NPB時代に数多くの投手タイトルを獲得し、MLBでも先発として活躍を見せた
11月26日、東北楽天が前田健太投手との契約合意を発表。12月17日に新入団会見で「選手として勝つことが一番のモチベーション。そのために必要と思われる選手でありたい」と力強く語り、背番号18を披露した。
前田健投手は広島時代の9年間で通算97勝を挙げ、それぞれ2度の最多勝と最多奪三振、3度の最優秀防御率、そして2度の沢村賞と1度のMVPを受賞。MLBでも10年間で通算68勝と実力を証明してみせた。
今回は、前田健投手が日米の球界で記録してきた年度別成績をもとに、NPB時代とMLB時代において生じた指標の変化について紹介。異なる環境にいち早く適応して結果を残してきた前田健投手の足跡を振り返る。
卓越した制球力を活かし、先発完投型のエースとして安定感抜群の投球を展開
前田健投手がNPBでこれまで記録してきた、年度別の指標は下記の通り。

高卒2年目の2008年から一軍の先発ローテーションに定着し、翌2009年から7年連続で175投球回以上を消化。2010年以降の6年間で4度の200イニング超えを果たし、2010年と2015年には沢村賞の栄誉にも輝くなど、先発完投型のエースとして一時代を築いた。
抜群のイニング消化能力に加え、NPBにおける8シーズンにおいて防御率が3点台後半以上になったことは一度もなく、2010年以降は6年連続で防御率2.60以下の数字を記録。NPB通算の防御率も2.39と先発投手としては非常に優秀な水準に達しており、投手陣の大黒柱に相応しい安定感を示し続けた。
奪三振率に目を向けると、キャリア通算の数字は7.35と決して高くはなく、奪三振率が8.00以上となったシーズンも2011年と2013年の2度のみ。その一方で、与四球率は規定投球回に到達した7シーズンのうち6度にわたって1点台を記録し、キャリア通算の数字も1.90と非常に優秀な水準にあった。
三振を四球で割って示す、投手の制球力を示す「K/BB」という指標は3.50以上であれば優秀とされるが、前田健投手は規定投球回に到達した7シーズン全てでその水準を上回った。とりわけ、キャリア最高の与四球率1.35を記録した2009年のK/BBは5.07と抜群の数値であり、高卒3年目の時点で投手としての完成度が非常に高かったことがうかがえる。
2011年と2015年にもK/BBが4.00を上回るシーズンを送り、キャリア通算のK/BBも3.87と優秀だ。これらの数字からも、NPB時代の前田健投手はハイペースで三振を奪うというよりは、制球の良さを活かして打者を打ち取る投球スタイルで結果を残してきたことがわかる。
1イニングで許した走者数の平均を示す「WHIP」に関しても、規定投球回に到達した7シーズン全てで1.16以下と優れた水準にあり、WHIPが1.00を下回ったシーズンも4度存在。キャリア平均の数字も1.05と非常に優秀で、走者を背負う局面自体が少なかったことが示されている。
MLBでは奪三振率を大きく向上。指標面でより高く評価される投手に進化
続いて、前田健投手がMLBで記録した年度別の指標について見ていこう。

MLB1年目の2016年に自己最多の16勝を挙げ、2017年に13勝、2019年に10勝と3度の2桁勝利を達成。全60試合の短縮シーズンとなった2020年には規定投球回に到達して防御率2.70を記録し、同年におけるサイ・ヤング賞の投票では2位に入るなど、世界最高峰の舞台においても先発として出色の活躍を見せた。
その一方で、ドジャース時代にシーズン途中からリリーフに回ることが多かった影響もあり、投球回は2016年の175.2イニングが最多という結果に。シーズン防御率が3点台以下となったのは実働9年で3度のみ、MLB通算の防御率も4.20と、並み居るMLBの強打者たちを相手にNPB時代と同等の安定感を発揮することはできなかった。
しかし、奪三振率に関しては2024年を除く全てのシーズンで9.00以上の数字を記録し、キャリア通算の数字も9.62と非常に優秀な水準にあった。NPB時代に投球回を上回る奪三振を記録したシーズンは一度もなかっただけに、米球界において重視される奪三振率を渡米後に大きく向上させたことは、前田健投手のMLBへの適応の早さを示す証左となっている。
それに加えて、与四球率に関しても9シーズン中7シーズンで2点台以下の数字を記録し、2020年には与四球率1.35という驚異的な数字を残した。キャリア平均の数字も2.60と優秀であり、米球界においても持ち前の制球力が維持されていたことがわかる。
その結果として、K/BBが3.50を超えた回数は9シーズン中7度にのぼり、キャリア通算の数字も3.70と優れた水準に達していた。とりわけ、2020年のK/BBは8.00とまさに驚異的な数字を記録しており、サイ・ヤング賞の投票で2位に入ったのも頷ける圧巻の投球を披露した。
MLB通算のWHIPも1.17と一定以上の水準にあり、MLBにおいても制球の良さを走者を背負う回数の少なさに直結させていたことがわかる。奪三振を軸にした投球スタイルへの転換を成功させつつ、元来の強みだった制球力も失うことなく、指標面でより高く評価される投手へと進化を遂げた点が、前田健投手がMLBで成功を収めた大きな要因の一つと言えよう。
日米で培ってきた貴重な経験をチームに還元し、投手陣を変える存在となるか
2025年にはMLBで防御率7.88と不振に陥り、AAAでも2チーム合計で防御率5.40、奪三振率7.47、与四球率3.51、K/BB2.13と指標の面でも苦戦を強いられた。ただし、8月にヤンキース傘下の球団に加入して以降は奪三振率8.02、与四球率2.95、K/BB2.71と復調の傾向を示しており、来季もこの流れを継続して本来の投球に近づけるかがカギとなりそうだ。
若くしてNPBで台頭を見せ、MLBへの移籍後も新天地の環境に適応して結果を残した前田健投手は、東北楽天の後輩たちにとってはまさに“生きた教材”となりうる。11年ぶりのNPB復帰を果たす右腕が杜の都で躍動を見せ、日米の球界で培ってきた経験をチームに還元する存在となるか。来たる2026年シーズンの投球は、まさに要注目となりそうだ。
文・望月遼太
