思い切りの良いフルスイングを武器に、チーム最多の16本塁打を記録
まさに「豪快」という2文字が似合う俊英は、チームが長年にわたって待望した和製大砲に成長を遂げるか。千葉ロッテの山口航輝選手が、2022年にチーム最多の16本塁打を記録。前年の課題だった確実性も着実に改善し、思い切りの良いフルスイングを武器に台頭を果たした。
そんな山口選手の具体的な特徴や長所は、いったいどこにあるのだろうか。今回は、「年度別指標」、「月別成績」、「球種別成績」、「コース別打率」という4つのデータをもとに、若き主砲候補について掘り下げていきたい。
1試合で3本塁打8打点の大暴れをはじめ、随所で大きなインパクトを示した
山口選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
山口選手は明桜高校から2018年のドラフト4位でプロ入り。プロ2年目の2020年には二軍で4番打者を務め、チーム最多の70試合に出場。藤原恭大選手と並んで最多タイの本塁打数を記録した。続く2021年はシーズン前の対外試合で一軍の4番を任されるなど、開幕前から大きな期待がかけられていた。
同年は5番打者として開幕スタメン入りを果たしたが、3月から5月まで3カ月連続で打率.100台と確実性を欠き、一軍定着はならず。それでも、8月の再昇格後は確実性が向上し、8月と10月には月間打率.280台を記録。最後の3カ月で5本塁打を記録しただけでなく、クライマックスシリーズでも本塁打を放つなど、今後の活躍に期待を持たせた。
続く2022年はシーズン初打席となった3月27日の試合で代打逆転3ランを放つ最高の滑り出しを見せ、その後も新型コロナウイルス感染で離脱した期間を除き、シーズンを通じて一軍に帯同。8月中旬からおよそ1カ月にわたって4番打者を務め、打線の迫力不足に悩まされたチームの中で大いに存在感を発揮した。
とりわけ、9月22日のオリックス戦では4打数4安打3本塁打8打点と、まさに圧倒的な活躍を披露。また、10月2日のシーズン最終戦では熾烈を極めたパ・リーグの優勝争いの結果を直接左右する、2点ビハインドをひっくり返す逆転3ランを放った。主要な打撃成績を軒並み向上させたことに加え、随所で印象に残る活躍を見せたシーズンとなった。
2021年に比べて選球面の指標は低下したが……
次に、山口選手がこれまで記録してきた年度別の指標を見ていこう。
過去2年間はおよそ4打席に1回の割合で三振を喫しており、三振率が高い点は明確な課題といえる。また、2021年はIsoDとBB/Kは優秀と言える水準で、四球率もまずまずの数字を残していたが、2022年はこれらの数字がいずれも低下しているところも気がかりだ。
しかし、2022年は打率に加えて長打率とOPSも大きく向上しており、打撃成績そのものは着実に進歩している。あるいは、打席でやや慎重になりすぎていたきらいがあった2021年の反省を生かして、積極性を前面に出したことが奏功した、という見方もできる。
調子の波は大きかったものの、終盤には苦しみながら大砲としての成長を見せた
続いて、山口選手が残した2022年の月別成績を紹介したい。
3月にOPS1.133と好スタートを切り、4月も打率.318、OPS.833と優秀な成績を記録。このまま不動のレギュラーとなりたいところだったが、5月は打率.167、0本塁打と大不振に陥ってしまい、6月も打率.222、OPS.663と満足のいく数字は残せなかった。
だが、7月は打率.286、OPS.890と再び状態を上げると、8月には試合数を上回る安打数を記録し、月間打率も.306と躍動。この活躍によって打順も4番へと上がったが、9月は打率.178と調子を落とし、シーズン最後まで4番の座を守ることはかなわなかった。
しかし、その9月は打率の面では苦しんだものの、月別最多の6本塁打を記録。10月の最終戦で放った逆方向への鮮やかな本塁打も含め、長距離砲としての成長も示した。好調時のバッティングは目を見張るものがあるだけに、調子の波を減らすことができればさらなる好成績も期待できそうだ。
