台湾プロ野球開幕特集、前半では、開幕から1カ月あまりの振り返りと、注目のトピックをご紹介したが、後半では、日本人指導者や選手に関する話題、来年のWBCに向けた動きなどについてお伝えしよう。
6球団に日本人指導者が12人
2020年の後期シーズンから公式球の反発係数が見直され、「打高投低」が解消、守備や走塁、戦術がより重視されるようになったうえ、台湾人投手の育成も課題とされるなか、近年、各球団が日本人指導者を招聘している。
2023年には全6球団でフルタイムの日本人指導者が誕生、そしてオフには、楽天モンキーズに古久保健二監督、中信兄弟に平野恵一監督と、内部昇格により日本人監督が2人誕生した。昨季は後期シーズンで優勝、レギュラーシーズンでは球団歴代最多となる70勝をあげ、台湾シリーズも制した中信兄弟の平野恵一監督は、「台湾王者」という結果のみでなく、情熱あふれる指導に加え、従来の日本人指導者に対するイメージをいい意味で覆す柔軟さもあり、高く評価されている。自チームの強化のみならず、台湾野球全体の底上げを目指す平野監督、連覇を目指す今季は「『育てながら勝つ』という難しい課題に挑戦したい」と語っている。
楽天は昨季、前後期ともに優勝はならなかったものの、古久保監督は苦しい状況にあったチームを年間3位に導き、プレーオフ進出を果たした。このほか、楽天では2021年10月に就任し、これまで主にファームを担当、プレミア12代表の王志煊、荘昕諺らを育てた川岸強コーチが一軍投手コーチに転任、昨季、二軍スポーツパフォーマンスコーチに就任した広瀬大輔氏も、今季は一軍に籍を置く。
味全で2020年から指導者をつとめる高須洋介コーチは、昨シーズン中に、一軍ヘッドコーチに抜擢され、今季は2年ぶりの王者奪還を目指す。また、その厳格な指導が「玉木塾」と例えられている統一の玉木朋孝内野守備統括コーチは一軍に籍を置きながら、チーム全体の内野守備のレベルアップ、意識改革を図る。
劉東洋GM、洪一中監督をはじめ、日本野球を理想とする台鋼は、2023年から指導する横田久則投手コーチが今季も一軍投手統括コーチを務める。「クローザーに外国人投手を起用していては上位進出が望めない」と、昨季、圧倒的なパフォーマンスをみせた吉田一将の先発転向を決め、今季は20歳の張誠恩をセットアッパー、23歳の林詩翔をクローザーに抜擢、勝ちパターンをつくった。台鋼はこのほか、引き続き、里隆文氏が一軍トレーニングディレクターコーチを、二軍では福永春吾氏が投手の育成部門を担当する。
このオフ、一番大きな動きがあったのが富邦だ。昨年10月、林威助氏が副GM兼ファームディレクターに就任すると、林副GMは自身の人脈を活かし、後藤光尊氏を二軍監督兼野手総合コーチに、島崎毅氏を二軍投手コーチに、そして、根本淳平氏を二軍コンディショニング統括コーチに招聘した。
また、千葉県市川市の「NEXTBASE ATHLETES LAB(ネクストベース・アスリートラボ)」に、1月中旬に若手野手を、2月下旬には若手投手を派遣、動作解析をもとにしたトレーニングを行った。けが人続出もあり、苦しい戦いが続いている富邦だが、潜在能力の高い若手は多い。NPBで豊かな指導経験をもつ3人の日本人指導者の加入、中信兄弟の指導者時代に常勝軍団の基礎をつくった林・副GMによる「体質改善」により、チーム力の向上を期待したい。
新たな日本人選手が入団 元NPB助っ人も多数在籍
日本人選手では、外国人として初めてCPBLドラフト会議で指名された36歳の「オールドルーキー」高塩将樹が、開幕から一軍で勝ちパターンの中継ぎとして活躍、登板時には、応援団から日本語で「頑張れ、頑張れ、高塩!」とエールを送られている。
台鋼は昨年、怪我で途中離脱前、高い制球力と緩急で安定感抜群の投球をみせていた小野寺賢人、オイシックスからシーズン中に入団し、クローザーとして活躍、「台鋼のダルビッシュ」と呼ばれた吉田一将と契約を延長、そして春季キャンプ期間には、テストを経て、元東北楽天の左腕、櫻井周斗が入団した。
台鋼の3人の日本人投手のうち、唯一支配下登録されている吉田は、今季から先発に転向。開幕一軍入りを果たすも腰の違和感で登板を見送り二軍落ちしたが、4月26日の統一戦で今季一軍初登板、5回2失点と試合をつくると、5月3日の中信兄弟戦では5回2/3を無失点と好投、勝ち投手となり、お立ち台にも上がった。なお、二軍では、実績のある小野寺に加え、櫻井もしっかりアピールしており、登録の機会を狙っている。
また富邦は、「育成外国人」という形で、元くふうハヤテの二宮衣沙貴と、元茨城アストロプラネッツの根岸涼を獲得した。両右腕はまず二軍でアピールし、外国人の支配下登録4枠入りを目指すこととなる。
元NPBの台湾選手のみならず、陳傑憲ら、元日本留学組が多いのもCPBLの特徴だ。そのうちの一人、台鋼の22歳、曽昱磬は、高知中央高校時代から注目されていた好打者で、台湾帰国後、まさかのドラフト指名漏れもあったが、昨年2度目のドラフトで台鋼から4位指名されると、U23ワールドカップなど国際大会で活躍。オープン戦で長打力を発揮し、開幕一軍をつかんだ。まだ荒削りだが、高校時代から交流があるという「日本留学組」の大先輩、呉念庭からもアドバイスを受けながら奮闘している。
かつてNPBでプレーした外国人選手も数多く在籍している。統一には今季、新外国人として元千葉ロッテのC.C.メルセデス、元巨人のヨアンダー・メンデス、元横浜DeNAのジョー・ウィーランドとNPB経験者が一気に3人加入、なかでもメルセデスはすでに3勝、防御率2.19、WHIPは0.84と高い安定感を誇る。
台鋼では、昨季のHR、打点の「二冠王」、元オリックスのスティーブン・モヤが7HRで単独トップ、台湾球界5年目、元広島のブレイディン・ヘーゲンズがリーグトップの防御率1.41と投打の柱となっているほか、味全には元オリックスのタイラー・エップラーがいる。また、富邦は外国人投手の負傷を受け、5月3日、元東京ヤクルトのデビッド・ブキャナンとの契約を発表した。台湾選手を含めれば、各チームに元NPBの選手が在籍している台湾プロ野球、こうした点も、日本のファンにとっては、より身近に感じられることだろう。

WBC台湾代表監督は、プレミア12でチームを優勝に導いた曽豪駒氏に決定
CPBLは4月23日、来年3月のWBC本大会の台湾代表監督について、プレミア12の優勝監督で、WBC予選でもナショナルチームを本戦に導いた、楽天モンキーズの曽豪駒一軍ヘッド兼任打撃コーチが就任することを正式に発表した。
来年3月6日、WBC1次ラウンド、侍ジャパンの初戦の相手は台湾だ。国際大会は自国だけでなく、ライバルチームについて少しでも知っていると、楽しみはぐっと広がる。台湾プロ野球は、有料ライブ配信サービス「CPBLTV」を通じて、日本からも視聴可能だ。毎週木、金は二軍戦がYouTubeで生中継がされている。
ただ、何よりおすすめなのは現地観戦だ。インバウンド需要で日台間を結ぶフライトが急増、約半数の都道府県から台湾への直行便が運航されている今、ぜひ台湾で生観戦をし、過去最高の盛り上がりを「五感」で感じてもらいたい。
文・駒田 英(情報は5月6日現在のもの)