チームの垣根を超えて愛され、一挙手一投足が大きな反響を生んできた
10月28日、北海道日本ハムの杉谷拳士選手が現役引退を表明した。杉谷選手は持ち前のユーティリティ性と明るい性格を活かし、10年以上にわたって一軍で活躍。オフシーズンのテレビ出演も相まって他球団ファンからの知名度も高く、競技の枠を超えて多くの耳目を集める存在だった。
独特のキャラクターを持つ杉谷選手の一挙手一投足は非常に人気があり、特集した動画が大きな反響を生んだことも枚挙にいとまがない。今回は、そんな杉谷選手が送ってきた球歴を紹介するとともに、杉谷選手が14年間の現役生活を通じて生み出してきた名シーンの数々を、パーソル パ・リーグTVの映像とともに、あらためて振り返っていきたい。
内外野をこなせるユーティリティ性を活かし、縁の下の力持ちとしてチームを支えた
杉谷選手は2008年のドラフト6位で帝京高校からプロ入り。プロ3年目の2011年に一軍初出場を果たすと、翌2012年は二塁、三塁と外野の両翼をこなすユーティリティプレイヤーとして58試合に出場し、チームのリーグ優勝に貢献。クライマックスシリーズやポストシーズンでもスタメン出場を果たすなど、首脳陣からも一定以上の評価を受けていた。
その後もバイプレーヤーとしてたびたび離脱者の穴を埋め、2015年には84試合に出場して自己最高の打率.295を記録。続く2016年も自己最多の23犠打を記録するなど求められた役割を着実にこなし、同年のリーグ優勝と日本一にも貢献を果たした。プレー面のみならずムードメーカーとしても欠かせない存在となり、長年にわたってチームを支えていった。
通算110犠打と小技も巧みで、2014年に11盗塁を記録したように脚力も備える。レギュラーを確保した年こそ一度もなかったものの、攻守両面で幅広い起用に応えられるマルチな才能を備える杉谷選手は、チームが不測の事態に陥った時ほど頼りになる、まさに縁の下の力持ちと呼べる存在だった。
プロ初の猛打賞でお立ち台に上がる(2012年7月14日)
【プロ初猛打賞】杉谷拳士さん、お立ち台に上がる大活躍
杉谷選手は8回の同点タイムリーを含め、右打席で鮮やかなセンター返しを2本記録。そして、延長11回には左打席でライト前に運ぶ決勝打を放ち、プロ初の猛打賞を達成した。プロ4年目、当時21歳だった杉谷選手の初々しいヒーローインタビューも、今になって見ると印象的だ。
手荒すぎる祝福を受けたサヨナラ打(2012年8月8日)
【サヨナラ打放ち】杉谷拳士、500%増し【もみくちゃ状態】
同点で迎えた最終回、2死1,2塁の場面で打席に立った杉谷選手。マウンドには左キラーの森福允彦氏が立っており、杉谷選手は右打席へ。そして、左の横手投げから入ってくる球を見事に捉え、左中間を深々と破るサヨナラ打を記録。両打ちの本領を発揮する一打を放ったヒーローに、チームメイトも手荒すぎる祝福で応えた。
死球アピールが認められなかった打席でミラクル三塁打(2015年6月24日)
【球場中が笑顔】死球アピールも認められず、三塁打
杉谷選手の打席ですっぽ抜けた球が投じられ、すかさず足に当たったと猛アピール。しかし、その主張は認められずに仕切り直しとなり、4球目を打ち上げた。これは平凡なライトフライかと思われたが、ライトが薄暮でボールを見失い三塁打に。死球が認められなかったことが生んだまさかの“ミラクル”に、旭川に詰めかけたファンも大いに沸いた。
史上19人目の左右両打席本塁打(2019年5月23日)
杉谷拳士「サイレント~ではなくただの無視」
杉谷選手は5回にシーズン初本塁打となる一発を右打席で記録すると、続く6回には左打席で2打席連続弾を記録。「1試合で両打席本塁打」という、NPB史上19人目の快挙を達成した。しかし、チームメイトはベースを一周して戻ってきた杉谷選手を2回とも“無視”。キャリアのハイライトとなる活躍と並んで、いじられキャラとしての本領も発揮していた。
死球を受けてベンチの大田泰示選手が爆笑(2019年7月21日)
デッドボールで人を笑顔にする男・杉谷拳士!!
