藤本監督とBIGBOSSの「采配」に注目して開幕2戦を振り返る。浮かんできた「遊ぶ」の意味とは

パ・リーグ インサイト

2022.3.27(日) 07:26

福岡ソフトバンクホークス・藤本博史監督(左)と北海道日本ハムファイターズ・BIGBOSS(右)(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・藤本博史監督(左)と北海道日本ハムファイターズ・BIGBOSS(右)(C)パーソル パ・リーグTV

 3月25日から行われている開幕3連戦。PayPayドームでは2日連続で観客動員数が3万人を超えるなど、大注目の福岡ソフトバンク対北海道日本ハムが行われている。BIGBOSS(新庄剛志監督)がSNSや各種メディアを用いて試合前から注目を集めると、福岡ソフトバンクも負けじとさまざまな取り組みで応戦し、開幕前からマスコミの話題をさらった。

 しかしプロ野球が開幕した今、結局は結果がものを言う。ここまで2試合はBIGBOSSが想定外の采配をたびたび見せてきたが、藤本博史新監督が率いる福岡ソフトバンクが2連勝。結果だけ見れば、二軍や三軍で指揮を執ってきた藤本監督の経験値の前に屈している。そこでここではこの2試合、両監督が見せたキーとなる采配に注目し、インタビューで語った声とともに振り返りたい。

25日:各所で光った両監督の選手起用。決定機で藤本采配に軍配が上がった

 25日の一戦、石井一成選手の本塁打で先制した北海道日本ハムは、こまめな継投でリードを守る。一方福岡ソフトバンクは、千賀滉大投手の好投に対して打線にあと1本が出ず。しかし途中出場のガルビス選手が流れを変えると、最後はグランドスラムを放ち、4対1で福岡ソフトバンクが土壇場で勝利をもぎとった。

序盤はBIGBOSSが支配。伊藤大海、堀瑞輝らの登板は「予定通り」

北海道日本ハムファイターズ・石井一成選手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・石井一成選手(C)パーソル パ・リーグTV

 はじめに采配が奏功したのはBIGBOSS。ドラ8の開幕投手・北山亘基投手の好投だ。初回、1死2、3塁とピンチを招くもグラシアル選手から見逃し三振を奪う。ここを無失点で切り抜け、2回も抑えると3回からは経験豊富な左腕・加藤貴之投手につないだ。4回表には欲しかった先制点を挙げ、ペースをつかむ。

 5回から7回は主戦の伊藤大海投手や、翌日予告先発されている堀瑞輝投手のサプライズ登板と、相手はおろか観客までをも翻ろうする起用を見せた。この采配についてBIGBOSSは試合後「(杉浦稔大投手までの起用は)決まっていました」とコメント。どんな指揮を執るか多くの人が注目したなか、予想を上回る選手起用は福岡ソフトバンクを追い詰めることとなった。

流れを変えた藤本監督の選手交代。終盤の選手交代がことごとく的中

福岡ソフトバンクホークス フレディ・ガルビス選手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス フレディ・ガルビス選手(C)パーソル パ・リーグTV

 一方千賀投手の好投に引き換え、打線が援護できず1点ビハインドのまま終盤を迎えた福岡ソフトバンク。藤本監督は前日に今宮健太選手、松田宣浩選手、上林誠知選手の先発起用を明言しており、世代交代を託されたなか、批判も承知の起用を見せた。しかし3選手から快音は生まれず。特に今宮健太選手は第1打席で得意の犠打を失敗すると、第2、3打席は好機で凡打するなどブレーキとなっていた。

 試合後の監督インタビューでは、落ち着いた表情の裏で「回を重ねるごとに点が入るか緊張していった」と振り返った藤本監督。しかしこの試合初めて選手交代を告げると、そこから「藤本野球」がぴしゃりと的中する。7回裏に不調の今宮選手に代えた新外国人・ガルビス選手が、見事期待に応える安打を放つ。オープン戦では不調だったが「試合の中で調子を上げる」と、途中出場することを藤本監督と前日に共有していたのだ。

 得点にはつながらなかったが、続く8回の守備で好投の千賀投手を津森宥紀投手にスイッチすると、3者連続奪三振の圧巻投球。徐々に流れを呼び寄せ、迎えた8回裏。松田選手に初安打が生まれるなど1死2塁とし、延長戦も見据える点差のなか正捕手・甲斐拓也選手に代打・牧原大成選手を送る。ここを四球でつなぎ、三森大貴選手の安打で満塁としたところで「主役」が試合を決めた。

西村天裕の登板は予定外。BIGBOSS、杉浦は「フォークが指にかかりすぎていた」

 結果として勝敗を分かつこととなった西村天裕投手とガルビス選手の対決。この回頭から投げていた杉浦稔大投手までは首脳陣で話し合った「予定通り」の采配だったが、西村投手の起用はBIGBOSSが1人で決断した。杉浦投手の「フォークがかかりすぎていて、パスボール(バッテリーミス)が怖かった」ため、思い切った継投を見せたが「結果論」としては失敗してしまった。内容豊富な開幕戦は「藤本野球」が勝利を収めた。

