9月30日、埼玉西武が10年ぶり22度目のパ・リーグ制覇を果たした。今季の埼玉西武を象徴するものとして、その強力無比な打線を挙げる方は多いだろう。
2桁本塁打をマークする選手がスタメンに最大6人名を連ね、そのうち20本塁打以上が4人、4番に至っては両リーグトップ独走の46本塁打。3、4番が熾烈な打点王争いを繰り広げ、チーム得点ももちろん両リーグトップの771得点。その一方でチーム防御率はリーグ唯一の4点台と、超攻撃型チームであることに異論を差し挟む余地はない。
国産打線で歴代屈指の打撃力
ただ、唯一の外国人野手であるメヒア選手が、79試合出場で224打席にとどまっており、今季の埼玉西武は規定打席に到達した選手がすべて日本人という「国産打線」だったことも特筆すべき事態だ。過去10年間で、「規定打席に到達した外国籍の選手がいなかった」パ・リーグ優勝チームの打撃成績は以下の通り。
2011年:福岡ソフトバンク
144試合1271安打90本塁打550得点180盗塁 打率.267
2012年:北海道日本ハム
144試合1220安打90本塁打510得点82盗塁 打率.256
2018年:埼玉西武
138試合1300安打191本塁打771得点128盗塁 打率.273
まだ全試合を消化していない今季の埼玉西武のほとんどの数字が、歴代の強豪チームと比べても抜きん出ていることは分かるだろう。
ちなみにセ・リーグでは、2015年の東京ヤクルトが、バレンティン選手の故障によってほぼ国産となった打線でリーグ優勝を飾った。打撃タイトルも生え抜きが独占(首位打者・最多安打は川端選手、本塁打王・盗塁王・最高出塁率は山田選手、打点王は畠山選手)した。
このチームも143試合1240安打107本塁打574得点。また、同じ条件だった2017年と今季の広島も143試合1329安打152本塁打736得点、139試合1252安打173本塁打713得点と、今季の埼玉西武が残した数字には届いていない。
豪快な一発が目につくが、効率の良さが得点力のカギ
自身初の本塁打王獲得をほぼ確実としている4番の山川選手を筆頭に、今季の埼玉西武打線は長打力が際立っている。しかし、意外にもチームの総本塁打数は福岡ソフトバンクと同じ191本だ。ただ、チームの総得点数は埼玉西武の771点に対して福岡ソフトバンクが641点と、実に130点もの差がついている。
なぜここまでの差があるのか。まず、得点に直結する数字の中で目を引くのが、両チームの出塁率だ。埼玉西武の.352に対して福岡ソフトバンクは.327。打率は埼玉西武の.273に対して福岡ソフトバンクが.267とそこまで大きな差はないだけに、これがチャンスの差となり、ひいてはチーム総得点の差にもつながっている可能性は決して低くはないだろう。
加えて盗塁数も、埼玉西武の128個に対し、福岡ソフトバンクは78個という大きな差。ただ、得点圏に走者を送る手段として、盗塁と並んで重用される方法としては犠打があるが、今季の埼玉西武はその犠打は極端に少ない。わずか47犠打で、ワースト2位の東北楽天(75個)と比べるとその少なさがさらに際立つ。
対する福岡ソフトバンクは、故障で主力打者が多数抜けた影響もあってかリーグ3位の99犠打を記録しているが、チームの総得点に大きな差がついているのは先述の通り。犠打数トップのオリックス(117個)の得点数は下から3番目(527点)、犠打数2位の千葉ロッテ(107個)は同2番目(505点)と、それぞれ伸び悩んでいることを考えれば、「送りバントは得点効率を下げる」という言説が、年を経るごとに広まりを見せつつあることも頷ける。
ちなみに、埼玉西武はここまでチーム全体で挙げた741打点に対して得点は771点と、この2つの数字の間にリーグ最多となる30点もの差が生まれている。今季の埼玉西武は、相手のミスを実にしたたかにスコアにつなげているのだ。
このように、埼玉西武が他チームを圧倒するほどの得点力を発揮できているのは、出塁率や盗塁数で差をつけていることに加えて、犠打を多用せず安易にアウトカウントを相手に与えないという効率的な攻めを、シーズンを通して行えていたこともひとつの要因と言えそうだ。
出塁率の重要性、犠打の非効率さ、盗塁の収支ラインといったものはいずれも、セイバーメトリクスで提唱されているが、今季の埼玉西武がそれに基づいたかのような采配で得点を量産したのは、今後の野球界にある程度の影響を及ぼすかもしれない。
何より、埼玉西武で規定打席に到達した6人のうち4人(森選手、外崎選手、源田選手、山川選手)が26歳以下と、まだまだ伸びしろを残しているところもまた楽しみな部分だ。「緻密な」打撃力でリーグを席巻した若獅子たちは、これからもさらに進化した姿を全国の野球ファンに見せつけてくれるだろう。
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