6回に代打として打席に入った杉谷選手は、その初球でいきなり死球を受ける。あっという間に終わった予想外の打席結果に、ベンチから見守っていたチームメイトの大田泰示選手は思わず爆笑。一方で杉谷選手は痛がるそぶりも見せずに一塁へ全力疾走を見せ、ベンチと球場を大いに沸かせた。
試合前の「国歌熱唱」(2020年7月7日)
大声で歌う、杉谷拳士の『国歌熱唱』
2020年はコロナ禍の影響で観客動員が制限され、球場にも静けさが漂っていた。そんな中で、杉谷選手は試合前の国歌斉唱でひとり“熱唱”。実際に国歌を歌う選手や球団スタッフが少ないこともあって異彩を放ち、後には清宮幸太郎選手や矢野謙次コーチにも波及するなど、試合前から存在感を示していた。
試合中にじゃんけん対決(2020年7月26日)
【マルチアングル】杉谷vs川島『ガチンコじゃんけん勝負』
二塁への盗塁を試みた川島慶三選手に、杉谷選手がタッチしたプレーがリクエスト判定に。そして、塁上で判定結果を待つ間、杉谷選手と川島選手が唐突にじゃんけん勝負を開始。この勝負は川島選手の勝利に終わり、杉谷選手は少し残念そうな表情を浮かべた。ちなみに、最終的な判定は盗塁失敗となり、結果的に杉谷選手が雪辱?を果たしている。
試合前に周囲の緊張をほぐすイメトレを見せる(2020年8月5日)
【謎のイメトレ】杉谷拳士の「60秒」
杉谷選手は試合中だけでなく、試合前の段階からムードメーカーとして奮闘していた。肩甲骨をほぐす動きをしながら大田選手と笑顔でコミュニケーションを取ったり、後輩の近藤健介選手にフランクに頭をはたかれたりするなど、チームメイトの緊張をほぐす役割を担っていた。
大きな声で死球アピールに成功(2020年8月7日)
【職人芸】杉谷拳士『当たってる!』貫禄のアピール成功
静かになった球場だからこそ、杉谷選手の声はそれまで以上に響き渡る。この試合では右肘付近に来たボールに対して、「当たってる、当たってる!当たってる!」とよく通る声で主審にアピール。マイクを通じてもはっきりと聞こえるレベルの猛アピールもあってか、無事に出塁を勝ち取っている。
バントで「2度打ち」(2020年8月20日)
杉谷拳士、バレる。
無死1塁の場面で送りバントを命じられた杉谷選手は、見事にファーストストライクで犠打を成功させた……かに思えた。しかし、バントの際にバットがボールに2度当たっていたことを主審は見逃さず、あえなく打席に戻されることに。しかし、まさかの珍プレーにも杉谷選手は動揺することなく、次の球できっちりとバントを決めて役割を果たしている。
シーズン安打数と死球数が同数に、近藤選手も爆笑(2021年5月23日)
【ベンチも超心配】杉谷拳士『安打数に死球数が追いつく』【してたはず…】
5月終盤の試合で2度の死球を受けた杉谷選手。この時点でシーズンの安打数と死球数がともに「4」となり、安打と死球が同数という珍しい状態に。1度目の死球では痛がるそぶりも見せずに一塁に向かったものの、2度目の死球で治療に戻った際には近藤選手に爆笑されるなど、チームメイトからの愛され具合もうかがえる場面だった。
斎藤佑樹氏の引退試合で若手と一緒に合唱ビデオレター(2021年10月17日)
杉谷拳士とゆかいな仲間たち『“100%大合唱”で斎藤佑樹を笑顔にする』
2021年限りで現役を引退した斎藤佑樹氏。故障で苦しむ時期が長かったものの、その人柄によって若手に慕われる存在でもあった。そんな斎藤氏の引退試合に際して、杉谷選手はビデオメッセージを提供。斎藤氏の登場曲を若手たちと共に歌う姿を見た斎藤氏も、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
守備時の猛アピールでリクエストに成功(2022年8月10日)
【猛アピールした結果…】杉谷拳士『アウトでしょ! アウト!アウト!リクエストちょうだい!!』
二塁手として盗塁を試みた走者にタッチした杉谷選手。判定は間一髪セーフとなったが、杉谷選手は確信を持ってアウトを猛アピール。それに応えてベンチがリクエストを要求すると、杉谷選手のタッチがぎりぎり先に入っており判定が覆ってアウトに。杉谷選手の猛アピールが、無事報われるかたちとなった。
試合前に主審とあわや激突(2022年9月26日)
【ハリキリスギヤ…】ファイターズ・杉谷拳士『元気が良過ぎて危機一髪!?』
一塁手としてスタメン出場を果たし、1回表の守備に就く杉谷選手。ダッシュしながら豪快にハイタッチを交わして守備位置に向かおうとしたが、勢いがよすぎて思わず審判と激突しそうになってしまう。このようなハプニングも、ファンを楽しませようと全力を尽くす杉谷選手だからこそ起こるものかもしれない。
札幌ドーム最後の試合で同僚に突撃インタビュー(2022年9月28日)
【杉谷マイク】19年の感謝を込めて…札幌Dで『最後の場内一周』【最終戦セレモニー】
「本拠地・札幌ドーム」の最終戦となった試合の後に、北海道日本ハムの選手たちが場内を一周。杉谷選手はその輪の中で、各選手に突撃インタビューを敢行した。マイク片手に各選手から円滑にコメントを引き出す姿からも、プレー面でのユーティリティ性にとどまらない、杉谷選手のマルチな才能を感じるところだ。
プレー内外の両面で、「記録よりも、記憶に残る」偉大な選手だった
内外野合わせて7つのポジションをこなせる器用さ、バントやタッチといった巧みな小技、死球を恐れぬガッツによる出塁、そして両打席本塁打やサヨナラ打に代表される意外性のあるバッティング。主要な打撃成績には反映されないこれらの持ち味は、プロ野球選手としての杉谷選手を強く印象づけるものだった。
それだけでなく、普段からチームメイトを和ませ、あらゆることに全力を尽くす杉谷選手の姿勢そのものが、ファンを沸かせてきた点も見逃せない。杉谷選手がチーム内外で多くの人に愛された理由が、その人柄とたゆまぬ努力にあったのは疑いようのないところだ。
通算777試合、172安打、打率.212。これらの数字によって、「杉谷拳士」という選手の価値を推しはかるのはおよそ不可能だ。14年間のプロ野球人生を全力で駆け抜けた杉谷選手が生んだ名場面の数々は、「記録よりも、記憶に残る選手」という言葉の通り、球団の垣根を超えて、人々の心に末長く残り続けることだろう。
文・望月遼太
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