
6月以降は本来の安定感を取り戻す

今季から東北楽天ゴールデンイーグルスでプレーしている前田健太投手。広島東洋カープでプロのキャリアをスタートさせると、順調に成績を伸ばしてカープのエースとして君臨。2016年からはメジャーに活躍の場を移し、10年間で226登板68勝を積み上げた。
そんな前田投手であっても、久々となるNPBの舞台に適応するのには時間を要した。持ち味であるはずの制球が振るわず、開幕から5月までの2カ月間は防御率4点台と苦しい登板が続いたのだ。
それでもプロ20年目のシーズンを迎えたベテランは、二軍調整の期間を使って投球内容を少しずつ修正。6月以降は計34回2/3を投げて与えた四球はわずか2つ。防御率1.82の好成績をマークするなど本来の安定した投球を取り戻した。では、前田投手はどのようにしてピッチングを立て直したのか。データの変化からその一端を探ってみたい。
追い込む前の組み立てを変更

メジャー時代はストレートの使用頻度を抑え、スライダーとスプリットの2球種を中心に投球を組み立てていた前田投手。NPBの舞台に帰ってきた今季も、同様のスタイルでシーズンをスタートした。
表で示した0・1ストライク時の球種別投球割合でも、5月まではスライダーとスプリットで全体の7割近い割合を占めており、ストライクカウントを稼ぐための投球の軸にこの2球種を据えていた。
しかし成績が改善した6月以降はスプリットの割合を下げ、代わりにストレートとカーブを増やしていることが分かる。大まかにいえば、メジャー時代の配球からカープ時代の組み立て方に近づけたということになるだろう。
5月まではスプリットが不安材料に

球種別のストライク率を見ると、打者を追い込む前の配球を変更した理由が見えてくる。本来はすべての持ち球を高いレベルで操ることができる前田投手だが、NPB復帰後最初の2カ月はスプリットのストライク率がリーグ平均を大きく下回る52.6%にとどまり、浅いカウントでストライクを稼ぐ球種としては機能していなかった。
そのため、精度に不安のあったスプリットをしっかりとストライクが取れる球種に置き換えることで、投球の安定化を図ったものと考えられる。
精度抜群のスライダーで不利なカウントを脱する

5月までと6月以降の違いとしてもう1つ注目したいのがスライダーの精度だ。上の表で示したように、ボール球が先行した打者有利カウントではスライダーの投球割合は約6割と特に大きくなる。
投手不利の状況を打開する際に選択する最も得意な球種というわけだが、6月以降はこの状況におけるスライダーのストライク率が83.6%と非常に高くなっている。打者と勝負していく中でボールが先行してしまっても、絶対の自信を持つスライダーですぐにカウントを整えることができるのだ。
打者をすばやく追い込み、3ボールとなる前に決着をつける

ストライク率の高い球種でカウントを稼ぎ、仮にボール球が先行しても精度の高いスライダーでカウントを整えられるようになった6月以降は、打者を追い込むまでに要する球数が減少。2.82という数字は、埼玉西武・隅田知一郎投手や北海道日本ハム・加藤貴之らと同程度でリーグトップクラスの少なさだ。
また、カウントが3ボールまで進んだ打席も大きく減るなど投球の安定感が向上。抜群のコントロールで数々の打者を抑えてきた前田投手が本来の姿を取り戻したといえるだろう。
スプリットの精度もしっかりと改善

一方、5月までの不調の要因として取り上げたスプリットだが、完全に封印したというわけではない。0・1ストライク時の投球割合を減らした6月以降も追い込んだ後の割合は変わっておらず、低めに投げ込んで空振りを誘うという役割が明確になったためか、ボールゾーンスイング率や奪空振り率が改善。
三振を奪うための決め球としてしっかりと機能している。登板を重ねるうちにスプリットの精度に不安がなくなれば、再びカウント球として使うことも可能になるだろう。そうなれば、投球の幅はさらに広がることになる。
8月12日のオリックス戦で7回2失点の好投を披露し、史上145人目となるNPB通算100勝を達成した前田投手。ここ数年苦しい戦いが続いている東北楽天に加わった頼れる新戦力は、節目の記録のその先も、自身のため、そして杜の都に再びチャンピオンフラッグをもたらすために、勝利を積み重ねてくれることだろう。
※文章、表中の数字はすべて2026年8月19日終了時点
文・データスタジアム