「まっすぐを狙う。良い投手に対しては、一番良い球を狙う」王貞治氏
11月24日、東京ドームで行われた「名球会ベースボールフェスティバル2018」で、新旧のレジェンドたちに夢のある質問を投げかけてみた。その3回目は、「投手・大谷翔平と対戦したらどう打つか」。
「周囲は大きな期待をかけるものなんですよ。でも世界最高峰の舞台に挑戦して、しかも打者と両方やっている。渡米までもかなりの準備をしたと聞いている。それだけでもまずは素晴らしいことですよね」
福岡ソフトバンク王貞治会長は、大谷の挑戦に対して、心から拍手を送っているようだった。投手・大谷としては本人も決して満足してはいないことだろう。シーズン成績は10試合登板、4勝2敗、防御3.31。6月には右ヒジ内側側副靱帯損傷でDL入り。そして10月にはトミージョン手術をうけ、19年シーズンの本格復帰を目指している。
「もちろん結果的には故障もあって投手としては本人も不本意だったはず。だけど大谷君のことだから、さらに大きくなって戻ってきてくれると思いますよ」
嬉しそうに語る王会長に大谷との対戦について聞いてみた。
「大谷君との対戦か、考えたことがなかった……。でも、とにかく真っ直ぐを狙います。一番速い160キロ超のストレートを打ち返してみたい。良い投手に対しては、その投手の一番良い球を狙う。僕は現役時代からずっとそうだった。大谷君もいろいろな球種があるけど、やっぱりまっすぐでしょうね。打ち返せたら、本当に気持ちが良いだろうね」
世界記録868本塁打を持つ『世界の王』がまっすぐを振り抜く。想像するだけでもワクワクしてしまう。
若松勉氏「甘い球をミスショットすることなく打ち返すしかない」
「あれだけ速いまっすぐがあって、消えるような変化球もある。なかなか打てるものではないよね。今は僕らの時と違って、打撃マシンなどの練習環境も良い。そういう意味でも打者有利の時代なんだろうけど、その中でしっかり抑えることができるわけだから、スゴいですよ」
身長168センチと小柄ながら天才的なバットコントロールで2173安打、通算打率.319というとんでもない数字を残した若松勉氏。
「やっぱりまっすぐを狙うんだろうね。変化球が来たらとにかくバットに当ててファールにしたいね。空振りだけは避けたい。いくら大投手といっても1試合に1球は甘い球も来る。それを待ってミスショットすることなく、打ち返すしかないだろうね」
稀代の安打製造機をして、打つのは困難を極める、と言わしめる。投手・大谷は決して話題先行ではなく、実力を伴った本物なのだ。
同じ直球待ちでもアプローチがまったく異なる小久保氏と中村氏
同じような真っ直ぐを待って対応するタイプでも異なったアプローチをするのは、小久保裕紀氏と中村紀洋氏の2人。
小久保氏はプロ通算2041安打413本塁打、1304打点。福岡ダイエー、巨人、福岡ソフトバンクで常に主軸をつとめたチャンスに強い強打者である
「真っ直ぐを待つしかないでしょうね。真っ直ぐのタイミングでスイングして、スプリットなどの変化球が来たら諦める。また真っ直ぐが来ても打ち損じてしまったら、そこで負けかな。真っ直ぐで振りに行って、空振りやファウルならごめんなさい。ともかく少ないチャンスしかないから、それをしっかりつかまないと結果は出せないでしょうね」
そしてNPB通算2101安打、404本塁打。近鉄、オリックス、中日、東北楽天、横浜、ドジャースでもプレーした経験を持つ中村紀洋氏。
「真っ直ぐを待つのは変わらない。僕の打撃スタイルならば、フォークボールが来てもボール球なら見送れると思う。だからとにかく真っ直ぐ一本にしぼって思い切って振る。しばくような気持ちで強くスイングして、結果がどうなってもそれはどうしようもない」
現役時代からフルスイングが代名詞だった中村氏。ボール球を見極める技術と自信があるからできることでもある。
「投打で主軸っていうのはやはりスゴイ。高校野球じゃないんだし、プロ、それもメジャーで実際にやっているんですから。もし日本代表にいたら、単純に投手、野手のどちらかで選手をもう1人多く連れて行けますからね。結果も出せるし、こういう選手がいると助かるだろうし、いてほしかったですね」
2013年~17年に侍ジャパン監督をつとめた小久保氏。投打のどちらも期待できる大谷の存在を、代表監督目線でも語ってくれた。
そして王会長が最後に語ってくれたのは、大谷が野球界の未来にもたらす影響について。
「どの競技でも海外でしっかり結果を出すのが一番大きい。これまで野手として十分な結果を残したのは松井秀喜とイチローくらい。やはりメジャーのレベルは高い。その中で(大谷は)投打で活躍してくれて、みんなに大きな勇気をくれるよね」
「また勇気だけでなく、スケール感あふれるプレースタイルは野球をやっている人たちのお手本になる。東京五輪もあるし、今後もこういう選手がどんどん出てきて欲しい。みんながスケールの大きい野球選手になって欲しい」
大谷のような現役選手だけでない。この日のように引退したOB選手の輝きはいつまでも色あせない。野球界、そしてスポーツ界の明るい未来がそこから繋がっていく。『プレイヤーズファースト』の本質がそこにあったのではとも感じさせるような素晴らしいイベントだった。名球会の果たす役割は、これから先も決して小さなものではない。
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