頻発する「DH解除」。9回打ち切りがベンチワークに与える変化

パ・リーグ インサイト 望月遼太

2021.5.20(木) 08:00

千葉ロッテマリーンズ・井口資仁監督(C)パーソル パ・リーグTV
千葉ロッテマリーンズ・井口資仁監督(C)パーソル パ・リーグTV

「DH解除」は、その名の通り指名打者(DH)制度をあえて外すことをいう。北海道日本ハム時代の大谷翔平選手(現ロサンゼルス・エンゼルス)のイメージが強いが、DHは守備に就けないため、通常はDHの代走が守備に就く際などに、自動的にその形になるケースが多い。そしてDHという枠が消え、投手が打線に入ることになる。

 DHがいなくなり、投手に打席が回るリスクも負うため、その策が取られるのは基本的に攻撃より守備固めに専念したいタイミング。つまりリードしていて逃げ切りたい、あるいは同点で終わらせたい試合終盤だ。そして延長戦が行われず9回打ち切りが決まっている2021年シーズン、その数は増え続けている。ここでは、パ各球団のDH解除の回数や状況を確認し、特別ルールが試合運びに及ぼしている影響について見ていきたい。

DH解除を積極的に使っている千葉ロッテ、オリックス

 まず、2021年シーズンのパ・リーグにおいて、5月16日の試合終了時点で各チームがDH解除を行った回数は下記の通りだ。

球団別のDH解除数(C)パ・リーグ インサイト
球団別のDH解除数(C)パ・リーグ インサイト

 DH解除は40試合前後を消化した時点で計20回と、まだ序盤戦という段階ながら多くなっていた。従来のシーズンは9回の攻撃終了後も延長戦の可能性を念頭に置かなければならず、さらに10回から12回までの間、いつ試合終了するか予想できなかった。守備固めの意味合いが強いDH解除に踏み切るには、守備力が上がるメリットと、投手が打線に入ることで攻撃力が下がり、その分代打と中継ぎを消費するデメリットがなかなか釣り合わない。

 しかし2021年シーズンは9回打ち切りが確定しているため、9回表が終了すればもう攻撃回が回ってくることはない。延長戦のことを考えず守備に専念すれば、自然な流れとしてDH解除の頻度は増すだろう。

 また、DHを解除したチームがホームチームだったケースは1回(4月20日のオリックス)だけで、ほかのケースはすべてビジターチームだった。9回表が終了し、攻撃面でのリスクが生じない状況でこの策を取るのが最も合理的なため、それも当然の傾向といえる。

リードしているチームの戦略

 次にDH解除を行ったチームが、その時点でどのような点差だったのか紹介したい。

点差別のDH解除数(C)パ・リーグ インサイト
点差別のDH解除数(C)パ・リーグ インサイト

 20試合すべてが同点以上のスコアとなっており、ビハインドの場面でDH解除したケースはまだ一度もない。また、点差も3点リード以内の僅差が大半で、点差が開いている中でDH解除されるケースは少なかった。これはリードしたチームがそのまま勝ち切るか、同点から引き分けに持ち込むための手段として用いられているからだ。実際に、ここまでDH解除を行ったチームはすべて逃げ切り勝利、あるいは同点で試合を終わらせている。

 また、唯一ホームチームでありながらDHを解除した4月20日のオリックスに関しては、9回の時点で8点リードと大きな差をつけていた。余裕があったからこそ、野手を減らすことのリスクがより大きくなる後攻であるにもかかわらず、DH解除に踏み切ることができたと考えられる。

8回からDH解除を決断するケースは、勝ちパターンの逆算?

 ここまで見てきたように、DH解除を行うのは「9回終了後のビジターチーム」であることが多いが、比較的早いタイミングでDH解除を決断しているケースがあるのも興味深い。8回からDHを解除して投手を登板させた例は全部で4つ存在したが、そのうち、4月16日と4月29日の千葉ロッテ、4月23日の埼玉西武の3例は、いずれもDH解除と同時にセットアッパーを投入してクローザーにつなぐ形を取っていた。これらのケースは全て、勝利の方程式を逆算しての起用だったことがうかがえる。

 そういった逆算の象徴的な例となるのが、4月29日に千葉ロッテが見せた采配だろう。この試合では8回裏からセットアッパーの唐川侑己投手が投入され、指名打者の角中勝也選手の代走として出場した和田康士朗選手が、DH解除に伴ってセンターに入った。9回表にその唐川投手に打席が回ったため、鳥谷敬選手が代打に。そして9回裏はクローザーの益田直也投手がマウンドに送られ、そのままリードを守り抜いた。

 この試合では代打の駒が残っていたこともあり、DH解除した後に投手に打順が回った際のリスクを最小限としていた。通常であれば守備に回すことができない指名打者の位置で代走に出た選手を、スムーズに守備固めに移行させていた点も含め、9回打ち切りならではのベンチワークを見せていたと言えよう。

シーズンが深まるにつれて新たなアイデアも生まれるか

 現状では、DHの位置で代走として出場した選手が、そのまま守備固めを務めることでDH解除が行われている。現状の規定により慣れてきたシーズン後半、この起用法以外の新たなアイデアが生まれるか、という点も見ものだろう。

 延長戦が10回までに短縮された2020年と同様に、今回のルール変更も各球団の試合終盤の戦いぶりに変化をもたらす。今後も同じ傾向が続くのか、あるいは進化したアプローチが始まるのか。各チームの動きに、注目してみる価値は大いにある。

文・望月遼太

関連記事

快投続く佐々木千隼、その投球の“変化”とは?
日々更新! 島内語録2021

記事提供:

パ・リーグ インサイト 望月遼太

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE