8月25日に一軍再昇格をした。必ず一軍に戻る。二軍で強い決意で過ごしていた。想いは通じた。大嶺翔太内野手は約1カ月ぶりに一軍の舞台に立っていた。そこには尊敬する井口資仁内野手の姿があった。
「井口さんともう一度、一緒にプレーをしたかった。だから、絶対に一軍に戻ると決意していました。二軍では必死に過ごしていましたし、とにかくアピールをしました」
背番号「6」に心酔していた。入団まもない頃から憧れの思いで、見続けた。ただ、なかなか声をかけることはできなかった。あまりにも遠い存在だった。一軍に初昇格後にチャンスを狙った。井口と仲のよいチーム関係者に相談をした。「自分から声を掛けたらいいんだよ。喜んで食事に連れて行ってくれるよ」。そう言って背中を押してくれた。ある遠征の時、その関係者は井口が試合後のスケジュールが空いている日を調べて教えてくれた。「今日がチャンスだよ。声を掛けてみろよ」。それまであまり会話もしたことはなかった。しかし、この機会を絶対に逃してはいけないと自分に言い聞かせて、声を掛けた。「あの、スイマセン。本日の試合後は空いていますか?食事、御一緒させていただけませんか」。憧れの大先輩はすぐに快諾をしてくれた。忘れもしない。仙台遠征。井口行きつけの牛タン店で舌鼓をうった。ただ、味はあまり覚えていない。緊張をしていたのと、憧れの人の言葉を聞き逃すまいと神経を研ぎ澄ませていたからだ。
「あれからいろいろと連れて行ってもらった。野球の話もいろいろと聞かせてもらった」
それ以降、気に留めてくれるようになり、誘ってもらう機会も増えた。大嶺翔もまた、どんどん考え方を吸収しようと貪欲に質問を重ねた。ベンチでは真ん中付近が定位置の井口。いつもその近くに陣取るようにした。技術的な事から、精神的な事までいろいろと教わった。
今シーズンの中盤、1番を打つことが多かった。本来の持ち味は積極的な鋭い打球だが、1番という打順を意識してどこか消極的になっていた。声をかけられた。「初球からどんどん積極的に打っていけばいい」。その言葉に楽になった。5月30日のタイガース戦(ZOZOマリンスタジアム)、2対2の同点で迎えた2死2塁の場面でタイガース先発・秋山の初球変化球をレフトスタンドへ運んだ。勝ち越し3号ソロ。迷いのないスイングだった。ベンチに戻ってくると井口がハイタッチで迎え、「積極的ないいスイングだった」と声をかけてくれた。自分のスタイルが分かった気がした。ベンチスタートの時も近くにいるとその日の相手投手の特徴、傾向などを教えてくれた。学ぶことはあまりにも多かった。だからこそ6月20日に大先輩が引退を発表した時、強いショックを受けた。まだまだ聞きたいことはたくさんあった。
「いつも親切に親身になって相談に乗ってくれた。自分にとって教科書のような人だった。これから心細い気持ちもあります。でも、それだとダメ。教えてもらったことのすべてを忘れずに実践をしていきたい。結果を出したい」
背番号「6」の引退試合が決まった時から、絶対に9月24日のファイターズ戦(ZOZOマリンスタジアム、14:00試合開始)にて一軍入りをすることを心に誓う。グラウンドでプレーをする姿を間近で見たい。その場に一緒に立ちたいと思い、歯を食いしばっている。だから、7月31日に抹消となっても決して諦めなかった。二軍で全身全霊アピールを繰り返し、チャンス到来の時を待ってきた。
憧れの存在と共にプレーができる機会はあと1試合。絶対にその日を逃さない。一軍で結果を出し続け、その場に立つ。背番号「50」は成長をした姿を見せることで最高の恩返しをすると心に誓う。
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