本塁打は「視覚」だけでなく、「聴覚」でも観客を楽しませてくれる
ホームランは野球の華。そう形容される事実が示す通り、完璧な一打は見る者の胸がすくような快感を覚えさせることすらある。視覚的な面で言えば、打球の速度・角度、打者のフォロースルーやリアクションといったものが、本塁打の醍醐味の具体例といえる。だが、視覚だけでなく、聴覚の分野においても、本塁打の興奮を増幅させる要素は存在している。
今回は、「快音」というテーマに焦点を当てた動画「【ASMR】睡眠用パ・リーグ強打者たちの本塁打音『快音のち快眠。』Presented by nishikawa」から、特に印象に残った3本のアーチをピックアップしていきたい。
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史上最強の「満塁男」が、見事な打球音を響かせた場面はやはり……
まず始めに、8月22日に中村剛也選手が放った満塁本塁打について紹介したい。
中村選手の「満塁男」ぶりは、そのキャリアを通じて広く知られるところ。この試合では1回表に3連打が飛び出し、無死満塁で中村選手が打席に入る。そして、オリックスの先発・山崎福也投手が初球に投じた甘いチェンジアップを逃すことなく捉えると、ボールは高く乾いた打球音と共に高々と舞い上がり、そのままレフトスタンドへと飛び込んでいった。
自身が持つ通算最多記録を更新するキャリア22本目のグランドスラムは、チームにとってもこの日の快勝につながる、大きな先制の4点に。中村選手のホームランバッターとしての実績は誰もが認めるところだが、38歳を迎えてもなお、満塁での比類なき勝負強さが維持され続けている点が、その打者としての非凡さを証明するものでもあるだろう。
通算6度の本塁打王は歴代3位、通算4度の打点王は歴代6位タイ。球史にその名を残す強打者である中村選手は、「ホームランアーチスト」としての打球の美しさにも定評がある。そんな中村選手が特に見事な打球音を響かせたのが、彼の代名詞でもある満塁本塁打だったところは、いかにも中村選手“らしい”と形容できるのではないだろうか。
持ち前のパワーが快音となって響き渡った「サヨナラ幕張寿司」
続けて、9月10日の千葉ロッテ対東北楽天の試合で飛び出した、ブランドン・レアード選手の一発。
首位に立つ千葉ロッテと、2ゲーム差で追う3位の東北楽天という構図で行われたこの試合。千葉ロッテの佐々木朗希投手と、東北楽天の田中将大投手がそれぞれ8回2失点と好投し、緊迫した投手戦が展開された。同点の9回裏、2死無走者と試合の大詰めを迎えた段階で打席に立ったのが、2回に10試合ぶりとなる本塁打を放っていたレアード選手だった。
マウンド上には今シーズン28ホールドを挙げ、防御率2.28と安定した投球を見せた酒居知史投手が立っていた。レアード選手は初球の真ん中に入ってくるフォークを打ち損じてファウルにしたが、2球目に同じフォークが高めに浮いてきた際には逃さなかった。乾いた音が夜空に響いた打球は、打った瞬間それとわかる豪快なサヨナラ本塁打となった。
9回2死から飛び出した劇的な一発は、プロ入り後では始めて8回を投げきった佐々木朗希投手の好投に報いる一打でもあった。今季残した29本塁打・95打点という数字は、いずれもパ・リーグ2位の好成績。佐々木朗希投手がこの試合をきっかけに投球内容を大きく向上させた点も含め、最後まで優勝争いを繰り広げたチームにとっても、レアード選手が握り続けた「幕張寿司」は大きな力をもたらしていた。
MLB通算282本塁打の大砲が、そのパワーを余すところなく示した「快音」
25年ぶりのリーグ優勝を果たしたオリックスでは、10月12日の天王山で宗佑磨選手が放った、涙の同点2ランも印象深いものだった。だが、「快音」という観点でいえば、3月30日にオリックスのアダム・ジョーンズ選手が放った一発を取り上げないわけにはいかないだろう。
サウスポーの笠谷俊介投手を相手に、2回の先頭打者として打席に立ったジョーンズ選手。初球の低めに落ちるカーブを冷静に見送って1ボール0ストライクとすると、続くど真ん中の速球を完璧に捉える。高く乾いた打球音とともに、ボールはレフトスタンドへと一直線。MLB通算282本塁打を記録したパワーが、まさに遺憾なく発揮された一打であった。
今季のジョーンズ選手は打率.234、4本塁打だったものの、代打では打率.429、出塁率.568と、まさに切り札の働きを見せた。MLBでの豊富な経験を活かして精神的支柱としてもチームに貢献し、日本シリーズでもチームが追い込まれた第5戦に代打で決勝本塁打を記録。リーグ優勝決定時にはチームメイトから胴上げされた事実が、チーム内での存在の大きさと、いかに周囲から愛されていたかを如実に物語っているだろう。
ジョーンズ選手が放った本塁打は、2020年からの2年間で合計16本と、その総数自体は非常に多いとは言えないものではあった。だが、あまりにも強烈な打球音が響き渡ったこの本塁打は、MLBとNPBの双方で酸いも甘いも味わった、“超大物助っ人”の本領が大いに発揮された一本だったといえよう。
木製バットならではの乾いた打球音は、プロ野球の醍醐味でもある
プロの打者ならではの高い打撃技術によって生み出される、木製バット特有の乾いた打球音。力と力、技と技のハイレベルな勝負が繰り広げられる、プロ野球の世界だからこそ生み出される快音は、時として、耳にする者に大きなインパクトを与えてくれる。
打った瞬間それとわかる「音」とともに、観客とベンチが思わず腰を浮かせて歓喜する。来たる2022年シーズンにも、そうした光景が数多く見られることに期待したい。
今回ご紹介した動画はこちらから
文・望月遼太
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