を母国に連れてくることが使命だと考えています。当時と今では少し状況は違いますが、約30年前、あの呂明賜さんが日本プロ野球から台湾プロ野球に戻ってきて、「呂怪物旋風」を巻き起こしました。王選手にはその再来を期待したいです。あくまでも将来の話で、来年か再来年か、いつかはわかりませんが。
――最後に、台鋼ホークス、そして劉GMにとって今回のトレードには、どのような狙いがあるでしょうか。
台湾プロ野球はこれまでトレードがほとんどなく、人材の流動性は高くありませんでした。今回のトレードによって、台湾球界が活性化するきっかけになればいいな、と考えています。我々が新規参入したことでCPBLは6球団となり、選手にとってチャンスが増えましたが、それだけではなく、リーグに新しい風を吹き込むことに、「中華職棒新球団・台鋼雄鷹」の意義があるように思います。
文・駒田 英
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