移籍を機に北の大地で覚醒。山本拓実と郡司裕也が飛躍を果たした理由にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・郡司裕也選手、山本拓実投手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・郡司裕也選手、山本拓実投手(C)パーソル パ・リーグTV

シーズン途中の加入ながら存在感を示し、早くもチームの貴重な戦力に

 6月19日にトレードで中日から北海道日本ハムに移籍した山本拓実投手と郡司裕也選手が、新天地で大いに存在感を発揮している。山本拓投手はリリーフ陣の一角として場面を問わずに好投を見せ、郡司選手は持ち前の打撃センスを随所で発揮。シーズン途中の加入ながら、貴重な戦力としてチームに貢献を果たしている。

 今回は、山本拓投手と郡司選手のこれまでの球歴を紹介。それに加えて、山本拓投手の結果球の割合や球種別被打率、郡司選手の打球方向や球種別打率などのデータをもとに、両選手が移籍を機に成績を伸ばした理由に迫っていきたい。(成績は8月24日の試合終了時点)

2022年にリリーフとして活躍を見せ、今季は移籍を機に安定感を取り戻した

 山本拓投手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

山本拓実投手 年度別成績(C)PLM
山本拓実投手 年度別成績(C)PLM

 山本拓投手は市立西宮高校から、2017年ドラフト6位で中日に入団。高卒1年目の2018年に早くも一軍デビューを果たすと、続く2019年には一軍で7度の先発を含む9試合に登板。45.1回を投げて防御率2.98と安定した投球を披露し、19歳という若さで台頭を見せた。

 そこから2年間は防御率5点台以上と苦しんだが、2022年には中継ぎとして30試合に登板。4ホールドを挙げて防御率3.60と一定の成績を残し、新たな持ち場で存在感を発揮した。続く2023年もブルペンの一角として期待されたが、防御率5.54と安定感を欠き、14試合の登板にとどまっていた。

 しかし、北海道日本ハムへのトレード後は既に移籍前を上回る15試合に登板し、防御率1.88と素晴らしい成績を記録。7月9日の千葉ロッテ戦ではショートスターターとして先発し、2イニングを6人で完璧に抑えるなど、幅広い起用に応えてブルペンに厚みをもたらしている。

中日時代は打撃面で苦しんだが、新天地では見事なバッティングを披露

 郡司選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

郡司裕也選手 年度別成績(C)PLM
郡司裕也選手 年度別成績(C)PLM

 郡司選手は仙台育英高校から慶応大学を経て、2019年のドラフト4位で中日に入団。プロ1年目の2020年は開幕一軍入りを勝ち取ったものの、打率.156と打撃面で結果を残せず、30試合の出場にとどまった。だが、翌2021年はわずか9試合の出場ながら13打数6安打、打率.462、OPS1.072と、限られた出場機会で印象的な活躍を見せた。

 続く2022年はさらなる飛躍が期待されたが、33試合で打率.190と再び打撃面で低迷し、一軍定着は果たせず。そして、2023年も中日での一軍出場はわずかに1試合と、正捕手の木下拓哉選手の牙城を崩せず、一軍の捕手争いに割って入ることができずにいた。

 しかし、北海道日本ハムへの移籍後は打率.308、OPS.808と見事な打撃成績を記録。中日では二軍で一塁や外野の守備にも就いていたが、新天地では本職の捕手に加えて、打撃を生かして一塁手や指名打者としてもプレー。8月22日には1試合2本塁打を記録するなどたびたび印象的な活躍を見せ、上位打線を担う機会も多くなっている。

投球の軸になる球が打ち込まれても、カットボールでは1本の安打も許さず

 次に、山本拓投手が2023年に記録している球種別被打率を見ていきたい。

山本拓実投手 2023年球種別被打率(C)PLM
山本拓実投手 2023年球種別被打率(C)PLM

 最速150km/hを超える速球に加え、カットボール、カーブ、スライダー、シンカーといった多彩な変化球を投げ分けている。キャリア平均の奪三振率が6.52、北海道日本ハムへの移籍後の奪三振率も6.28と決して高くはないだけに、豊富な球種を駆使して打たせて取る投球スタイルが生命線といえる。

 ただし、今季はストレートとシンカーの2球種がいずれも被打率.300以上と、主軸となる球がいずれも打ち込まれている。その一方で、スライダーは被打率.200と一定以上の効果を発揮。そして、カットボールはここまで被打率.000と一度も安打を許しておらず、まさに完璧な結果をもたらしている。

理にかなった配球の変化が、山本拓投手の飛躍のきっかけに?

