浦和レッズ阿部勇樹とシンシナティ・レッズ秋山翔吾 夢のW“レッズ”対談(後編) この夏を迎える生徒たちへ【シンシナティ・ノート特別編】

氏原英明

 J1浦和レッズ阿部勇樹と、MLBシンシナティ・レッズ秋山翔吾。プロスポーツ界のトップを走る二人の所属が“レッズ”だったことに端を発した夢の対談がここに実現。日本は正午、ロサンゼルスは20時から行われた対談は、気づけば1時間半にもおよんだ。競技や国は違えど、プロアスリートとしてフィールドで切磋琢磨する二人から寄せられたメッセージは、サッカーや野球だけでなく、あらゆる競技・活動に努める中高生に届けたい至言となった。その模様をぜひ最後までご覧いただきたい。
(文・氏原英明 インタビュー・パ・リーグインサイト海老原 悠)

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海外生活、切実な胃袋事情

――現在、本拠地シンシナティを離れ、ロサンゼルスでトレーニングを行っている秋山選手ですが、レスター・シティFCへの移籍経験がある阿部選手、海外生活についてのアドバイスをお願いできますか?

阿部:今現在、ロサンゼルスの街は歩ける状況ですか?

秋山:今はコロナの影響が落ち着いてきて、街の感じは通訳に言わせると、けっこう戻っているところもあります。

阿部:そうなんだ。まだ、そこまでは街全体としては好きに見て行ったりはできてないってことだよね。

秋山:そうなんです。本当にロスに住んでいるのかなっていうぐらいに、同じ道を行ったり来たりばかりです。土日も出ませんし。何にもしてないです。

阿部:でもこの先はこういうことがおさまって、出られる時はこの街がどんな街なのかなっていうのは、歩いたり、見ることは大事かなとは思います。絶対いろんな方に話しかけられると思うんだよね。

秋山:本当ですか? 僕まだシンシナティで暮らしたことがなくて!

阿部:日本語をしゃべる人が周りにいないじゃない? そうなると、なんとか受け答えしようかなって思う。僕のレスター当時は、自分が喋っていた答えは間違っていたのかなとも思うけど、恥ずかしがらずにどんどん喋っちゃおうっていう感じでやってて、向こうが「OK」って言ったから「あ、伝わったかな」って勝手に思ってたりした。

秋山:しゃべるほうが間違っても「こいつおもしれーな」って近寄ってきてくれやすいのかなと。だから、(アメリカでは)馬鹿なふりしてどんどんしゃべろうかなと(笑)

阿部:(笑)。それは絶対いいと思う。

秋山:サッカーはピッチでコミュニケーションを取らなきゃいけないじゃないですか。僕は、ベンチ戻って来てから通訳を通して話したりもできるんですけど、だから難しいところもありそうです。やっぱりそれも慣れなんですかね。

阿部:慣れだと思う。やっぱり普段全然慣れてないところからまた違った環境、生活になるわけだし、言葉も違うし。でもね、人間って不思議と慣れる能力を持ってると思う。そこはもう本当に心配しないで大丈夫だと思います。

秋山:それもありがたい貴重なお話。食事って困りましたか?

阿部:食事はそこまで困らなかった。クラブで朝食を食べられて、昼も出たし、自分で作ったりするのは夜だけだったから。一応、自炊はしてたんですよ、こう見えて、米を炊いてました、ちゃんと(笑)

秋山:僕はロスで一番伸びたのは料理することなんで(笑)

オンライントレーニングに、週末の晩酌。自粛期間中の過ごし方

――自粛期間中はどう過ごされていましたか?

秋山:全体練習がないので、平日の午前中練習して、午後は本当にただゆっくりして、夜ごはんを作るって感じです。金曜・土曜の夜は通訳と二人で、お酒を飲もうって。「1週間お疲れ」ってやるのが楽しみです。なんとかトレーニングをやっているという感じで、どこも行ってないですよ。

阿部:日本の家などでやっていた体を動かすトレーニングを今そっちで続けていることはある?

秋山:今やっているのは、平日の5日間でウエイトトレーニングを分けて、そこにキャッチボールとティーバッティングとかを足しているっていう感じです。本当に自主トレの最初ぐらいな感じのトレーニングをこの3カ月続けています

阿部:でもそれはどっかで爆発させるための準備と考えたらね。

秋山:そうですね。もうそうならなかったら自分が爆発しそうですが……! 阿部さんは自粛期間中、練習はどんな感じですか?

阿部:みんなとオンライン上で筋トレしていました。5月下旬からチームの活動が再開して、いろいろ気をつけながらやってます。いろんなチームが今動いてきて、野球のチームもだいぶ動いてきていて、日本はスポーツがちょっとずつ再開に向けて動き出している。

秋山:いいなぁ。アメリカでもバスケットボールの日程が出ているんですけど、メジャースポーツの中で野球が一番こう着状態。もどかしい気持ちをずっと持ってるんですよね。ただこの3カ月、体重や体調が悪くなるような変化がそんなになかったのは、自分でコントロールしてやれている自信になりました。

阿部:3カ月だもんね。(ウエイト)コントロールは難しいよね。

秋山:シーズン中も増減しないように体重計に乗って体脂肪は測ったりしているんですけど、特に今は自分で作ってるというのもありますし、練習量が落ちて筋力落ちてるんじゃないかとかいう心配はあります。体重も最低ラインだと思うんですけど、それを維持してこれたのは、自粛期間中で一番気をつけたとこかもしれないですね。

阿部:すごいね。

秋山:オンラインでウエイトとか筋トレ楽しそうですね。

阿部:うーん……ま、楽しいよ!「こうやってやるんだ」っていう感じかな

秋山:阿部さん、100畳ぐらいのトレーニングスペースが家にあるんですよね?

阿部:そうそうそう!……いや、ないないない(笑)。やる場所が大変!

――(笑)。トレーニングやコンディショニング、野球とサッカーではまったく異なると思います。それに、歳を重ねてやってくることが変わってくることもあると思います。お二人が意識的にされているところはありますか。

阿部:僕は年齢を重ねて、走ることに関してはちょっとずつ落ちてくる部分ではあるので、チームのフィジカルを見てくれるコーチに相談しながらやっています。今まであまりやったことなかった、ジムでの筋トレを少しずつ増やして、筋力も落ちないようにしなきゃいけない。それはこの自粛期間中にあらためて考えさせられた部分でもあるし、ちょっと前から続けてやってることでもあるんですけど、気にしてやるようにしてます。

秋山:僕自身は、本来はこの時期にやることじゃないんですけど、走ることは重要視しているんですよね。野球はそんなに体力いらないって言われますけど、火曜から日曜まで試合をやるとすれば、火曜と日曜の体力が違うものだと、パフォーマンスが変わると思う。そういう意味ではずっとある程度の高さで維持できる体力はいるんじゃないかと思っていて、一番原始的でやらなきゃいけないのはランニングかなと。オフのテーマはいつもちゃんと走ることがまず念頭にあって、そこにウエイトがあってボールを使うというふうにしています

阿部さん、海外のサッカーの選手はウエイトってそんなにやらないんですか?

阿部:みんな結構やっていたね。上半身を重点的にやっていて、終わると必ず鏡の前に立つんだよ。これが何でかわかんなくてさ(笑)

秋山:まぁ、いますよね。

阿部:すぐ成果が出ているかどうか見たいのかな? って思ってて、一回やってみたけど、成果は出てなかったね、俺は(笑)

秋山:僕も、上半身は苦手というか、成果が出づらい体なんです。

阿部:そうなんだ! すぐ筋肉つきそうだけどね。

秋山:上半身のウエイトは、どっちかって言ったら好きじゃないんですよね。投げたりバット持ったりした時に張り方が変わるのが嫌で。でもそれに慣れていくためには最低限のことはもちろんやってるんですけど、メジャーの選手は朝からウエイトをガンガンやるんですよ。で、全然走らないんです。

阿部:あーそうなんだ!

秋山:(アメリカの選手たちの)言い分としては、ウエイトで出してる出力が試合の中で突発的に出るから、走ってつく筋力にはあんまり突発性が出ることはないという話なんです。それぞれの選手が持論をかなり持っています。

阿部:そうなんだ。

秋山:ライオンズは他のチームと比べてランニングの量はあるほうだと思っていて、個人としても、自分はそれ以上に走るってイメージはあったんですよね。でも、(サッカーは)めちゃくちゃ走りますよね。オフの期間のトレーニングとかだと、サッカー選手はすごい量を走っていますよね。

阿部:時間でいうと走ってはいるけど、スピードはそんなに速くないと思う。

秋山:サッカー選手がどんなトレーニングやってるのか。やっぱりすごく興味がありますね。

阿部:それはお互いに思ってるかもしれないね。

秋山:トレーニングのきっかけが何か欲しくなったら、お邪魔するかもしれないです。

阿部:ぜひ。練習場や埼玉スタジアムでも、なんとかします。

秋山:ほんとですか! レッズの人間として入れるんですかね、僕は。

阿部:そうすね。だからユニフォーム着ていただいて、短パンもソックスも用意しとくんで。

秋山:じゃあ、ちゃんとシンシナティのレッズの帽子だけ被って

阿部:それがいいかもしれない(笑)

引退は「阿部選手の年齢+5歳で」

――さて、ズバリおうかがいします。お二人は何歳まで現役をやろうと思っていますか?

阿部:僕は今年39歳になるので40歳くらいかなぁと。あと1、2年頑張ろうと思っています。今回、こうやって秋山くんと話す機会があったので色んな刺激をもらったから、ちょっと伸ばすかもしれないです。

秋山:サッカーで39歳なんて、大レジェンドなわけじゃないですか。同級生の方で今も現役の方はいらっしゃるんですか?

阿部:同級生はいるけど、J1からJFLまで含めて10人いるかいないかぐらいだと思う。

秋山:野球の方が引退年齢的にはやっぱり上なので、そこから5年ぐらいスポーツ的にはやれる歳なはずなんですよね。阿部さんが40歳までだったら僕は45歳までやらなきゃいけない。

阿部:そうなりますね。

秋山:そこまでいかないといけないんで、だから阿部さんを応援しつつそのプラス5って思っておきます。

阿部:じゃ、もうちょっと頑張って!

秋山:僕が45までっていったらあと十何年ですからね。

阿部:でもそういうプレッシャーを与えてもらったから頑張んなきゃいけない!

秋山:そうですね。追いかけて並んでからの5年が地獄みたいな5年になりそうですけど(笑)。本当長くやりたいです。

阿部:そうだよね。頑張りたいね。

今やっている大好きなスポーツを「好き」という気持ちを忘れずに

――また、今年はインターハイや甲子園などの全国大会が中止になってしまって、肩を落としている少年少女も多いかと思います。そんな生徒たちへメッセージをお願いします。

阿部:本当に難しい時期で、今いろんな決断がされています。簡単に言えることじゃないですけど、これまでみんなが取り組んできたこと、目標に向かってやってきたことっていうのは無駄じゃない。“絶対に”必ずそれが生かされる時が来る。だから、今はなかなか厳しい状況で、「なんだよ」って思う気持ちがあるとは思うんだけど、この先はよくなってくることしかないと思う。そのよくなった時に今まで溜め込んだもの、やってきたものっていうものを爆発させる。それはどのスポーツも一緒だと思うので、なんとか、その機会がきたら頑張って欲しいなと思う。

今、この状況を「わかって」って言ってもなかなか受け入れられないことも多いかなと思いますけど、こういう状況でもポジティブに考えて、進んで行ってもらいたいですね。その中で今やっている大好きなスポーツを「好き」という気持ちも忘れずにいてもらいたいです。

秋山:これ以上の言葉があるんでしょうか……
僕は甲子園に出たことはないですけど、野球少年で言うと区切りの時期だったと思うんです。勝っても負けても、自分たちが取り組んできたこと、仲間と最後どういう結果になるかっていう、出た結果に対して悔しさなどいろんな思いが出るのに、それさえも味わえない苦しさは、本当に誰も経験したことないことで言葉にできない。これ以上にない悔しさや苦しさであると思うんですけど、もし、プロを目指したいとか、この後、大学や社会人で野球を続けようとしている人、また野球を辞めて勉強に切り替えて前に進むにしても、いろんな人がその個人のこと見てると思うんですよね。

この子は立ち直るのが早い子なのか、どうかってね。(甲子園などに)掛けてきた想いの量にもよるかもしれませんけど、少し立ち上がるのに時間がかかる子なのか、っていうのもあると思うんです。だけど、(人生には)まだまだいろんなチャンスが巡ってくると思うし、これ以上苦しい思いとか悲しい思いっていうのはなかなかないですけど、なるべく自分の中で何か一つ区切りをつけて、次に向かう目標を立てて動き出すっていうことで、周りから「この子はこういう時に強さを持っている」という見られ方や評価になると思う。

特にプロでやりたい子は、意外とそういうとこって見られているよっていうのは伝えてあげたいですね。野球だけじゃなくて、何か小さな目標でも見つけて、それを中・長期的に立てて行って、この経験を「あんなことあったけど何とかできました」と人に伝えれるような、これからの時間をそういう期間にしてほしい。みんなのことを応援してますし、こんな偉そうなこと言ってる人が中途半端なプレイにならないようにしなければという思いで僕もやるんで、違う目標ですけど一緒に戦っていければなと思います。

はじめまして、そしてこれからも

――秋山選手から浦和レッズファンへ、阿部選手からパ・リーグファンへメッセージをお願いします。

秋山:浦和レッズファンの皆さんはじめまして。シンシナティ・レッズに移籍しました秋山です。僕も埼玉のチームであるライオンズでお世話になった人間として、やっぱり同じ県のスポーツを盛り上げる一人だったんですけど、いろんなスポーツを通じて埼玉を盛り上げる、そのファンの方たちのお陰で僕たちも「良いプレーをしたい」とか「声援に応えたい」とか、「悔しい思いをさせたくない」って思いを持ってやっていました。それは浦和レッズを応援しているファンの皆さんもそうだと思います。同じ県で戦うスポーツが野球にもあるというのを少し知ってもらえたらと思います。(昨年まで所属した)ライオンズとしても嬉しいことでもあるし、僕自身は「レッズ」っていうチーム入ったんで、そんなやつもいたなっていうのを思い出しながら、ついでに応援してもらえたら嬉しいです。

阿部:パ・リーグの野球ファンの皆様、浦和レッズの阿部勇樹です。僕は何回か野球を見に行かせていただいて、パ・リーグのチームとライオンズが戦っている試合を見ています。ただ、申し訳ないですけど、その時はライオンズを応援しちゃっていたんですけど、サッカーとはまた違った応援の仕方や盛り上げ方、スタジアムの雰囲気はすごく新鮮で楽しいなって思いました。始球式をやらせていただいた時もピッチに入った時の雰囲気は「全然違うな」と、こんななかでやっている選手は本当に幸せなんだなって思いました。そういった選手たちは素晴らしいプレーをして、皆さんに元気と勇気を与えて恩返しをされているのだなと感じました。

今現在は応援したいチームを見に行く事ができない状況ではあると思いますけど、必ず、大爆発させる時が来ると思うので、その時は各チーム最大限に応援していただいて、パ・リーグがすごく盛り上がるようになっていけばなと。野球・サッカーが盛り上がって、他のスポーツも盛り上がって、日本が元気だよ! っていうのを見せられると思うので、まずパ・リーグの皆様に頑張っていただいて、それに負けずにサッカーもついて行こうかなと思うので、よろしくお願いします!

――最後に、お互いにエールをお願いします。

秋山:この年齢っていうのは失礼な言い方かもしれませんけど、阿部さんが40歳の手前までレッズを引っ張っている姿っていうのは、僕自身もすごく刺激になります。それだけ自分を管理して、高いレベルを目指している方の背中を、違う形で追えるっていうのはすごくありがたいです。さっきも言いましたが、阿部さんが引退した年のプラス5歳まで僕も頑張ると決めました。阿部さんの年齢が上がれば上がるほど僕もずっと野球をやれるモチベーションが上がるので、「1年でも長く」とかじゃなくて、もうここから先5年、10年阿部さんには頑張ってもらって、それを追いかけながら僕もやりたいなと思います

阿部:秋山選手は決断をして、新たな挑戦をして、新しい場所でこれからまたスタートすると思うんですけれど、今までライオンズでやってきた道というものはこれからも残ると思う。その姿を後輩は見てたわけだし、この先もチームは変わって進んでいくなかでも、いろんな人がやっぱり見てる。今まで見ていた後輩もそうだし、秋山選手のようになりたいという子供たちも「向こうでどうしているのかな」と気になって、見てくれてると思う。そういった憧れの存在でいつまでもいて欲しいなぁと。プレッシャーをかけるわけじゃないけど、秋山選手が頑張ってる姿、プレーが日本のニュースとなって数多く流れてほしいですね。

そのことによって僕も元気をもらえるし、まだまだ頑張らなきゃいけないなと思うし、本当にいろんな子供たち、野球が好きなサポーターの方に元気を与えると思うので、怪我をせずに頑張っていただきたいなと。この挑戦を楽しみながら頑張って欲しいです。

<完>

インタビュー動画はパーソル パ・リーグTV浦和レッズの公式YouTubeでご覧いただけます。

【レッズ・秋山翔吾のシンシナティ・ノート Vol.1】経験しないとわからない想定外の話
【レッズ・秋山翔吾のシンシナティ・ノート Vol.2】右も左もわからない……どうなるキャンプイン
【レッズ・秋山翔吾のシンシナティ・ノート Vol.3】ライオンズ時代のチームメイトや同級生を、僕はこう見ていた
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