今季の中村晃は何が変わった? 黄金期を支えた巧打者の復活にデータで迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

福岡ソフトバンク・中村晃選手(C)Softbank HAWKS
福岡ソフトバンク・中村晃選手(C)Softbank HAWKS

2014年以来9年ぶりとなる、最多安打のタイトル獲得の可能性も十分だ

 福岡ソフトバンクの中村晃選手が、交流戦終了時点でリーグトップの69安打を放ち、打率.289と好成績を残している。2014年に最多安打のタイトルを獲得した経験を持つ中村晃選手にとって、今季は実に9年ぶりとなる打撃タイトル獲得のチャンスとなっている。

 今回は、中村晃選手の球歴に加えて、セイバーメトリクスで用いられる各種の指標や、コース別・球種別の打率といったデータを紹介。それらの具体的な数字をもとに、チームの黄金期を支えた巧打者が、鮮やかな復活を果たしつつある理由に迫っていきたい(記録は6月21日の試合終了時点)。

プロ6年目に主力の座をつかみ、巧打者としてチームの黄金期を支えてきた

 中村晃選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。 

中村晃選手 年度別成績(C)PLM
中村晃選手 年度別成績(C)PLM

 中村晃選手は、2007年の高校生ドラフト3巡目で福岡ソフトバンクに入団。プロ入りから5年間は一軍定着を果たせなかったが、6年目の2013年には自身初の規定打席に到達し、打率.307を記録。チャンスメーカーとして頭角を現し、主力の座をつかむ飛躍のシーズンを送った。

 続く2014年は打率.308と前年に引き続いて打率3割をクリアし、キャリア最多の176安打を記録。自身初タイトルとなる、最多安打の座に輝く大活躍を見せた。翌2015年もレギュラーとして活躍し、3年連続で打率.300以上を記録。アベレージヒッターとしての才能を開花させ、チームのリーグ連覇・2年連続日本一にも大きく貢献を果たした。

 2016年も不動のレギュラーとして全143試合に出場し、キャリア最高となる出塁率.416を記録。2017年にはやや打率を落としたが、主力打者として2年連続となる全試合出場を達成した。2018年は自己最多の14本塁打を放ち、キャリア最高のOPS.804を記録するなど、長打力の向上も示した。

 2019年には自律神経失調症と故障の影響で44試合の出場にとどまったが、2020年は100試合に出場して打率.271と一定の数字を記録し、一塁手として自身初のゴールデングラブ賞を受賞した。そこから3年連続でゴールデングラブ賞に輝くなど、守備での貢献は大きかったが、打撃面ではかつてほどの高打率を残せずに苦しんでいた。

卓越した選球眼が最大の持ち味

 次に、中村晃選手が記録している、年度別の指標を見ていきたい。

中村晃選手 年度別指標(C)PLM
中村晃選手 年度別指標(C)PLM

 通算出塁率.369、通算IsoD.085という数字が示す通り、中村晃選手は卓越した選球眼の持ち主だ。また、打席での選球眼や忍耐力を示す「BB/K」という指標は、1.00を上回れば非常に優秀とされる。だが、中村晃選手の場合は通算のBB/Kが1.085と、驚くべき安定感を誇る。打席でのボールの見極めに関しては、まさに球界トップクラスと形容できる存在だ。

 また、レギュラーに定着した2013年以降の10年間のうち、.900以上のBB/Kを記録した回数は実に8度。さらに、BB/Kが1.00を上回ったシーズンも5度存在し、2016年のBB/Kは1.868という抜群の水準に達している。今季のBB/Kも.929と相変わらず高水準であり、ベテランの域に達してからも優れた選球眼を維持し続けていることがうかがえる。

近年は長打の割合が増加していたが、今季は以前の打撃スタイルに回帰?

 その一方で、通算長打率は.369、通算ISOは.089と、長打力に関する指標は決して高いとは言えない。また、キャリアを通じて高い出塁率を記録しながら、OPSが.800を超えたのは2018年のみ。一発長打を狙うよりも、着実に出塁を狙うスタイルで活躍を続けてきたことが、これらの数字からも読み取れる。

 しかし、自己最多の14本塁打を放った2018年以降は、2022年まで5年続けてキャリア平均を上回るISOを記録。確実性はやや低下していたが、安打内における長打の割合は、むしろ増加していたことがわかる。

 その一方で、今季はISOが通算の数字を大きく下回っている一方で、安打数や打率は全盛期に近い水準に戻りつつある。再びトップバッターを任されることが多くなったこともあってか、打撃スタイルの面でもチャンスメーカーの役割に回帰しつつあるようだ。

 また、今季はIsoDこそ低下しているものの、BB/Kは以前と変わらない水準にあり、出塁率に関しては直近5年間で最も高くなっている点も見逃せない。より積極的なバッティングスタイルに転換しながら、打席での忍耐力と優れた選球眼を維持できているところに、中村晃選手が復活を果たした理由の一端がうかがえよう。

過去2年間はインコース真ん中の球を非常に苦手としていたが……

 続いて、中村晃選手が直近3年間で記録した、コース別の打率を紹介しよう。

中村晃選手 2021年、2022年コース別打率(C)PLM
中村晃選手 2021年、2022年コース別打率(C)PLM

 2021年、2022年ともに、インコース真ん中の球を極端に苦手としていた。2021年は打率.000と1本もヒットを放てず、2022年も打率.182と苦戦。その他のコースに関しては大きな穴は見当たらないだけに、大きなネックとなっていたことは否めないだろう。

中村晃選手 2023年コース別打率(C)PLM
中村晃選手 2023年コース別打率(C)PLM

 しかし、2023年は苦手としていたインコース真ん中の球に対して打率.292と、一定の数字を記録している。また、2023年は打率.350以上の数字を記録しているコースが6個も存在しており、いわゆる「ツボ」といえるゾーンが多くなっていることがわかる。

 高めのコース、外角のボールゾーン、真ん中低めと、得意とするコースは多岐にわたっている。ただし、打撃スタイルとしても従来よりも積極性を増しているだけに、ど真ん中の甘い球に対する打率が.172と低い点は課題といえる。裏を返せば、これから甘い球に対するミスショットが減ってくれば、さらなる成績の向上も期待できるということだ。

2つの課題を克服し、苦手とする球種のない打者へと進化

 最後に、中村晃選手が直近3年間で記録した、球種別の打率を確認する。

中村晃選手 2021年、2022年球種別打率(C)PLM
中村晃選手 2021年、2022年球種別打率(C)PLM

 2021年はストレート、カーブ、シンカー・ツーシームに強さを発揮した一方で、シュート、フォーク、カットボール、スライダーの打率は1割台未満に。翌2022年はシュートとカットボールの打率を向上させたものの、フォークとスライダーは引き続き苦手とした。総じて、得意としていた球種とそうでない球種がはっきりと分かれていたことがわかる。

中村晃選手 2023年球種別打率(C)PLM
中村晃選手 2023年球種別打率(C)PLM

 だが、2023年は過去2年間において苦手としていたフォークとスライダーに対して、いずれも打率.320以上と数字が大きく向上。また、球種別打率が最も低いチェンジアップでも打率.250と、極端に苦手とする球種が存在しない点も強みだ。直近2シーズンの大きな課題を揃って克服したことにより、より弱点の少ない打者へと進化を遂げている。

黄金期を知るベテランの飽くなき向上心は、チームにとっても大きな財産に

 今季の中村晃選手は、シュアな打撃で安打を狙うチャンスメーカーとしてのスタイルに回帰しつつ、より積極的な打撃を見せている。そうした姿勢が、高めに浮いた球や外角低めに抜けた球を逃さず捉えられるコース別打率や、どの球種に対しても一定以上の数字を残す球種別打率の傾向とも噛み合い、現在の好成績につながっていると考えられる。

 また、内角真ん中の球、フォーク・スライダーといった、過去2年間に苦手としたボールを見事に克服した点も、復活の大きな要因となっている。ベテランの域に達してからも試行錯誤を重ね、弱点の解消に務める中村晃選手の姿勢は、若手野手の多い現在のチームにとっても貴重な財産となりうるはずだ。

 初めて年間を通じてレギュラーを務め、最多安打のタイトルに輝いた2014年から9年。チームの黄金期を支えた巧打者の鮮やかな復活が、3年ぶりの王座奪還を狙うチームにとって、非常に大きな意義を持つものになる可能性は十分だ。

文・望月亮太

関連リンク

1勝以内に13名。大混戦の最多勝争いで、山本由伸の牙城を崩す投手は現れるか?
デスパイネの復帰が打線を変える? データに見る、古巣復帰の大砲に期待される役割とは
最多安打を争う茶野篤政。角中勝也に続く、独立リーグ出身者では2人目の快挙達成なるか
39歳にして進化を続ける中村剛也。門田博光氏に続く、「不惑の大砲」の再来へ
史上最年少で通算200セーブに到達。松井裕樹は「250セーブの壁」を破れるか

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE