準決勝では土壇場から粘って追いつき、決勝は小野寺賢人の熱投でCPBL勢初の優勝
2012年から、台湾を舞台に、若手選手の育成の場として開催されてきた「アジアウインターベースボールリーグ(AWB)」。コロナ禍を経て4年ぶりに開催された今年は、日台各3チーム、計6チームが参加した。
内訳は、日本の3チームは、NPBレッド、NPBホワイト、そして社会人チーム所属選手で構成されたJABA選抜。台湾の3チームは、台湾プロ野球(CPBL)第6の球団で、来季から一軍に参入する台鋼ホークス、台湾プロ野球の若手で構成されたCPBL選抜、来年のU23ワールドカップを見越し社会人野球所属の若手で構成された台湾アマU23だ。
11月25日から各チーム17試合のレギュラーシーズンを戦い、上位4チームが決勝進出をかけ、準決勝で対戦するレギュレーションで行われた今大会、レギュラーシーズンはJABA選抜が13勝3敗1分け、勝率8割超えと独走。2位は9勝6敗2分けの台鋼ホークス、3位にCPBL選抜、4位にNPBレッドが滑り込んだ。
12月16日に行われた準決勝第1試合、レギュラーシーズン2位の台鋼と、同3位のCPBL選抜の試合は、9回表に追加点を奪われ、2-5と追い込まれた台鋼が、9回裏二死1、2塁から葉保弟と張肇元の連続長打で5-5と同点に追いつき、同点の場合はレギュラーシーズン上位チームが勝ち上がる特別ルールにより、決勝進出を決めた。
第2試合は、同4位のNPBレッドが、1対1で迎えた8回裏、4番正木智也(ソフトバンク)のタイムリーで勝ち越すと、このウインターリーグでは終始圧巻の投球をみせた才木海翔(オリックス育成)が三者連続三振で試合を締め、レギュラーシーズンでは三戦全敗だったJABA選抜に2-1で勝利、「下剋上」を果たした。
迎えた17日の決勝、台鋼は、「テスト外国人」の小野寺賢人(元BC埼玉武蔵)、NPBレッドは19歳の日高暖己(オリックス)が先発した。小野寺が初回を10球で三者凡退に抑えた一方、日高はその裏、先頭の陳飛霖に9球粘られフルカウントから四球を与えると、さらにストレートの四球。一死から暴投、捕手の悪送球で失点すると、さらに2本のタイムリーを浴び3点を失う。NPBレッドは3回裏に登板したソフトバンクの育成選手、田中怜利ハモンド、佐藤宏樹の両投手も制球に苦しみ、この回だけで計6四球。台鋼はヒット1本のみで4点をあげ7対0とリードを広げた。
台鋼先発の小野寺は、140km/h台後半の直球にキレのいい変化球を織り交ぜ、ストライク先行の小気味よい投球。ランナーは出しながらも三つの併殺で要所を締め、野手陣も好守でもりたてて8回まで無失点。9回表の先頭、代打の桑原秀侍(福岡ソフトバンク)に変化球をレフトスタンドに運ばれ、さらに、完投まであとストライク2つの場面で足をつって降板したが、8回2/3、90球、6安打、1四球、5奪三振、1失点と、決勝の大舞台で最高のパフォーマンスをみせた。
そして、台湾球界復帰を決意し、今回は台鋼の一員としてプレーする元埼玉西武の張奕が救援登板、好調の正木智也をショートゴロに打ち取り、台鋼ホークスが7対1でNPBレッドに勝利、台湾プロ野球勢としてアジアウインターリーグ初優勝を飾った。台鋼は10月末に行われたCPBL二軍チャンピオンシップに続き、アジアウインターリーグも制覇。来季の一軍参入に向け、弾みのつく結果となった。
報道陣から来季契約決定を聞かされた小野寺は素直に驚き示すも、同時に「達成感」語る
試合後、勝因を問われた洪一中監督は「初回のチャンスを生かせたことに加え、3回の相手投手陣の乱調にも助けられたが、何と言っても小野寺賢人の好投だ」と述べ、決勝でMVPに輝いた小野寺と、来季の契約締結を決めたことを明らかにした。
台鋼は今回のアジアウインターリーグ参加にあたり、来季のテストを兼ね小野寺を含め4人の外国人投手がメンバー入りしていた。小野寺はレギュラーシーズン3試合に登板、計11回投げ、防御率0.82と好投、決勝の先発を任された。決勝では緊張感もあり、5回くらいから足がつり気味だったというなか、イニング毎に城所竜一トレーナーのケアを受けながら、9回二死までマウンドを守り、優勝の立役者となった。試合前、自身のSNSに「ここまできたらテスト生関係なく、このチームで優勝したい。その一心で投げます」と宣言していたが、有言実行を果たした。
囲み取材で、報道陣から来季契約が決定したことを聞かされた小野寺は「えっ、そうなんですか。言葉が聞き取れなかったので……。サプライズです、びっくりです」と驚き、しばし喜びに浸った。しかし、すぐに表情を引き締めると「今年のドラフト会議で指名がなく、もう25歳という年齢で、NPBにひと区切りをつけていたなか、ありがたいお話をいただいたので、ここにかける思いは強かったです」と打ち明けた。
小野寺は今季のBCリーグ投手部門のMVPだ。「BCリーグ、日本の独立リーグを背負って頑張ってほしいというファンの期待もあるなか、結果を出したことに満足感はありますか」と問うと、JABA選抜戦もNPB戦も、「僕が行きたくて行けなかった世界の選手たちとの対戦」という思いを胸に登板していたといい、「そうした選手たちと対戦でき、かつ結果を出すことができたことについては達成感があります」と満足そうな表情を浮かべた。
