台湾最多823勝の名将が語る「王柏融」の凄さと課題とは?

パ・リーグ インサイト 上野友輔

2018.11.16(金) 11:00

 11月9日から3日間に渡って行われた千葉ロッテとLamigoの交流試合は、2勝1敗で千葉ロッテが勝ち越して幕を閉じた。今回は同時に開催されている日米野球の影にやや隠れる形となったが、Lamigoは日本の球団との交流を深めており、これから移籍報道が本格化するであろう王柏融や、日本にまつわるさまざまなイベント実施などを通じ、「Lamigoモンキーズ」の名前も日本の野球ファンに浸透してきたように思える。

 そのLamigoとの対戦や台湾代表の試合を通じ、同球団の監督を知ったファンも中にはいるだろう。その名は「洪一中」、台湾プロ野球(CPBL)の歴史の中で、チームを最も多く勝利に導いた監督だ。

 現役時代はベストナイン2度、ゴールデングラブには3度輝くなど、球界を代表する捕手として活躍。指導者転向後は、2004年途中からLamigoの前身であるLaNewベアーズの監督を務め、2010年を除いて計14年チームを率い続けている。監督通算823勝(今季終了時点)。最優秀監督にも、台湾プロ野球史上最多の6度輝き、14年の間でチームが優勝したのは、いずれも洪一中監督の時代のみという「優勝請負人」でもある。

 三国志に出てくる知将「諸葛孔明」にちなんで「諸葛紅中」とも呼ばれる台湾屈指の名将の監督としての経験は、アジア野球界において屈指のものであることは間違いないだろう。同じく名将である伊東勤氏(現中日ヘッドコーチ)とも仲がいいという洪監督に、2015年から指導してきた王柏融選手、そして日本球界と台湾球界の未来についてなどを聞いてみた。

投手力向上につながる交流試合

 洪監督はLamigoの監督としても台湾代表の監督としても、日本のチームとの対戦が豊富で、今年も2月に千葉ロッテ、3月には北海道日本ハムとも対戦している。「日本のチームは野球のさまざまな技術面において、台湾に比べて細やか。台湾のチームにとっては試合を通じた交流を続けることで、何かしらの成長につながる」と、洪監督は交流試合に意義を見出している。

 CPBLにおいては投手の育成に課題があるとされており、洪監督もそれを認める。「台湾では高校卒業後に多くの優れた投手が海外へ行ってしまい、その結果CPBLの台湾投手の実力は抜きん出たレベルにまで達しない」(洪監督)ことから、レベルの高い投手たちと対戦できる国際試合は貴重な成長機会になるという。

 ただその一方で、CPBLは打撃力が高い選手が多く、洪監督の下からも数々の優れた選手が育っている。その筆頭が「大王」こと王柏融だ。若きスラッガーを入団以来指導してきた名将は、王柏融を技術面はもちろん「グラウンド内外において礼儀正しく、立ち振る舞いもきちんとしている」と人間性も高く評価し、「グラウンド上においても、グラウンド外でも、めったに『疲れた』と口にしない」と肉体的、精神的のタフさも称賛している。

千葉ロッテ対Lamigo交流試合3戦目に2安打を放った王柏融
千葉ロッテ対Lamigo交流試合3戦目に2安打を放った王柏融

不調は自分自身への要求が高いがゆえに?

 ただその「大王」も、今年2018年はリーグ4位の打率.351。安打数はリーグ3位の159本、打点はリーグ2位の84打点ではあるものの、一昨年・昨年とシーズン打率4割、そして昨年には三冠王を獲得した実績からすると、「成績を落とした」と言える。

 この原因を洪監督は「一気に知名度が高まったこととも関係がある」と分析する。今年はNPBの各球団だけでなく、MLBからもスカウトが台湾屈指のスラッガーを視察に訪れ、強豪チームの中軸としてファンも活躍を期待した。その中で「とても責任感が強いがゆえ、知らず知らずのうちに(自分に)プレッシャーをかけ、スムーズなスイングができなくなってしまった」(洪監督)という。

 自分自身への要求が非常に高い選手で、若くしてさまざまな打撃タイトルを獲得し、台湾メディアをして「次元の違う選手」と言わしめるとはいえ、まだ「大王」も25歳。さまざまな葛藤、苦悩の中でプレーしていたことだろう。

 また洪監督は「守備、走塁も、欠点がないというわけではない」と課題を指摘する。「NPBでプレーすることになった場合、たくさんの優れた選手との競争が待っている。細かい部分一つ一つについて学び、強化していかなくてはならない」とさらなる向上を促す。

 ただその一方で、「よりよいトレーニング環境の中に身をおけば、彼の性格から言っても、レベルを引き上げることは大きな問題にはならない」(洪監督)と、その底知れぬ伸びしろを見込む。そして「海外でプレーする機会が来たとしても、いいパフォーマンスを見せてくれると信じている。彼の自分自身への要求の高さ、物事に取り組む態度などを見ても、必ず新しい環境に適応できると思っている」と、今後のさらなる成長に太鼓判を押した。

名将は「交流」から学び続け、さらなる交流を望む

 台湾球界のニュースターである王柏融を指導し、そして今年8月までシーズン打率4割を維持した20歳の廖健富(その後ケガで離脱)など、台湾球界を席巻、あるいは今後担う選手を育て上げた洪監督だが、名将として「学び」を止めることはない。

 以前は千葉ロッテの秋季キャンプに参加し、アメリカのトレーニングセンターを訪問したり、MLBシアトル・マリナーズのキャンプ地で研修を受けたりしたこともあるなど、精力的に各国を飛び回っているという。すべては「台湾野球と、日本やアメリカの野球とは、まだ差がある。学んだことを台湾に持ち帰り、台湾野球の発展につなげたい」という思いからだ。

 特に「日本では、投手育成に関する話やチーム哲学などの話を聞く。アメリカでは、打撃や作戦に関する考え方を学ぶ」という。中でも伊東氏と親交があり、チームをいかに率いていくかなどのテーマについても意見を交わしている。

 また、CPBLの中でも最も頻繁にNPBの球団と交流し、重視しているLamigoの監督であることも、その学びを促進させている。かつては国際大会に限られた交流だったが、今回の千葉ロッテとの対戦のように単一チームとの交流も増え、学びの機会は増えている。これらは「双方の交流を通じ、台湾野球と日本野球の実力差を縮めたい」という洪監督の悲願につながる。

 もちろん一方的に学ぶだけでなく、日本の野球ファンや関係者に「台湾プロ野球について知ってもらいたい」という思いもある。実際、5月のイベントで球場を訪れたパ・リーグ球団スタッフも、球場の盛り上げ方など、さまざまなことを得られたと語っていたが、洪監督も「日本の野球の良い部分、技術、文化、そして精神的な部分まで学ぼうと考えているが、もちろん台湾にもいい面はあるので、日本の皆さんが台湾から学んでもいい」という。

「(交流は)双方の野球界にプラス面があると思っている。今後、日本との交流がさらに盛んになることを期待している」と、台湾一の名将は両国のよき未来を見据えている。


取材協力・通訳:駒田 英

記事提供:

パ・リーグ インサイト 上野友輔

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