 続いて、山本拓投手が移籍前と移籍後に記録してきた、結果球割合を紹介しよう。

山本拓実投手 結果球割合(中日時代)(C)PLM
山本拓実投手 結果球割合(中日時代)(C)PLM

 結果球におけるストレートの割合が57.4%、シンカーが23%と、この2球種を軸に投球を組み立てていたことがわかる。また、110〜120km/h台のカーブも9.8%と比較的多く使用していた一方で、スライダーは6.6%、カットボールは3.3%となっていた。

 ストレート、シンカー、カーブの3球種は、今季の山本拓投手にとっては被打率がワースト3に入る球となっている。その一方で、被打率の低いスライダーとカットボールを中日時代は多投せず。移籍前に防御率5.54と不振に陥っていた理由の一端は、こうした球種配分にもあったのかもしれない。

山本拓実投手 結果球割合(北海道日本ハム時代)(C)PLM
山本拓実投手 結果球割合(北海道日本ハム時代)(C)PLM

 北海道日本ハムへの移籍後も、ストレートとシンカーを投球の中心とする傾向自体は変わっていない。しかし、ストレートは57.4%から58.3%に微増したのに対し、シンカーは23%から18.3%と、打たれていた変化球はいずれも移籍前に比べて割合が減少。また、カーブも9.8%から3.3%と大きく減っており、配球に少なからず変化が見て取れる。

 それに代わって、スライダーとカットボールの割合がそれぞれ10%と、移籍前に比べて上昇に転じている。被打率が比較的高い球種の割合を減らし、被打率の低い球種を増やすという理にかなった配球の変化が、移籍後に見せている好投を引き出している可能性はありそうだ。

センター返しが多い傾向は維持しつつ、打撃に力強さも加わっている

 ここからは、郡司選手が2022年と2023年に記録している、安打の打球方向についてだ。

郡司裕也選手 安打方向割合(2022年・2023年)(C)PLM
郡司裕也選手 安打方向割合(2022年・2023年)(C)PLM

 2022年の打球方向はセンター方向が6本、左中間と右中間が1本ずつと、安打がほぼセンター方向に限定されていた。そして、2023年もセンター方向への安打が14本と抜きん出て多く、郡司選手が基本に忠実なセンター返しを心がけた打撃スタイルの持ち主であることがわかる。

 しかし、今季はサード、レフト、左中間への安打が合わせて8本と、引っ張りの打球も増加傾向にある。さらに、郡司選手は中日時代に1本も放てなかった本塁打を移籍後だけで3本記録しているが、その全てがレフトスタンドに飛び込んでいる。持ち味のセンター返しに加えて、打撃に力強さも加わっていることがうかがえよう。

2022年は速球を苦手としていたが、移籍後大幅に改善

 最後に、郡司選手が2022年と2023年に残している、球種別打率を参照していく。

郡司裕也選手 球種別打率(2022年・2023年)(C)PLM
郡司裕也選手 球種別打率(2022年・2023年)(C)PLM

 2022年は対ストレートの打率が.188と速球を苦手としていたが、2023年は同.268と改善され、速球に力負けするケースが減少している。先述した引っ張りの打球が増加している傾向も含めて、バッティングに力強さが増していることが見て取れる。

 また、2022年の時点でフォークとシュートはいずれも打率.333と得意にしていたが、今季はフォークの打率が.566、シュートの打率が1.000と、驚異的な数字を記録している。それに加えて、前年の打率が.200だったチェンジアップの打率が.750、同.167だったスライダーの打率が.308と、苦手としていた球種を克服しつつある点も見逃せない。

 カーブとシンカー・ツーシームに対して、2年続けて無安打となっている点は明確な課題といえる。だが、速球、シュート、フォーク、チェンジアップ、スライダーといったさまざまな球速帯のボールに対応できるようになっている点が、郡司選手の成長ぶりを端的に示しているだろう。

年齢的にもさらなる成長が見込めるだけに、投打の若武者の活躍に今後も要注目

 山本拓投手は配球の変化によって、安定感が大幅に向上。郡司選手は打撃に力強さが増し、速球にも対応できるようになった。山本拓投手は23歳、郡司選手は25歳という年齢面を考えれば、今後のさらなる成長にも大いに期待できるはずだ。移籍を機に飛躍を果たしつつある投打の若武者の活躍に、今後もぜひ注目してみてはいかがだろうか。

文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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