中盤戦以降に状態を上げ、各種の数字で自己ベストの成績を記録
千葉ロッテの安田尚憲選手が、プロ5年目となる2022年のシーズンを終えた。打率、本塁打、出塁率、OPSといった各種の数字において、いずれも自己ベストの成績を記録。とりわけ終盤戦に見せた打棒は目覚ましく、来季以降のさらなる飛躍にも期待を持たせている。
今季の安田選手は中盤戦以降に大きく状態を上げたが、具体的にはどのような部分が向上したのだろうか。今回は、安田選手のこれまでの経歴に加えて、「今季の月別打率」「年度別の指標」「球種別打率」「コース別打率」の4部門を紐解き、その“成長”ぶりについてより深く掘り下げていきたい。
21歳の若さで一軍の4番を務め、年々打撃成績が上昇
安田選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
安田選手は2017年のドラフト1位でプロ入り。2年目の2019年は二軍で4番を務め、イースタンで本塁打王と打点王の2冠に輝いた。翌2020年にはそのまま一軍の4番にステップアップし、全120試合中113試合に出場。自身初の規定打席にも到達するなど、貴重な経験を積んだ。
続く2021年も開幕戦で4番を務めるなど中軸として期待されたが、チームが1試合も落とせないほどの激しい優勝争いを繰り広げたこともあり、前年に比べて打席数はやや減少。それでも打率と本塁打の双方で前年を上回る数字を残し、打者としての着実な成長を示した。
2022年はオープン戦で8打数無安打と結果を残せず、開幕は二軍スタートに。それでも徐々に状態を上げてスタメンを奪還し、最終盤には再び4番に座った。規定打席にはわずか3打席届かなかったものの、自身初のシーズン100安打に到達。OPSもキャリアベストの.740に達するなど、打撃の内容においても昨年以上の結果を残している。
じっくりとボールを見る打撃スタイルの中で、徐々に積極性も増している
次に、安田選手が記録してきた年度別の指標を見ていこう。
総じて、じっくりと球を見ていく打撃スタイルの持ち主といえよう。プロ1年目の2018年はちょうど3打席に1回は三振を喫していたが、三振率の高さは年を経るごとに改善し、2022年には初めて.200を下回る水準に到達している。
また、四球率は4年連続で.100超えと安定して一定の水準を保ち、打率と出塁率の差を示す「IsoD」も毎年優秀な数字を記録。同じく選球眼を示す「BB/K」も、2022年はリーグ平均の数字(.402)よりも.100以上高い。こうした打席での冷静さと優れた選球眼は、安田選手の大きな武器となっている。
その一方で、一軍に定着した2020年は四球率とIsoDがキャリア最高ながら、打率や三振率は厳しい数字で、打席での積極性に欠けるきらいがあった。その点、今季は.100を超える四球率と.080を超えるIsoDを維持しながら、弱点だった三振率を改善。良い意味で積極的な姿勢を身に着けつつあることも、今後に向けたポジティブな要素となっている。
打率やOPSだけでなく、6月以降はさまざまな面で成績が向上
続いて、2022年の月別成績を確認したい。
開幕一軍を逃した影響で3月の試合出場はなく、4月も低調で9試合の出場にとどまった。5月もOPS.500台と苦戦が続いたが、6月には出塁率.355、OPS.780と復調。7月には再び調子を落としたものの、8月に入ってからはまさに絶好調に。試合数を上回る安打数を記録し、打率.320、出塁率.388、OPS.948という出色の活躍を披露した。
9月もOPS.745とシーズン平均を上回る数字を残し、10月2日のシーズン最終戦では2本の二塁打を含む4打数3安打と大活躍を見せた。また、8月と9月の2カ月だけで7本塁打を記録し、9月18日には本塁打の出にくい札幌ドームで9回に値千金の勝ち越し3ランを放った。長打力の面でも、終盤戦には大きな進歩を垣間見せていた。
