指揮官の徹底した姿勢。22度目のリーグ制覇はこうして生まれた

氏原英明

2018.10.1(月) 11:00

10年ぶりの優勝を決めた埼玉西武ライオンズ(写真提供:Seibu Lions)
10年ぶりの優勝を決めた埼玉西武ライオンズ(写真提供:Seibu Lions)

 驚きを隠さない指揮官の言葉に今季の埼玉西武の強さを感じずにいられなかった。

「盗塁死4つだよ。普通は怖くて行けない。俺なら1回アウトになったらいかない。それでも行けるところが、選手たちのすごさだと思うよ」

 9月15日から始まった福岡ソフトバンクとの天王山第1ラウンド最終戦。指揮官も想定以上の3連勝で締めくくった17日の試合後、辻発彦監督は勝利に酔いしれるとともに、選手たちの勇敢な姿に感服していた。

 この試合は初回に1死満塁から栗山巧選手がセンターバックスクリーンへ満塁弾を放って、ゲームの主導権を握った。すぐに1点を返されて膠着状態が続いたが、7回裏、6番の中村剛也選手が追いすがる福岡ソフトバンクを突き放す3点本塁打を右翼スタンドにぶち込み試合を決めた。

攻め方に拙さがあっても指揮官は…

 ベテラン2人による豪快な2発で試合は決まったのだが、それ以外のイニングでの攻め方に拙さがあったのもまた事実だった。

 それは2回裏のことだった。

 1死から内野安打で出塁した金子侑司選手が1番・秋山翔吾選手への3球目に盗塁を試みるも失敗。秋山選手が粘って四球を選ぶも、2番・源田壮亮選手の打席で秋山選手も盗塁失敗。3回裏には、先頭で出塁した2番・源田壮亮選手も盗塁に失敗した。

 イニングをまたいで3人連続の盗塁死。これだけでも十分な珍事だったが、それでも懲りずに6回裏、金子侑司選手が盗塁死したのだ。攻撃の勢いを削いでしまってもおかしくなかった。

「(4盗塁死は)ベンチ側としては反省しないといけない所はあるよ、『行くな』と言えばいい。でも、選手たちは考えながらやっていて、行けると思ったから盗塁して結果アウトになっただけだから。そういう彼たちの思い切りは失くしたくない。前向きなのはいいじゃないですか」

 今季の優勝を飾ったチームにあって、辻監督のこうした方針は、随所に垣間見えた。心底では別の攻撃プランを描いていたとしても、選手が選んだプレーをとがめない。

辻監督が理想とするチーム作りとは

 辻監督には理想として掲げるチーム作りがある。

「サインなしで選手が考えてやるというのが、僕が理想とする野球なんです。選手たちが試合を作るものだと常々思っています。盗塁は相手のバッテリーによって走れる・走れないかの選択がありますけど、その判断は選手がする。それは選手の技術向上のためにしていることでもあるのですが、自主性を持ってやってほしいんです。それが技術力につながっていきますから。こちらが制約したり、あるいは、アウトになったからといってあれこれ言ったりすると、選手たちの思い切りが出なくなってくる。個性を潰したくない」

 無死、あるいは1死で一塁に走者が出ると、送りバントという作戦をとるチームは多い。しかし辻監督はそうした決まりきった作戦を選ばない。「今はそういう時代ではない」と野球の変化も感じているが、辻監督は選手の個性が表に出てくることを望んでいる。

「自分のバッティングをしろと言われます。普通に打てば僕の足であれば併殺にならないから走者を進めなくてはいけないとか気にしなくていいと。二遊間にはあまり打ってはいけないかなと思いますけど、監督からそういってもらえるので、集中して相手の投手と対戦ができる。だから、相手投手を見て、どの球をどちらの方向に打とうかと考えることができるので、去年よりも考えてできるプレーは増えたと思います」

 そう語っていたのはルーキーイヤーの昨季からフルイニング出場を続けている源田壮亮選手だ。

 主に2番を打つことが多い源田選手は、チームトップの出塁率を誇る1番の秋山選手を走者に置いて打席を迎えることが多いが、ほとんどのケースで強攻している。それでも、源田選手がチャンスの芽を摘み取るような打撃をしないのは、指揮官からプレーする自由を与えてもらっているからだ。窮屈になることなく、プレー幅を広げて、自分で考えて野球ができている。

「最近の流行りで言うと、選手ファーストというんですかね。気持ちよくプレーさせてあげたい」と辻監督は言う。

理想のチームは盗塁、打撃面にも反映されている

 盗塁に話を戻すが、ほとんどグリーンライトだ。選手の判断に任せている。進塁打も意識してほしいと思っているが、それをわざわざ口にして言うことはないし、また四球が期待できるようなカウント3ボールなどで「待て」のサインを出すことも多くない。展開を読みながら、選手自身が考えることで思い切りプレーしてほしいと思っている。

 当然、そうした方針には表裏一体のリスクを伴う。福岡ソフトバンク戦の4盗塁死がまさにそうだが、この試合ではもう一つ、6番の中村選手が5回裏の第3打席でカウント3ボールからの4球目に手を出してセンターフライに終わるという場面もあった。ランナーは1,2塁にいた。

 しかし、辻監督は意に介していなかった。

「中村の3打席目のセンターフライは紙一重のスイングだった。(中村は)打ちたいという想いがあっただろうし、そのモヤモヤっとしていたものを次の打席でホームランにしてくれた」

 ベンチが多くの制約を設けていたら、選手たちは思い切ってスイングすることはできないだろう。しかし、盗塁も含めて、選手に考える自由を与えることでプレー幅を狭めることをしていないから、ホームランを打った中村選手のようにその打席はたとえダメでも、先へつながっていくのである。

 思い返せば、今季の埼玉西武は信じられないほどの試合展開が多かった。シーズンの序盤戦では8点差を2イニングスでひっくり返すゲームをしたし、試合の最後のアウトを取られるまで緊迫のゲーム展開を見せた。また、トリプルプレーなどのビッグプレーも生まれ、シーズンの最終盤には3者連続本塁打が飛び出し、今季最多の12連勝を飾るなど、マジックが点灯してからは、毎日のように奇跡的な逆転劇を見せた。

 果たして、そうしたプレーがなぜ生まれるのかを考えると、個性の強さというところに行きつくのである。

 失敗しても失敗しても盗塁をしようとする。バントに頼らず、打で走者を先の塁に進めるというバッティングを目指し、カウントがこちらに有利なら、四球のチャンスがみえても、振りに行く。

 盗塁失敗のリスクを数字で表せば、盗塁死は愚策なのかもしれない。だが、辻監督は「個」が生み出す数字以上の驚異的な力を信じているのだ

 自分の持っている力を出し続けた個性派集団――。

 それを一つにまとめた指揮官――。

 天王山の第1ラウンド最終戦でおかした4つの盗塁死とカウント3ボールからの凡打は今季の埼玉西武の強さを映し出していたのである。

 10年ぶりの載冠はそうして達成された。

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氏原英明

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