投げる精密機械。加藤貴之の制球力の進化に迫る

パ・リーグ インサイト

北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・加藤貴之投手(C)パーソル パ・リーグTV

安定感抜群の左のエース

 昨季は年間を通して安定感のあるピッチングを見せ、リーグ3位の防御率2.01をマークした加藤貴之投手。8年目の今季は新球場・エスコンフィールド北海道での開幕投手を任されるなど、首脳陣からの信頼も絶大だ。今回はそんな加藤投手の武器であるコントロールの良さをデータから探っていきたい。

歴代屈指のコントロール

パ・リーグ投手 2022年与四球率ランキング(C)PLM
パ・リーグ投手 2022年与四球率ランキング(C)PLM

 2021年にリーグトップの与四球率1.26を記録するなど、制球力の高さに定評のある加藤投手。昨季はそこから与四球を半減近くに抑え、リーグで断トツとなる与四球率0.67をマークした。規定投球回をクリアしながら与えた四球数「11」は、2リーグ制以降の規定投球回到達者では最少であり、1950年の記録を更新する快挙だった。

ストライクゾーンで打者と勝負

加藤貴之投手 過去5年間のストライクゾーン投球割合(C)PLM
加藤貴之投手 過去5年間のストライクゾーン投球割合(C)PLM

 まず四球を少なくするために考えられることとして、ボール球を減らしてストライクゾーンへ投球することが挙げられる。加藤投手のストライクゾーンへの投球割合を過去5年分確認してみると、2020年まではリーグ平均をやや上回るほどであったが、2021年からこの割合が急激に向上。昨季のストライクゾーンへの投球割合57.1%は、30イニング以上投げた投手の中でリーグトップだった。当然それは痛打のリスクも高いことが想像されるが、被打率は.226をマーク。大胆にストライクゾーンで勝負しつつも、甘い球は投じない。そんな高度な制球力がデータでも表れていた。

2021年に導入した新球カットボールが有効。翌年にはストレートの精度も向上

加藤貴之投手 過去5年間の球種別ストライク率(C)PLM
加藤貴之投手 過去5年間の球種別ストライク率(C)PLM

 次に、ストライク率の推移をストレートと変化球に分けて見てみよう。ストライクゾーンへの投球割合が向上した2021年に注目すると、変化球のストライク率に大きな変化があった。元々変化球のストライク率は高いほうだったが、そのシーズンから投げるようになったカットボールがストライク率73.7%と効果的だったことが要因である。

 ストレートの軌道に近いカットボールの投球割合が増加したこともあってか、翌年にはストレートのストライク率が大きく向上。変化球を狙っている打者の裏を突くといった好循環が生まれていたことが想像される。

徹底されたストライク先行のピッチング

パ・リーグ先発投手 2022年初球ストライク率ランキング(C)PLM
パ・リーグ先発投手 2022年初球ストライク率ランキング(C)PLM

 先に挙げたストレートとカットボールのほか、フォーク、シュート、スライダー、カーブ、チェンジアップと多彩な球種を操る加藤投手。その的の絞りにくさと各球種の精度の高さもあいまって、初球のストライク率の高さは際立っていた。

 初球からストライクを奪えることは当然、与四球の減少につながる。またストライク先行のピッチングスタイルは多くのイニングを投げることにも作用しており、昨年の4月19日の楽天戦では9回をわずか90球で完封するなど、リーグ2位タイの3完投をマークした。

3ボールの場面で真価を見せる制球力

加藤貴之投手 過去5年間の3ボール時ストライクゾーン投球割合(C)PLM
加藤貴之投手 過去5年間の3ボール時ストライクゾーン投球割合(C)PLM

 ここまで加藤投手の優れたコントロールをさまざまなデータで確認してきたが、最後にその特徴が顕著に表れる状況を示したい。それは3ボールのときである。同状況でストライクゾーンへ投球される割合は、リーグ平均が例年58%前後のところ昨季は77.1%を記録した。与四球による出塁を避けることを最優先していたような様子が見てとれる。

 3ボールの状況は相手打者がストライクゾーンに狙いを絞ってスイングしてくる場面でもあるが、チームの指揮を執る新庄剛志監督は、「四球を出すくらいなら場外ホームランを打たれたほうがまし」と就任当初に投手陣へ語っていた。加藤投手もこの言葉に背中を押され、積極果敢にストライクゾーンで勝負するようになったと今季の開幕前に明かしている。

 いつでも、どの球種でもストライクを奪える投球技術。それに加えて、打者優位の場面でも気後れすることなくストライクゾーンへと投げ込んでいく胆力。この2つが合わさってシーズン最少与四球の記録が更新されることになった。

 今季もここまで3試合に先発し、与えた与四球はわずか1個。小気味よいテンポで球審のストライクコールを呼び込むピッチングを見せている。頼れる左のエースとして、今季もチームをけん引するピッチングに期待したい。

※文章、表中の数字はすべて2023年4月17日終了時点

文・データスタジアム編集部

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