2006年から13年にわたって活躍した古巣のユニフォームに、6年ぶりに袖を通す
11月16日、炭谷銀仁朗選手が埼玉西武に復帰することが発表された。2006年から2018年まで、13年間にわたってライオンズで活躍した経験を持つ炭谷選手にとって、古巣のユニフォームに袖を通すのは6年ぶりとなる。
炭谷選手は前回在籍時に1度のベストナイン、2度のゴールデングラブ賞を受賞し、扇の要としてチームを支えた。36歳となった2023年も東北楽天で主力捕手の一人として活躍していただけに、若手の多いチームにとって貴重な戦力となる可能性はありそうだ。
今回は、炭谷選手のこれまでの球歴に加えて、指標に見る炭谷選手の特徴や、埼玉西武において期待される役割について紹介。リーグ屈指の守備力を武器に一線級で活躍してきた頼れるベテランの復帰が、チームにもたらす波及効果にも期待を寄せたい。
埼玉西武の正捕手として、1度のベストナイン・2度のゴールデングラブ賞に輝いた
炭谷選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
炭谷選手は、2005年の高校生ドラフト1巡目でライオンズに入団。ルーキーイヤーの2006年には高卒新人ながら開幕戦でスタメンマスクを任され、10代の若さで54試合に出場。打撃面では打率181、OPS.483と苦戦したものの、豊かな将来性を垣間見せた。
しかし、当時のライオンズで正捕手を務めていた細川亨氏の存在もあり、3年目までレギュラー確保はならず。それでも、細川氏が故障した2008年の日本シリーズでは捕手の座を受け継いで奮闘し、チームの日本一に貢献を果たした。
続く2009年には112試合に出場するなど成長を続けたが、2010年は開幕前の大ケガで1試合の出場にとどまった。だが、2011年の細川氏の移籍を機に正捕手の座を確保すると、そこから7年連続で100試合以上に出場。1度のベストナイン、2度のゴールデングラブ賞に輝き、ワールド・ベースボール・クラシックの日本代表にも2大会連続で選出された。
2016年以降は森友哉選手と岡田雅利選手の台頭もあって徐々に打席数を減らしたが、2017年にはキャリア平均を大きく上回る打率.251、OPS.638を記録するなど、長きにわたって主戦捕手の一角として活躍。菊池雄星投手とバッテリーを組んで2018年のリーグ優勝にも貢献するなど、豊富な経験を活かしてチームを支え続けた。
巨人ではリーグ連覇に貢献し、東北楽天でも主戦捕手としてチームを支えた
2018年オフにFA権を行使して巨人に移籍すると、セ・リーグ1年目の2019年は58試合の出場ながら打率.262、OPS.745を記録。レギュラー確保こそならなかったものの、貴重なベテラン捕手として堅実な働きを見せ、2019年と2020年のリーグ連覇にも貢献した。
2021年途中にトレードで東北楽天に加入し、2022年には98試合に出場して打率.237を記録。30代半ばに差し掛かって以降も、主戦捕手の一人として活躍を見せていた。2023年にも65試合に出場してチームを支えており、捕手としての実力はまだまだ健在だ。
打撃面の指標は高水準ではないが、それも守備力の高さを示す要素でもある?
指標に目を向けると、キャリア通算打率が.215、通算OPSが.546と、打撃面で重要視される数字はいずれも高水準とは言い難い。また、出塁率から打率を引いて求める「IsoD」が通算で.041、四球を三振で割って求める「BB/K」が通算で.224と、選球眼に関連する指標にも課題が見受けられる。
ただし、本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になる割合を示す「BABIP」が、通算.259とかなり低くなっている点も重要だ。BABIPは運に左右される要素が大きく、長い目で見ると平均値に収束しやすい。しかし、炭谷選手の場合は、通算3845打数と十分な量のサンプルサイズがあるにもかかわらず、平均値とされる.300を大きく下回っている。
すなわち、炭谷選手の場合は継続して運が悪いというよりも、打撃スタイル等の面においてヒットが出にくい特性を持つ選手であると考えたほうが自然だ。にもかかわらず、通算1541試合、4318打席と多くの出場機会を得てきたこと自体が、炭谷選手の守備力がキャリアを通じていかに高く評価されてきたかの表れでもある。
打撃に課題を抱える若手捕手が多いチーム事情も、炭谷選手の追い風となりうる
炭谷選手にとって埼玉西武への復帰は6年ぶりとなるが、前回在籍時とはチームの捕手事情が大きく様変わりしている。かつて正捕手の座を争った森選手はオリックスに移籍、岡田選手は故障の影響もあり、過去2シーズンでわずか1試合の出場にとどまっている。そうしたチーム事情もあって、昨季の捕手陣は若手主体の起用が目立っていた。
その一方で、埼玉西武の捕手陣には炭谷選手と同じく、現時点では打撃に課題を抱える選手が多い。2022年にチーム捕手最多の100試合に出場した古賀悠斗選手の打率は.218と、炭谷選手の数字と大きな差はない。また、柘植世那選手と古市尊選手もシーズン打率1割台に終わっており、オフェンス面での貢献は限定的だった。
炭谷選手は東北楽天でプレーした過去2年半において、いずれも打率.219以上を記録してきた。2023年のOPSは古賀選手の.596に対して炭谷選手が.519と差があるものの、現状の捕手陣において、炭谷選手の打力が大きなネックとなることはないと考えられる。
現在のチーム状況を考えれば、来季も引き続き若手の出場機会が多くなることは予想される。しかし、自身と同タイプの選手が多く、若手の手本となるベテランが重宝されることも想定される状況は、炭谷選手にとってもプラスとなる可能性が高いはずだ。
チーム事情に合致した名捕手の帰還が、ライオンズにもたらす波及効果に注目だ
36歳の炭谷選手にとって、24歳の古賀選手、26歳の柘植選手、21歳の古市選手の3名は、いずれも10歳以上年下の若手になる。炭谷選手自身もかつては細川選手と競いながら正捕手へと成長していっただけに、18年間のプロ生活で培ってきた豊富な経験をチームに還元し、捕手陣全体のレベルアップに貢献する役割が期待されるところだ。
その一方で、炭谷選手は2022年に98試合に出場してリーグ3位の盗塁阻止率.339をマークし、2023年も若手の太田光選手や安田悠馬選手と出場機会を分け合った。炭谷選手は主に岸孝之投手や早川隆久投手の先発試合で先発マスクを被り、両投手はともにシーズン防御率3点台を記録。この数字にも、投手の良さを引き出す炭谷選手の能力が示されている。
こうした近年の活躍を鑑みても、炭谷選手の存在価値は若手に対するコーチ的な役割だけにとどまらない。年齢を重ねた今もなお、主力捕手の一人としてプレーできるだけの力を備えているということだ。近年は各チームで捕手を併用する戦略がスタンダードとなりつつあるだけに、炭谷選手が新天地で戦力として重宝される機会も少なからず訪れることだろう。
若手にとっての生きた手本として、そして超えるべき壁として、チーム力の向上に寄与する可能性は十分。チーム事情に合致した名捕手の復帰が、若獅子たちにどんな波及効果をもたらすか。新シーズンのライオンズにおける、要注目のファクターの一つとなりそうだ。
文・望月遼太
関連リンク
・「みちのくの安打製造機」銀次の名場面トップ3を動画で振り返る
・2023年WBC組のシーズン成績はどうだった?
・「捕手以外のポジションでプレーした捕手」の顔ぶれ
・2022年のドラフト組で「即戦力」として活躍した選手
・2023年にユーティリティとして活躍した選手は?
記事提供: