台湾プロ野球を経験してからの海外移籍は珍しい
北海道日本ハムが、ポスティングシステムにより交渉権を獲得したラミゴの王柏融外野手。台湾プロ野球で2度の4割をマークした“大王”は、いろいろな意味で「破格」の選手だといえる。
王柏融は、台湾南部の屏東県の出身。野球エリートが通う中国文化大学に進み、外野手として頭角を現した。2014年の第1回U21野球ワールドカップには、中国文化大学からチャイニーズ・タイペイ代表に選ばれて出場。決勝では鈴木誠也(広島)、上沢直之(北海道日本ハム)などがいる侍ジャパンを9-0で下して優勝。このときは台湾中が熱狂した。
台湾では、王のような有望選手は、社会人野球に進むか、日本やアメリカなどのプロ野球に進む場合が多い。ヤンキースで活躍した王建民、北海道日本ハムや巨人で活躍中の陽岱鋼などはその代表格だ。CPBL(中華職業棒球大聯盟、台湾プロ野球)に進む有望選手は少なかった。
台湾には1989年にプロ野球リーグが生まれ、一時期は人気を博したが、野球賭博や八百長などの不祥事が続出。また台湾職業棒球大聯盟という別のプロリーグができるなど、混乱した。全盛時には7000人近い観客動員だったが、不祥事のために1600人台まで落ち込み、脱退するチームも増えて消滅寸前とまで言われた。
そんなCPBLが息を吹き返したきっかけになったのが、2006年から始まったWBCだ。チャイニーズ・タイペイ代表は、CPBLの選手も多く選ばれた。アジアラウンドでは、日本や韓国を相手に接戦を繰り広げ、台湾の人々は熱狂。2013年の第3回大会の第1ラウンドB組は台中のインターコンチネンタル球場で行われたが、最終戦の韓国戦では2万3431人を動員した。これは台湾野球史上最多入場者だった。またこの年は、MLBのマニー・ラミレスが義大ライノズに入団。マニー人気でCPBLは人気を回復した。
2年目に打率.414を記録し、3年目には2年連続4割をマークし三冠王に
その後も野球賭博などの事件は起こったが、CPBLは、国内で信頼を回復させつつある。しかし、依然としてアマチュアの有望選手はCPBLには進まない。CPBLの選手構成は、アマの二線級の選手と、NPBやMLB、マイナーでプレーしたのちの帰参組、そして外国人選手からなっている。日本でプレーした林威助(元阪神)や、陽耀勲(元福岡ソフトバンク、陽岱鋼の兄)なども、CPBLに復帰して主力選手として活躍した。実力的にもCPBLは、台湾のアマチュア野球よりも弱いといわれていた。事実、台湾ウィンターリーグなどでもそういう結果になっている。
王柏融も、CPBL以外のステージに進めると思われていたが、2015年6月のドラフトでラミゴモンキーズに入団。関係者を驚かせた。王柏融の実力は、CPBLでは群を抜いていた。台湾は6月にドラフトが行われるため、1年目は29試合の出場にとどまったが、2年目にいきなり打率.414で首位打者。200安打も記録した。これはともにCPBL最高記録。3年目の2017年は、打率.407、31本塁打、101打点で3冠王に輝き、4年目の2018年も打率.351(4位)をマークした。
ただ、王柏融の突出した打撃成績の背景には、CPBLが近年、極端な「打高投低」に偏ったことがある。2018年のCPBLのリーグ打率は.294、平均防御率は4.76。投手陣が弱かったことがこの大記録に結びついたことは間違いない。しかし、それでもこの成績は特筆すべきものだ。王が、CPBL史上初のポスティングでNPBに移籍することになったのも、その破格の成績による。
王は181センチ90キロ、右投げ左打ち。大型とは言えないが、シュアな打撃に加え、俊足でもある。台湾野球はもともと四球をあまり選ばないが、そんな中で選球眼もある。問題は、優秀な投手との対戦が少なさだろう。NPBには多彩な変化球を操る投手がたくさんいる。外国人打者はその配球に苦しむが、王柏融もこれに苦しむだろう。また左投手にも苦しむだろう。CPBLでは今季の2桁勝利投手は5人いたが、このうち4人が外国人投手。そしてすべてが右投手だった。NPBの左投手の鋭いスライダーやチェンジアップなどに対応できるかどうかが課題になろう。
さらに王柏融は、外野守備が得意とは言えない。4シーズン、410試合の守備率は.990だが、捕殺は合わせて16しかない。優秀な外野手がそろっている北海道日本ハムで外野を守ることができるかどうか。NPBの守備のレベルになるにはかなりの努力が必要だろう。様々な課題はあるが、王柏融の移籍は、日本と台湾の野球史上でも、歴史的な出来事だ。彼が活躍すれば、台湾でのNPB人気はさらに高まる。またCPBLに進む有望選手も増えるだろう。来年の活躍を楽しみに待ちたい。
(広尾晃 / Koh Hiroo)
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