そして、この1カ月間の台鋼でのプレーを振り返り、「明るい方が多くて、勢いに乗ると強いチームです。言葉がわからないなかでも話しかけてもらって、楽しくやらせてもらいました。しっかり言葉を勉強してきます」と決意を語った。
台湾プロ野球は外国人投手にかかる比重は大きいうえ、枠争いもシビアで、かつ打者のレベルも低くはない。決して楽な環境ではないが、台湾のファンは熱い思いをもってプレーするチャレンジャーに対して温かい。BCリーグのファンにはおなじみだというキャッチフレーズ「小野寺燃えてます」も、活躍と共に台湾でも広く知られるようになりそうだ。ホークスファンの後押しを受け、来季、「燃える男」小野寺賢人の活躍を期待したい。
「台鋼大王」誕生!記者会見ではファイターズ上層部からもエールが
この1年の選手の成長について問われた洪一中監督は「年初は、試合での状況把握力が足りなかったが、若い選手達は練習、実戦を通じ少しずつ進歩していった。打者も投手も真摯な態度で練習に臨み、吸収も速かった。日々の練習は、練習時間が長く大変ではあったが、とても楽しかった。来季どこまで戦えるかは来季になってみないとわからないが、進歩した事は間違いない」と若い選手たちを讃えた。洪監督はそのうえで、今季のターニングポイントとして8月の「世紀のトレード」を挙げ、チーム内にロールモデルが出来たことで、若手の精神面にプラスになった、と説明した。
この「世紀のトレード」とは、7月のドラフト会議で台鋼が全体1位で指名したばかりの元メジャーリーガー、WBC代表の林子偉を放出する代わりに、楽天から投手ではCPBL現役4位、通算75勝のベテラン左腕、王溢正ら2人、野手ではハッスルプレーが持ち味の外野手の藍寅倫らを獲得したトレードの事で、さらにこの「世紀のトレード」では同時に、王柏融のCPBLにおける「契約所有権」を楽天から台鋼へ譲渡することについても合意がなされていた。
遡ること12月8日、台鋼は王柏融との契約を発表、13日には台北市内で入団記者会見が行われた。記者会見には北海道日本ハムの岩本賢一チーム統括副本部長兼国際グループ長も出席、「来年の春、ボーロンがファイターズのキャンプにいないのは寂しいです。これからも北海道から応援します」と声をつまらせながら語ると、王柏融も感極まり目頭を押さえる場面もあった。また入団時の監督、栗山英樹氏からも、ビデオを通じて熱いエールが送られた。契約内容は3年総額台湾元3600万元(日本円約1億6480万円)、背番号はモンキーズ時代の「9」となった。また、千葉ロッテや楽天モンキーズの協力を得て、かつての応援歌「夢花火」が使われることも発表された。
中心打者としての活躍はもちろん、若い選手の多いホークスにおいて王柏融は、王溢正、藍寅倫同様、牽引役としての働きも期待される。王柏融自身も、その役割は十分に理解しており、ファイターズでの5年間の経験を伝えていきたいと語った。アジアウインターリーグ決勝の試合前、ナインを激励した「台鋼大王」、来季の活躍が今から楽しみだ。
注目の2024年ドラフト会議指名順は2番目に、指名選手は張育成の動向次第?!
呉念庭、張奕らの台湾球界でのプレーが決まり、2024年のCPBLドラフト会議に関心が高まる中、12月17日には台鋼の指名順を決めるくじ引きが行われた。劉東洋GMは、チームのチアリーダー「Wing Stars」のメンバーで、傘下のプロバスケットボールチーム、そしてホークスと、応援した試合は負けなしの不敗神話をもつ「幸運の女神」、韓国出身の大物チア、アン・ジヒョンに大役を任せた。
様々なゲン担ぎをして臨んだというアン・ジヒョンが引いた数字は「2」、洪一中監督は「1を引く可能性は六分の一。3番目までならラッキーと思っていた。2番目なら95点」と笑顔を浮かべた。
台湾プロ野球のドラフト会議は、前年の最下位チームから順に指名するウェーバー制で、2024年ドラフト会議の指名順は、富邦-台鋼-中信-統一-楽天-味全の順に決まった。
FAとなっている大物選手のうち、メジャー登板経験をもつ右腕の黄暐傑はパイレーツとのマイナー契約が決まったが、WBCのプールAでMVPを獲得した台湾最強打者、元レッドソックスの張育成の去就は現時点では未定だ。果たしてアメリカか日本か、それとも台湾か、張の決断が注目される。
台鋼はこのほか、60人保有枠リストから漏れた選手の獲得も進めており、内野各ポジションを守れ、打撃もいい郭永維、CPBL現役3位、通算500試合登板を誇る中継ぎ左腕、賴鴻誠という、いずれも元楽天のベテランと契約合意間近、という報道がなされている。
台鋼は外国人枠も他チームよりも1枠多く(支配下登録5人、投手ないし野手は最多4人まで)、元DeNAの左腕、笠原祥太郎、前述の小野寺賢人に加え、救援投手、右の大砲が補強ポイントとされており、こちらも注目だ。
チームは1月17日から、南部、高雄國慶青埔球場で春季キャンプを行う。ここで、正式なユニフォーム、マスコット、球団歌、そして、一、二軍のコーチ陣も発表されるという。
日本球界出身者も多い台湾プロ野球第6の球団、台鋼ホークス。日本語のSNSを運用するなど日本のファンも非常に重視している。台鋼ホークスに関する情報については、2024年も随時お伝えしていく、お楽しみに。
※情報は12月25日時点のもの
文・駒田英
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