BABIPは運に左右されやすい指標とされているが……
セイバーメトリクスで用いられる数字の一つに、「BABIP(バビップ)」という指標が存在する。本塁打を除くインプレーとなった打球が安打になった割合を示すものであり、基本的には選手の能力に影響を受ける要素が少なく、運に左右されやすいとされる。
そのため、短期的な数値の上下は発生するものの、長いスパンで見れば平均値に近い数字に収束していくと考えられている。その一方で、俊足の左打者で内野安打が多い、打球の質が高くヒットコースに抜けやすいといった理由によって、キャリア平均のBABIPが平均値とされる.300を大きく上回り、非常に高い水準で安定している打者も少なからず存在する。
今回は、2023年のパ・リーグで規定打席に到達している選手たちの、BABIPの数値を紹介。それに加えて、パ・リーグにおける通算打席数がトップ10に入っている選手たちのBABIPを確認することによって、この指標が持つ別の一面について考えていきたい。(成績は9月18日の試合終了時点)
首位打者争いを繰り広げている3選手が、BABIPにおいても上位に
今季のパ・リーグで規定打席に到達している選手たちのうち、BABIPが上位10名以内に入っている選手たちの顔ぶれは以下の通り。
ランキング1位となった近藤健介選手は、キャリア通算のBABIPも.352と高水準だ。また、同僚の柳田悠岐選手も通算BABIPが.363と非常に高く、ランキング3位に入っている今季のBABIP.327という数字が、キャリア平均を大きく下回っているのだから驚異的だ。
ハイレベルな数字を残しているホークス勢の間に割って入って2位となったのが、現時点で打率ランキング1位の頓宮裕真選手。キャリア平均のBABIPは3割を下回っているだけに、今季は昨季まで運に恵まれなかったぶんを取り返していると言えそうだ。
また、ランキングのトップ10に入った選手は全て、平均値とされる.300以上のBABIPを記録している。ただし、9位の松本剛選手と10位の野村佑希選手は今季も.300を上回るBABIPを記録しているが、松本剛選手が通算BABIP.312、野村選手が同.322とキャリア平均の数字がさらに高いため、今季は打率も通算の数字に比べて低下してしまっている。
とりわけ、松本剛選手は2022年に怪我がありながら.379と非常に高いBABIPを記録し、打率.347で首位打者を獲得。今季はBABIPがキャリア平均を下回る中でも通算成績に近い打率を残しているが、BABIPの収束が打率に反映されている例となっていることも確かだ。
キャリア通算のBABIPが低い選手たちは、おしなべて今季のBABIPも低かった
また、規定打席到達者のうち、BABIPが下から10番目以内に位置した選手は次の通り。
中村奨吾選手がBABIP.247という数字で最下位となった。中村選手はキャリア通算のBABIPも.290と3割を下回っているが、その数字をも大きく下回っている。今季の中村選手は打率.224と不振に苦しんでいるが、BABIPの低さもその要因の一つと考えられる。
また、同じく千葉ロッテに在籍するポランコ選手のBABIPも.255と低い。ポランコ選手はプルヒッターの傾向が強く、極端なシフトを敷かれることも多いため、ヒット性の当たりが野手の守備範囲となることも少なくはない。打者のタイプによっては、シフトによってBABIPが低下することもあるとされており、ポランコ選手もその影響を受けていそうだ。
それに続く3位と4位に位置したのは、宗佑磨選手と今宮健太選手。1位の中村選手も含めていずれも一定以上の脚力を備えており、内野安打が期待できないタイプではないはずだが、3名共にキャリア通算のBABIPも3割を下回っている点は少々不思議な部分だ。
山口航輝選手、安田尚憲選手、紅林弘太郎選手といった若手選手のBABIPが低くなっているのも特徴的だが、山口選手と紅林選手はキャリア通算のBABIPが非常に低く、今季のBABIPは2名ともに自らの平均値を上回っている。両選手ともに今季の打率が通算打率に比べて高くなっている点も、相対的な要素の大きいBABIPという数字の特性を表している。
また、ランキングの下位10名に位置した選手のうち、キャリア平均のBABIPが3割を上回っているのは、浅村栄斗選手と小深田大翔選手の2名のみ。キャリアを通じてBABIPが低い選手がそのまま下位に位置しやすい傾向も、BABIPが持つ興味深い側面と言えよう。
プロで多くの打席に立ってきた選手たちは、総じて相応に高いBABIPを記録している
続いて、パ・リーグに所属する現役選手の中で、通算打席数が上位10名に入っている選手たちの数字は、下記の通りとなっている。
現役パ・リーグ戦士で最も多くの打席に立っている栗山巧選手は、通算BABIPも.322と高い。俊足の左打者として長年にわたって活躍してきただけに、この数字も納得だ。その一方で、同僚の中村剛也選手は右打ちの強打者で、通算のBABIPも.290と低い。獅子のレジェンド2名が正反対の打撃スタイルを持つことは、BABIPにもはっきりと示されている。
また、4度の盗塁王を獲得した西川遥輝選手の通算BABIPは.341と非常に高く、韋駄天の面目躍如となっている。しかし、2020年には.369と非常に高いBABIPを記録していたが、2021年は.289、2022年は.280、そして2023年は.250と近年は徐々に数字が低下。こうしたBABIPの低迷が、西川選手の長引く不振の理由の一つとも考えられる。
そして、通算打席数が上位10名に入った選手のうち、通算BABIPが.300を下回っているのは中村選手、今宮選手、鈴木大地選手の3名。このうち、鈴木大選手は.299とほぼ.300に近い数字を残していることを考えれば、平均値を大きく下回ったのは、右打者である中村選手と今宮選手のみとなっている。
同じ右打者である浅村選手が通算BABIP.311を記録している点には留意が必要だが、先述の数字は、近年のNPBにおいて左打者が増加している理由を端的に物語るものでもある。ただし、プロの舞台で多数の打席に立てるだけの実績を積み上げてきた選手たちが、いずれも一定以上のBABIPを記録している点は興味深いところだ。
打者にとってのBABIPは、運の良し悪しだけを示す指標ではない?
BABIPという指標自体が運に左右されやすく、シーズンごとの増減も激しくなりがちなのは確かだ。ただし、打者のBABIPに関しては、.300という平均値ではなく、選手個々のキャリア平均を基準にして考えるべき、という意見も存在する。実績あるベテランの多くが通算BABIP.300を上回っているという事実は、そうした意見を裏付けるものでもあろう。
すなわち、長年にわたってプロの舞台で活躍している選手は、それに相応しいBABIPを記録できるだけの技術や特性を備えているケースが多い、という見方もできるということだ。現時点で低いBABIPを記録している選手たちが今後に巻き返しを見せてくれるか、という点も含め、BABIPという興味深い指標に対して、あらためて注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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