また、4月と5月の出塁率はいずれも.200台だったが、6月からは5カ月連続で出塁率.340を上回った。7月と9月のIsoDは.100を超えており、6月のIsoDも.097とそれに近い数字に。持ち味の選球眼も6月を境に大きく良化したところにも、打席内容の改善が示されている。
2020年にはストレートを打って記録した本塁打が1本もなかったが……
ここからは、2020年以降に安田選手が記録した球種別の打率を見ていきたい。
2020年は打率.324、2021年以降は2年続けて打率.400台と、キャリアを通じてシンカー・ツーシームを非常に得意としている。また、チェンジアップに対しても直近2年間は打率.340以上と高打率で、緩い球に対する対応力の高さも示している。
一方、基本的に最も多く投じられる球種であるストレートに対して、2020年は打率.218、本塁打0と苦手としていた。ただし、2021年は3本塁打、2022年は4本塁打と速球を捉えた本塁打が増えており、2022年は球種別打率も.249と上向き。徐々に速球に力負けしなくなりつつある点は、今季の安田選手が成長を見せた部分の一つとなっている。
また、2021年まで苦手としていたフォークとスライダーへの打率も、2022年は揃って改善を見せている。2020年から2年続けて打率.300を超えていたカーブの打率低下は気になるが、そうした点も含めて、今後はさらなる苦手の克服に期待したいところだ。
投球コースの面でも、ウィークポイントが大きく改善
最後に、2020年以降に安田選手が記録したコース別打率を紹介したい。
2020年までは得意・不得意がはっきりと分かれており、特にストライクゾーン内の高めと外角の球を総じて苦手にしていた。しかし、2022年はゾーン内では内角低め以外の8つ全てで打率.240以上と、弱点は確実に少なくなっていることがわかる。
それでいて、真ん中低めの球を得意とする傾向は現在に至るまで一貫しており、2021年にいったんは下がったど真ん中への打率も、2022年は再び向上。高めのボールゾーンの球を強引にヒットにする「悪球打ち」も含め、失投を逃さない点は大きな強みだ。
あとは、3年間を通じて苦手としている内角低めに対応できるようになれば、より打者としての完成度も高まってくる。安田選手はこれまで紹介してきたさまざまな要素において着実に課題を克服し始めているだけに、投球コースの面でもさらなる期待が持てそうだ。
攻守にわたって着実に成長を遂げているだけに、来季はさらなる覚醒にも期待
打席での積極性、速球・フォーク・スライダーといった球種、高め・外角の投球コースといった、昨季までの課題の多くが少しずつ解消されつつある。優秀な選球眼や失投を逃さない打撃スタイルといった従来の長所を保ったまま、ウィークポイントを改善している向上心の高さは、今後を考えるにあたって特に期待を持てる要素といえよう。
また、終盤戦では守備固めを出されるケースも皆無となるなど、今季は三塁守備においても確かな成長を見せていた。攻守にわたって着実に成長を遂げつつある安田選手なだけに、このままさらにスケールの大きな選手ヘと成長できる可能性も十二分にあるはずだ。
外れ1位ながら3球団が競合した2017年のドラフトから5年。将来を嘱望される俊英は苦悩を経ながら少しずつステップを踏み、いよいよ覚醒の兆しを見せている。この流れのまま来季は開幕から猛打を見せ、4番の座を不動のものとできるか。今季の終盤戦で見せた打撃を継続できれば、そうした期待に答えるだけの数字を残せる可能性は十二分にあるはずだ。
文・望月遼太
関連リンク
・指標の面でも死角なし? 千葉ロッテ・オスナの圧倒的な投球内容にデータで迫る
・豪快なスイングで美しい打球を生む「球界の俳人」。山口航輝の魅力
・圧巻の制球力で71年ぶりの快挙達成。加藤貴之の“歴史的シーズン”
・両打席本塁打からデッドボールまで。杉谷拳士が残した“名場面”
・その活躍でチームを変えた「ポストシーズンの鬼」。内川聖一の活躍を映像で
記事提供: