プロ野球が生み出す圧倒的な熱狂。そのエネルギーを何倍にも膨らませ、チームとファンをつなぐ架け橋となっているのが、「グッズ」の存在だ。いまや球団経営の重要な柱となっている「グッズ」だが、最近では、“球場での応援アイテム”にとどまらず、ファンのライフスタイルに溶け込む実用的なアイテムが多数登場し、各球団、続々とヒットを生んでいる。
現在、唯一無二のプロパティを生かし、一年を通してさまざまなグッズを生み出し続けている福岡ソフトバンクホークス株式会社 MD企画課の南一輝さんは、大学卒業後、出版社に就職。主にキャラクタービジネスに携わり、国内での商品化や、テーマパークの運営管理、キャラクターの海外展開に取り組んでいたが、4年目を迎えたタイミングで、結婚を機に地元・福岡県へのUターン転職を決断した。
次なるステージに選んだのは、アプリのコンテンツ開発事業を行うベンチャー企業だった。しかし転職して1年ほど経った頃、企業が倒産の危機に立たされる。ここで3度目のキャリアチェンジを決意した南さんは、「to Cにより近いところで、手触り感のあるものを自分でつくり、お客さんに届けたい」という軸のもと、転職活動を開始。
1社目で培った経験を生かせる職種であり、自身が掲げる軸とも合致していたことから現職に魅力を感じた。加えて、幼少期にホークスをきっかけに野球を始め、その経験が人格形成の原体験となったことから、今度は自分がスポーツを通じて誰かの人生に残る原体験を届けたいと考え、応募を決めた。
当時は、選考ステップとして、書類選考と3度の面接が設けられており、面接は全てオンラインで行われた。対面での面接が一度もなかったことから、「実際の働き方や職場の雰囲気が見えづらい」と感じたこともあったそうだが、球場に足を運び、グッズショップの様子を自分の目で見に行ったことで不安を解消。「想定問答集を作り込み、短い面接時間でもきちんと要点を伝えられるように、友人とともにロールプレイング形式で対策をしました」と事前準備の重要性を強調した。

南さんは現在、イベントコンセプトに沿ったグッズの制作ディレクションや新規商品の企画開発、ホークスとコラボする外部コンテンツの獲得業務など、幅広く活躍している。
「業務はさまざまありますが、まずは、『鷹祭 SUMMER BOOST』や『ピンクフルデー』などの球団イベントに向けて、グッズを企画する業務です。デザインをディレクションして、 メーカーさんにつくってもらい、お客さんに商品を届けるという一連の流れを担っています。そして、シーズン中に発生する選手の記録記念グッズを企画する業務。あとは、コラボ企画の案件を見つけてきて、コラボグッズとして発売するための対外的な営業、交渉活動なども行っています」
新卒で入社した出版社での経験と重なる部分も多いように感じるが、スポーツ業界ならではの“スピード感”にはとても驚いたそう。
「私が1社目でキャラクタービジネスをやっていた当時は、細かい監修やクオリティ担保にとても時間をかけていました。一方、プロ野球業界は、日々の試合の中でもいろいろなネタが発生するので、それを取り上げてお客さんに届けなければいけない。このスピード感は、前職とは比べ物にならないくらい早かったです。入社して初めて感じたギャップでしたね」
「ずっと繫忙期と言ってしまえば、ずっと繁忙期」と目まぐるしく動く毎日のなかで感じる一番のやりがいは「ホークスファンがグッズを手にしている姿を見た瞬間」。南さんは、疲れた時こそスタンドに上がり、自らが手がけたグッズを身に着けたファンの姿を見に行くのだとか。
「元気が出るんです。ファンの皆さんの姿から栄養をもらって、また仕事に励みます」
数万人規模のファンの反応をリアルに感じながら、感動を生み出せる環境は、ホークスの大きな魅力と言えるだろう。
前職での経験が生きた、人気キャラクターとのコラボ
これまでさまざまなヒット商品を生み出してきた南さんだが、特に思い入れのある案件は2024年、2025年に実施した『クレヨンしんちゃん』とのコラボだ。これは、南さんの前職での経験が大きく生きたものだった。

「このコラボは、前職の経験やご縁があって実現できたコンテンツでした。これまでのキャラクターコラボは、キャラクターにユニフォームを着てもらう企画に留まることが多かったのですが、前職での経験を踏まえて、今回は選手の描き下ろしイラストを描いてもらうことができるんじゃないかという感覚が自分の中にありました。コラボを発表した時は想定以上の反響をいただきましたし、コラボ系のグッズの中では歴代最高の売上を記録することができたので、印象に残っていますね」
「より面白いものを」南さんが見据える先とは
自身の経験をフルに生かせる新天地として今の環境を選んでから3年。現場の最前線でたしかな手ごたえをつかむ中、南さんはどのようなキャリアビジョンを描いているのだろうか。
「イベントとグッズは切っても切り離せないものだと思っています。私はグッズ領域でスキルや知見を蓄えていますが、やはりイベントが伴わなければ、売上につながらないので、イベント担当も経験したいです。そうすることで、グッズ起点でイベントをつなげるという動きもできますし、逆にイベントからグッズに落とし込んでいくという動きもできるようになるので、より面白いものをつくれるんじゃないかと思っています」
そんな南さんが所属するMD企画課では現在、クリエイティブの幅をさらに広げるべく、新たな力を必要としている。南さんが新たな仲間に求めるのは「自分なりの熱量やこだわり、大事にしているものがある」こと。“企画は正解がない仕事”だからこそ、どこまで突き詰められるかは、個々のこだわりと直結するのだ。
最後に、スポーツ業界への転職を志す全ての人へ、南さんからのメッセージ。
「スポーツ業界は、狭い世界である分、敷居が高いと感じたり、何か特別なスキルがないと入れないと思われたりしがちですが、全くそんなことはありません。一つの球団を取ってみても、本当に幅広い事業を行い、多くの商品やサービスを展開しているので、その事業を個別に細かく分解していけば、どこかで自分がやってきた経験、スキルを生かせるところが見つかる思います。自分が持っているものがどのように貢献できるかとか、どこで価値を見出せるかといったところを突き詰めていくと、自然にスポーツ業界でのキャリアがより身近なものになると思います。ぜひそういう視点でご自身の経験や強みを整理してみてください。スポーツ業界との接点が見えてくるかもしれません」
取材・文 後藤万結子
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