26日:「BIGBOSS流采配」的中するも、中盤に突き放した鷹が連勝を飾る

 26日の試合は、福岡ソフトバンクが栗原陵矢選手のソロ本塁打で先制に成功すると、5回にはビッグイニングをつくり主導権を握った。北海道日本ハムはアルカンタラ選手らの本塁打攻勢で詰め寄り、最終回も一発逆転の好機を演出したが及ばなかった。

今宮健太を起用し続けた藤本博史との信頼関係。今宮「本当にやるしかないと」

福岡ソフトバンクホークス・今宮健太選手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・今宮健太選手(C)パーソル パ・リーグTV

 試合を決めた5回裏の攻撃の突破口を開いたのは、前試合で途中交代した今宮選手だった。今宮選手は「本当にやるしかないという気持ちで試合に臨みました」と悔しさを力に変え、フェンス直撃の二塁打で得点につながるチャンスを演出した。

 藤本監督も前日の結果を引きずらずに、今宮選手を起用し続けた。これについては「本人も昨日は相当悔しかっただろう」と胸中を測った上で「これをきっかけに更に調子をあげてくれるのでは」と、淡々と前を向いた。藤本監督のぶれない選手への信頼が勝利につながったのだ。

リクエストは「ファールだと思ってた」。BIGBOSS流の選手への気配り

北海道日本ハムファイターズ・清宮幸太郎選手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・清宮幸太郎選手(C)パーソル パ・リーグTV

 一方連敗となった北海道日本ハムにも、収穫はあった。特に4番に座った清宮幸太郎選手の本塁打は大きい。清宮選手に対しては、新体制になった当初から稲葉篤紀GMを含めた体制で育成してきた。しかし減量やトレーニングの効果はすぐには現れず、オープン戦で状態を上げられずに開幕を迎えた。

 それでも「オープン戦は、オープン戦だから」と、BIGBOSSは開幕戦で出場のなかった清宮選手を4番に抜てき。4回の第2打席では、飛距離十分の特大ファールを放ち、BIGBOSSもリクエスト判定を要求した。しかし実はここに「新庄流」の采配あり。清宮選手の当たりに対して「ファールだとは思ってた」そうだが「(清宮選手に)どうだ、という雰囲気を味合わせてあげよう」としたリクエスト要求だったのだ。

 そして9回に特大本塁打が生まれる。BIGBOSSは27日の試合でも清宮選手を「4番・一塁」で起用することを公表した。清宮選手がチーム初勝利を呼び込む一発を放つことができるか。

27日:「遊ぶ」カードはここまで鷹が2連勝。今試合の見どころは

 さあ、そしてカード3戦目に突入する。ここまでそれぞれの監督がこだわった采配を振るっており、「結果」として成功や失敗となっている。この3連戦はBIGBOSSが「遊びます」と発言したことで賛否の声も巻き起こったが、ここまでの起用を見るとその真意が読み取れるかもしれない。

「こまめな選手交代」を明言。BIGBOSS流「遊び」の采配が持つ意味とは?

BIGBOSSとハイタッチを交わす清宮幸太郎選手(C)パーソル パ・リーグTV
BIGBOSSとハイタッチを交わす清宮幸太郎選手(C)パーソル パ・リーグTV

 実はこまめな選手交代は投手だけでなく、野手でも行われていた。開幕一軍を果たした選手のうち、ここまでの2戦で野手は全員出場。捕手の郡拓也選手を除けば全員打席にも立っている。BIGBOSSは開幕戦後のインタビューで「きっと他のチームでまだ出られていない選手よりは、(1回でも出たほうが)だいぶ落ち着いているはず」と話している。

 つまり開幕一軍の野手は全員、投手陣も大多数がすでにマウンドを経験している北海道日本ハムは、それだけ「シーズンイン」している選手が多いのだ。仮に「遊び」が投手陣を含め、試合感をつかませるための「全員出場」を意味していたら、「遊び」終わったあとの北海道日本ハムは、今後一気にスタートダッシュを決める可能性も否定はできない。3戦目は吉田輝星投手の先発が予定されており、細かい継投も明言されている。選手起用にも注目したい。

福岡ソフトバンクは藤本博史流の「つないで点を取る野球」貫けるか

 一方、福岡ソフトバンクはBIGBOSSが何かと注目を集めるなか、振り回されることなく着実に「藤本野球」が浸透してきている。前年Bクラスから新体制になって迎えた今季、王座奪還に向けて重要な開幕カードの勝ち越しを決めたことは、大きな意味を持つだろう。泥臭くてもつないで1点を取る藤本監督らしい野球を貫き、3連勝を決められるか。オープン戦2勝を挙げた杉山一樹投手が先発する。


 福岡ソフトバンクと北海道日本ハムの第3戦目は13時開始予定。両監督の「采配」に注目しながら見ていただこう。

文・小野寺穂高

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