台北市の台北ドームで4月11日から13日にかけ開催された台湾プロ野球の統一ライオンズの主催試合(対味全ドラゴンズ3連戦)は、統一ライオンズと埼玉西武ライオンズのコラボレーションイベント「Wライオンズ」イベントとして開催された。
台湾プロ野球の統一セブンイレブン・ライオンズと、日本プロ野球の埼玉西武ライオンズによる、台湾と日本の「ライオンズ」による交流は、1985年から1997年まで西武でプレーした「オリエンタル・エクスプレス」郭泰源氏(現・富邦ガーディアンズ・エグゼクティブ副GM)が統一の監督をつとめていた2016年にスタートした。同年の春には、西口文也・現西武監督が統一の客員投手コーチをつとめたほか、統一の選手の西武秋季キャンプへの派遣も行われた。また、2019年及び2024年の春季キャンプ期間には、西武のキャンプ地、高知県の春野で交流試合も開催された(2024年は雨天中止)。
そして、両球団のコラボレーションイベント「Wライオンズ」イベントも2016年から、パンデミック期間を除き、台湾と日本で開催されてきた。マスコット、パフォーマンスチームによる「共演」が目玉だが、特に台湾では、毎回コラボグッズの販売や、西武OBのレジェンドを招いてのトークショー及び始球式が行われ、高い人気を博している。
今年、台湾では4月11日から13日の3日間、台北ドームで、日本では4月30日、5月1日の両日、ベルーナドームで開催された「Wライオンズ」コラボイベント。今回は、台湾で開催されたイベントの模様をお届けしよう。

10周年を迎え、初めて台北ドームで開催された今年は、埼玉西武ライオンズから公式パフォーマンスチームの「bluelegends(ブルーレジェンズ)」6名とマスコットの「レオ」が來台、統一ライオンズのチアリーダー「Uni-girls(ユニ・ガールズ)」、マスコットの「LION(ライオン)」、「YINGYING(インイン)」と共に盛り上げた。
bluelegendsは、特設会場でのファンミーティングで台湾のファンと交流したほか、オープニングセレモニーではグラウンドでUni-girlsと息のあったダンスパフォーマンスを披露、試合中には、一、三塁内野スタンドのステージ上で行う台湾スタイルの応援にも参加し、「吠えろライオンズ」やトレインダンスなど西武の応援のほか、統一の応援コールにも挑戦して喝采を浴びた。
昨シーズンから「Uni-girls」のメンバーとなり、今や台湾プロ野球を代表する人気チアとなっているNozomiさんとChihiroさんの二人はbluelegendsの出身で、この「Wライオンズ」イベントでの交流が来台のきっかけ。そんな二人がbluelegendsと共演、埼玉西武の応援歌に合わせて踊る姿を見て喜んだ台湾ファンも多かったようだ。
また、埼玉西武のマスコット・レオは、台湾でも圧巻の運動神経をみせつけた。始球式でストライク投球をみせたかと思えば、代名詞ともいえる連続バック転では、音楽に合わせて余裕の8連続回転。そして極めつけはリレー対決だった。レオは、bluelegendsのメンバーからアンカーとしてバトンを受けると、リードを保ち、1986年の日本シリーズで秋山幸二氏がみせたような「バック宙ホームイン」でゴール、スタンドを沸かせた。

今回、ゲストとして招かれたのは、西武の黄金時代を支えたレジェンドプレイヤー、渡辺久信氏と石井丈裕氏であった。共に、日本プロ野球でのキャリアを終えた後、郭泰源氏との縁で、氏が当時高級技術顧問をつとめていた台湾のもう一つのプロ野球リーグ、今は亡き、TML(台湾大連盟)に加入、渡辺氏は1999年から2001年まで嘉南勇士に、石井氏は2000年から2002年まで台北太陽に在籍、時に投げ合い、共に最多勝と最優秀防御率のタイトルを獲得するなど大活躍したほか、指導者としても豊かな経験をわかち合い、レベルの底上げを行った。渡辺氏は常々、自身の指導者のベースは台湾での3年間にある、と述べている。
4月12日のファンミーティング、トークショーで、台湾華語に台湾語もまじえ挨拶を行いファンを沸かせた渡辺氏は、TMLでプレーしていた当時から、ファンが心待ちにしていた台北ドームの完成を喜んだほか、長きに渡る両球団の交流にも触れ、日本一チームとして臨んだ2008年のアジアシリーズ決勝で、台湾王者の統一に1対0でサヨナラ勝ちした直後、両チームで一緒に記念撮影をしたことは「今でも忘れられない思い出だ」と振り返った。
トークショーの後半には、渡辺氏が埼玉西武のシニアディレクター時代に獲得し、現在は統一でプレーする郭俊麟がシークレットゲストとして登場。司会者から、昨年のプレミア12での郭俊麟の活躍は見たか、と問われた渡辺氏は「郭俊麟はね、国際大会は強いんですよ」と直球トークで盛り上げたあと、細かいフォームの変化に言及し、「肘を怪我したので心配していたけれど、空振りが取れる球を身に着けた。レベルがあがったね」と褒めてしっかりフォロー、二人は笑顔で抱擁した。
渡辺氏は、統一そして台湾代表のキャプテンで、優勝したプレミア12でMVPに輝いた台湾の「国民的ヒーロー」陳傑憲ともゆかりがある。実は、陳傑憲の小、中時代の恩師はいずれも渡辺氏のTML嘉南勇士時代のチームメイトで、特に、同じ投手で7歳年下の林讃新氏は、渡辺氏にとっては仲の良い同僚で、目をかけていた後輩でもあった。渡辺氏にその縁を尋ねると「陳くんは日本(岡山県共生高校)に留学していたし、林讃新から話も聞いていましたが、ここまで素晴らしい選手になってくれて良かったです。日本の高校で基礎をつくって、台湾で花が咲いた。日本に縁のある選手だし、『教え子の教え子』なんで、余計に嬉しいです」と目を細めた。
翌4月13日、始球式をつとめ、感無量といった表情を浮かべた石井丈裕氏は「自分が『第二の故郷』と思っている台湾を訪れ、素晴らしい台北ドームでこうしたイベントに参加できて嬉しい。欲を言えばストライクを投げたかったけれど、一生、忘れないと思う」と語った。
台湾メディアから、この約20年間の台湾野球の進歩について問われた石井氏は、自身がプレーをしていた当時は、まだ日本とは大きな差があり、力強いスイングで遠くに飛ばすことはできても、変化球にはついていけない選手が多かったが、この2日間観戦し、変化球にもしっかりついていける好打者が増え、レベルの向上に驚かされている、と述べた。そして、昨年のプレミア12における台湾代表の躍進については、「台湾の選手はこれまで、接戦に弱いというイメージがあったが、心理面が随分強くなっている」と評価した。9年ぶりだという今回の来台では、郭泰源氏とも再会したといい、西武時代やTML時代の思い出話で盛り上がったという。

「Wライオンズ」イベントは、台湾と日本の交流イベントという事もあり、特設会場では、西武鉄道や、北部・桃園市で横浜八景島が運営する都市型水族館「Xpark」など西武グループの企業のほか、パシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)や高知県もブースを出展した。
PLMは、2014年から台湾におけるパ・リーグ公式戦の中継をスタート、現在は、DAZN台湾とパートナーシップ契約を締結し、台湾華語による実況解説つきのメインチャンネルを含め、連日配信、中継試合数はパ・リーグ6球団の主催試合だけで、年間400試合以上に達する。
PLMのブースでは、パ・リーグのスター選手が写ったボードの前で記念写真を撮り、DAZN台湾のインスタグラムに登録、好きなパ・リーグの選手を一人タグ付けして投稿すると、グッズが当たるくじ引きに参加できる企画を実施、3日間で1,500人近いファンが参加した。
統一の主催試合ということもあり、このオフにポスティングシステムを利用し、北海道日本ハムファイターズ入りした元統一のエース古林睿煬が、タグ付け選手人気ナンバーワンだったが、福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手や日本ハムの万波中正選手らも人気を集めていた。今回のコラボイベントで発売された「Wライオンズ」法被を身に着けたファンは「清原和博選手の時代から西武を応援している。一人に絞りきれないよ」と笑った。
高知県のブースでは、公益財団法人高知県観光コンベンション協会の坂本龍馬・スポーツ部長もPR。あの「幕末の志士」と同姓同名の坂本部長によると、毎年、春野で春季キャンプを行っている西武に加え、統一も過去2度、西武との交流を目的に高知を訪問していることから、今回出展を決めたといい、両球団とは、キャンプのみならず、より深いつながりをもちたいと期待を示した。ちなみに、高知県を訪れるインバウンド客は台湾がトップ、高知空港唯一の国際定期便である台湾桃園と高知を週2便運航するタイガーエア台湾のフライトは、搭乗率が90%を越えているといい、坂本部長はデイリー運航を目指したいと語った。台湾華語のパンフレットを手にした観客は「高知で日台ライオンズ対決を見てみたい。魚が美味しそう」と目を輝かせていた。

郭泰源氏以来、数多くの台湾人選手を獲得してきた埼玉西武ライオンズ。昨年のドラフト会議では4位で、195センチ105キロの大型外野手、林冠臣(日本経済大)を獲得した。4月27日には三軍のENEOS戦で嬉しいプロ初ホームランをマーク、会心の当たりでなくてもスタンドまで運ぶパワーは見るものをワクワクさせる。林冠臣が一軍に定着すれば、台湾ファンの西武への関心もより高まり、来年以降の「Wライオンズ」イベントはより盛り上がりをみせることだろう。今後のさらなる交流に期待したい。
文・駒田英