速い変化球は軒並み得意とする一方で、課題もまだ少なくはない
また、2021年と2022年の球種別成績は次の通りとなっている。
2年続けてシュートに対して高打率を残し、2021年にはシンカー・ツーシームに対しても打率.429を記録。また、カットボールに対しても2021年は3本塁打、2022年は4本塁打と強い打球を放つことができており、速い変化球への対応力は総じて高いといえる。
その一方で、対ストレートの打率はやや低い。2021年は4本塁打、2022年は6本塁打と力負けはしていないものの、多く投じられる球種なだけに確実性を高めたいところだ。また、フォークとカーブに対してはいずれも2年続けて打率.100台と、かなり苦手としている。
しかし、2021年に苦戦していたチェンジアップとスライダーの2球種に関して2022年に打率を向上させ、前年は打てなかった本塁打も2本ずつ記録。こうした対応力をフォークやカーブに対しても発揮することができるかが、今後の成長におけるカギを握りそうだ。
2021年には1本もヒットを放てなかったコースに、2022年は適応してみせた
最後に、2021年と2022年のコース別打率を見ていこう。
2021年は真ん中近辺の球を比較的得意としており、甘い球をきっちりと捉えることができていた。その一方で、ストライクゾーンの隅に決まる球は総じて苦手で、とりわけ外角高めのコースに対しては、年間を通してヒットを1本も記録できていなかった。
しかし、2022年は外角低めに対して打率.353と高打率を記録しており、前年の課題を克服してみせた。その他のアウトコースに対しても一定以上の強さを見せており、安易な外角攻めを許さない点は強味となっている。
それに加えて、高めのボール球に対しても強さを見せており、最終戦の本塁打のように強引に引っぱたいて強い打球を飛ばすことも少なくない。指標の面で示された積極性の増加が山口選手の特性と噛み合ったことにより、角中勝也選手や高部瑛斗選手といった「悪球打ち」を得意とする同僚の系譜に連なる存在となりつつある。
だが、前年に得意としていたど真ん中や内角真ん中に対する打率は落ちており、甘い球を捉える精度には若干の陰りが見られる。また、外角を得意とする一方で内角はやや苦手としており、特にインローは大きなウィークポイントとなっている。
2022年に大の苦手だった外角高めのコースを克服したように、来季は内角低めをはじめとする苦手なコースをうまく捌けるようになるか。それに加えて、甘く入ってきた球を確実に仕留められる打撃が戻ってくれば、強打者としての怖さもより高まってくるはずだ。
まだ粗削りな部分は多いが、その着実な成長ぶりはさらなる期待を抱かせる
2022年の千葉ロッテが苦戦を強いられた要因の一つとして、近年のチームをけん引してきたレオネス・マーティン選手とブランドン・レアード選手の不振により、チーム全体の長打力が大きく落ちたことが挙げられる。若くしてチーム最多の本塁打数を記録した山口選手にかかる期待が大きくなるのは、状況を考えても必然と言えよう。
球種・投球コース別の数字を見てもまだ粗削りな部分は多いが、昨季からの着実な進歩も垣間見せている。大きな伸びしろを残す22歳の若き大砲は、今季の経験を糧にしてさらなる飛躍を遂げることができるか。本塁打後に要所で詠む俳句からも確かな知性を感じさせる「球界の俳人」がこのまま本格開花なるか、来シーズンの打撃には要注目だ。
文・望月遼太
関連リンク
・指標の面でも死角なし? 千葉ロッテ・オスナの圧倒的な投球内容にデータで迫る
・基本に忠実なセンター返しと、破天荒な「悪球打ち」。高部瑛斗の独特な魅力に迫る
・「左に弱い」は過去の話。東條大樹が万能のセットアッパーへ飛躍を遂げた理由とは?
・両打席本塁打からデッドボールまで。杉谷拳士が残した“名場面”
・草創期から日本一まで、杜の都を支えた司令塔。嶋基宏の活躍を映像で振り返る
記事提供: