【レッズ・秋山翔吾のシンシナティ・ノート Vol.1】経験しないとわからない想定外の話

氏原英明

2020.4.27(月) 19:00

 とれ高は数倍になる。
 
 今季からMLBのシンシナティ・レッズに移籍した秋山翔吾の取材を終えると、インタビュアーにいつも残るのは、想定以上の収穫だ。

 1つ聞いたら、2つ、3つのことまで返してくれる。
 もちろん、同時に、さらに畳み掛ける術を用意していなかった自分を嘆いたりもするのだが、こちらサイドとしては、秋山翔吾のインタビューのやりがいは計り知れない。

 秋山選手は昨季まで在籍した埼玉西武では、2015年に樹立したシーズン最多安打記録を皮切りに、数々のタイトルを獲得。二度のリーグ制覇、そのうち昨年はキャプテンとしてチームを牽引し、理想的なかたちで海を渡った選手と言えるだろう。

 2月中旬にキャンプインし、順調に開幕への準備を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大はアメリカでも例外ではなく、リーグの開幕延期、キャンプ地の閉鎖などの処置がとられ、秋山選手のメジャーデビューはしばらくの間、お預けとなっている。

 そんななかで、「パ・リーグインサイト」では、初の現役MLB日本人選手のインタビューに成功。連載でお届けする。インタビューは4月上旬、Zoomアプリを使って行われた。メジャーリーグのこと、キャンプのこと、ライオンズ時代のこと、球場外の取り組みのこと。いつになるかわからぬ開幕を、泰然自若として備える今の心境を語ってもらった。
(インタビュー&文・氏原英明 編集・パ・リーグインサイト)

新型コロナの不安や影響

 現在、僕はシンシナティから2100マイル(3380キロ)以上離れたL.A(ロサンゼルス)でトレーニングをしています。

 トレーニングは主に平日の午前中。土日を休みにして、トレーニングをしながら、キャッチボールやティーバッティングなどで体を動かしています。バッターとしてはボールをしっかり打ちたいという欲はあるのですが、今は、トレーニングをメインにして、体を鈍(なま)らさないようにしているのが現状です。

 日本に帰国することも考えたんですけど、たまたま同学年の前田健太投手(ツインズ)と電話をしていた話のなかで、「L.Aにおいでよ」と言ってもらって、体を動かす場所を見つけることができたので(アメリカに)残ることにしました。今の練習量で物足りているかと言われたら十分ではないですけど、でも身体を鈍らせてるわけでもない。年齢的なことも含めてフィジカルを維持していくのが難しいので、そこを一番やっておくべきことと考えています。

 L.Aのコロナ 対策はしっかりしていますね。外出禁止要請はもちろん出ていて、食事するところもほとんどがテイクアウト専用です。日本との違いで感じるのは、日本はあまり強制力がないのかなとニュースを見ていて思います。それがある意味、個人個人の責任のもと、尊重してくれているっていう国民性でもあるのでしょうけど、大号令がかかったことに対してはアメリカのほうが統制力はあるのかなと感じます。

 それについては、選挙への興味も含めての意識の違いなのかもしれません。アメリカの人たちは大統領や州知事などは自分たちで選んでいるという意識が日本人よりある。その分、そういう人たちが発信しているのであれば自分たちは従うべきだ、というのが行動に出ているように感じます。外に出ていく人がいるという日本のニュースはすごく残念。皆でやるって言った時くらいやろうよって思うところはあります。

日本とアメリカで同じだなと感じる部分を探すほうが難しかった

 キャンプ地が閉鎖になるまで、メジャーの練習法などを初めて体験しましたけど、環境を含めて言うと、日本とアメリカで同じだなと感じる部分を探すほうが難しかったですね。イメージとしては「こことここがいつもと違う」というのがあるじゃないですか。そうじゃなくて逆でした。こういうところが一緒なんだって思うのが少しあるくらいでした。野球をやっている以上、別物として引き離すことはできないですけど、同じ練習、同じ感覚でやっているものがなかった。

 簡単なところで言えば、バッティングなら距離が近いことや、練習時間の短さなどになりますが、実践の捉え方の違いは大きかったです。実戦がいくら入っても、キャンプ中はそれも”練習の一環“という考え方なんです。

 日本ではオープン戦や練習試合が始まると開幕前でも“試合モード”じゃないですか。これがアメリカは“スプリングトレーニング”で一貫している。チームとしてやる練習を試合の日でもやります。例えばフォーメーション練習の指示が出たら、試合に行く人も行かない人もフォーメーション練習をするんです。日本ではオープン戦になったらバッティングローテーションだけで終わっていましたけど、アメリカは練習にプラスして試合がのっかっているという感じです。

 そのほかの違いで言うと、ロッカールームでいつでも食事がとれる。日本ではキャンプで(宿舎から)個人で球場に入ることはないんですよね。しかしこちらでは、キャンプ地に来る手段も自由なら、食事をとるタイミングも自由。先に動いてから食事をとるケースもあるし、食事をとってちょっと動いてから全体練習に入るケースもある。時間の使い方が日本よりも自由です。もちろん、1日のメニューはタイムスケジュールが出ているんですけど、その前の時間がフリーなんです。

 そういうなかでやっていくと、最初はこの練習量じゃ不安だなって思うこともありましたけど「これに慣れるしかないんだ」とすぐ切り替えました。時間の使い方、トレーニングのルーティン、試合までの入り方なども慣れるしかないと思った。「俺はこれをやらなかったら試合に臨めないんだよ」という考えはなくして、もうちょっと柔軟になってもいいかなと考えるようになりました。

 まわりが早く上がろうが、自分のなかで物足りないと思ったら遅くまでやることもあったし、みんながちょっと打っているけど、今日はスパッと上ろうということもあります。日本にいたときはあまりなかったですね。これをやらないと不安というものを取り除いて、いろんなパターンを持っていてもいいし、そのなかでこれだけはブレてはいけないというものは、1カ月くらいで取捨した感じはありました。

もしも、好調キープで開幕を迎えていたら……

 オープン戦終盤の感じで開幕を迎えていたら、「1番・センター」で出られたのかなとも思いますから、開幕して欲しかったなという想いはあります。無観客でなくちゃんとお客さんも入った状態で。だって、メジャー初打席ってずっと映像に残るでしょ(笑)。

 レッズは去年、(ニック・)センゼルがセンターで出ていた。そのセンゼルは怪我から復帰してくる。チームとしてはプラスだと思いますけど、自分としてはそういう選手が出てくることに対しての不安はあるし、緊張感も持っています。“日本人メジャーリーガー”と言われていますけど、試合に出てない限りはまだノーカウントじゃないですか。まだどうなるかわからないですけど、これも巡り合わせで経験だなと思って備えるしかないと思っています。

今回のプライベートショット

とある撮影時のカジュアルショット@自主トレの地・下田

◇秋山選手の最新情報はこちらでも
https://falls-a.com/

バックナンバー

シンシナティ・ノート Vol.2 右も左もわからない……どうなるキャンプイン

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氏原英明

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