併用の増加で重要性が増す? 「捕手以外のポジションでプレーした捕手」の顔ぶれは

パ・リーグ インサイト 望月遼太

オリックス・森友哉選手 【写真:球団提供】
オリックス・森友哉選手 【写真:球団提供】

捕手からのコンバートが、名選手誕生のきっかけになったケースは少なくない

 捕手を本職としながら、打力を生かして他のポジションでも出場する選手は少なくない。その中には、小笠原道大氏や和田一浩氏といった、捕手からコンバートされて大打者へと成長した選手も存在するだけに、他の守備位置で台頭を果たすことは大きな意味を持ちうる。

 今回は、2023年のパ・リーグにおいて捕手として登録されていた選手のうち、捕手以外のポジションで試合に出場した選手たちを紹介。各選手が今シーズンに見せた活躍を振り返るとともに、ユーティリティ性を持つ捕手の重要性について考えていきたい。

大胆な起用法が多い北海道日本ハムが、全10選手のちょうど半数を占めた

 2023年のパ・リーグで捕手以外の守備位置に就いた、捕手登録の選手は下記の通り。

捕手登録選手の守備成績(C)PLM
捕手登録選手の守備成績(C)PLM

 全10選手のちょうど半数にあたる5選手が、北海道日本ハム所属の選手で占められた。新庄剛志監督は就任後の2シーズンにおいて、多くの選手に複数ポジションでの守備を経験させてきた。その傾向は捕手登録の選手に関しても同様であり、捕手と野手の双方をこなすユーティリティとして起用される選手の多さにもつながっている。

 マルティネス選手は捕手として31試合、一塁手として41試合に出場。複数ポジションをこなしながら15本塁打、OPS.763を記録し、移籍1年目から主力として活躍した。中日時代は外野手としても試合に出場していただけに、今後はさらなるユーティリティ性を発揮する機会もあるかもしれない。

 郡司裕也選手は6月に中日からトレードで加入し、捕手、一塁手、二塁手、外野手の4ポジションを経験。ユーティリティ性を活かした守備に加えて、55試合で3本塁打、打率.254と打撃面でも奮闘。郡司選手にとって、2023年のトレードは自身の活躍の場を大きく広げるものになったと言えよう。

 田宮裕涼選手はシーズン最終盤に出場機会を増やすと、わずか10試合で2本塁打を記録。打率.258、OPS.742と打撃センスの一端を示し、捕手として6試合、外野手として3試合に出場した。持ち前の強肩を随所で発揮し、シーズン最終戦で先発マスクを被った23歳の若きホープが、来季以降にさらなる台頭を見せられるかに注目だ。

 郡拓也選手は本職の捕手では一度も一軍出場がなかったのに対し、一塁手、二塁手、三塁手の3ポジションで守備に就き、打率.267と一定の数字を残した。打率.260を記録した清水優心選手も捕手に加えて一塁手で1試合に出場しており、両者ともに打撃センスを活かして出場機会を増やしたいところだ。

森選手と頓宮選手の起用法は、チームのリーグ制覇の重要なファクターになった

 安田悠馬選手は捕手として45試合に出場したほか、一塁手としても1試合に出場。開幕スタメンを勝ち取りながら故障に泣いたプロ1年目の2022年に比べて、着実に出場機会を伸ばした。打率.218、OPS.641に終わった打撃面でアマチュア時代から定評のあったパンチ力を発揮できれば、捕手以外の役割でも出番を増やせる可能性はありそうだ。

 佐藤都志也選手は2022年に一塁手として50試合に出場したが、今季は一塁での出番が大きく減少。その一方で、主に若手投手の先発試合でマスクを被り、終盤戦では小島和哉投手と組んで好投を引き出すなど、捕手としての成長を示した。来季は打率.218、OPS.616と横這いの成績に終わった打撃面を改善し、より活躍の場を増やせるかに注目だ。

 移籍1年目となった森友哉選手は、若月健矢選手の存在もあって捕手とDHを兼任。長期離脱からの復帰後は右翼手としても出場し、若月選手との共存を実現させた。打率.294、18本塁打、OPS.893とハイレベルな打撃を見せ、ポストシーズンでも捕手と外野手を務めて活躍。攻守にわたって幅広い役割をこなし、チームのリーグ優勝にも大きく貢献した。

 頓宮裕真選手は2022年に捕手として34試合に出場していたが、2023年に捕手を務めたのは1試合のみ。主戦場を一塁に移して高い打撃力を存分に発揮し、打率.307で自身初タイトルとなる首位打者を獲得。16本塁打、OPS.862と他の成績も打線の中軸に相応しいものであり、捕手からのコンバートが大きな成功を収めた最新のケースといえよう。

 谷川原健太選手は捕手として20試合、外野手として31試合に出場。抜群の強肩、代走でも起用されるほどの脚力に加えて、外野の3ポジション全てをこなす器用さも兼ね備え、守備固めでの出場も増加。クライマックスシリーズでも3試合全てで途中出場するなど、重要な局面でも頼りになる存在として、幅広い役割に適応しながらチームに貢献している。

捕手の併用が一般的な戦略となる中で、捕手が規定打席に到達するためには……

 2023年のパ・リーグにおいて、捕手登録の選手の中で規定打席に到達した選手は、森選手、頓宮選手、マルティネス選手の3名。先述の通り、この3選手は指名打者を含む捕手以外でのポジションで試合に出ることも少なくなかっただけに、純粋に捕手のみの出場で規定打席に到達した選手は、リーグに一人も存在しなかったことになる。

 そんな中で、福岡ソフトバンクの甲斐拓也選手は139試合に出場して420打席に立つなど、正捕手として年間を通じてプレーした唯一の選手となった。その一方で、その福岡ソフトバンクを含む6球団すべてが、30試合以上で守備に就いた捕手を2名以上にわたって擁していた点も、時代の変化を端的に示しているといえよう。

 すなわち、現代野球では捕手を併用しながら長いシーズンを戦い抜く起用法が確立されつつある、ということになる。打力に優れた森選手と若月選手を擁するオリックスが、両選手をうまく共存させながら、最終的にリーグ優勝という成果に結び付けた事実は、様々な意味で現代野球を象徴するものでもあるだろう。

 こうした状況にある中で、捕手登録でありながら他のポジションを守れる選手の存在は、従来以上に重要となってくるかもしれない。マルティネス選手、郡司選手、森選手のように、打力に優れた選手が捕手以外のポジションを兼任しながら出場機会を伸ばすことは、チームにとっても、選手本人にとっても大きなプラスとなることだろう。

今回取り上げた選手たちが、来季以降にさらなる活躍の場を得られるかに注目だ

 過去2年間のNPBでは投高打低の傾向が続いているだけに、失点を防ぐための守備の要を担う捕手の重要性は、ますます高くなりつつある。守備面での負担の大きさを考えれば、長いシーズンにおいて、捕手の併用策を取るチームが増えているのも理解できよう。
 
 だからこそ、捕手が現代野球においてチーム内で不動の地位を築くためには、捕手以外のポジションもこなす必要が出てくる可能性が高い、という見方もできる。今季の捕手で規定打席に到達したのが、森選手、頓宮選手、マルティネス選手の3名だけという事実が、その証左でもあるだろう。今回取り上げた選手たちが来季以降にさらなる活躍の場を得られるのかどうか、今後もぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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