2023年3月22日、日本代表の劇的な優勝で幕を閉じたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)から一年が経った。大会終了後も大きな話題を呼んだこともあり、もう一年かと時の流れの早さに驚いてしまう。
今大会で史上最強とも言われた侍ジャパンを支えたのが、私、鈴木優の中学校からの親友であるルーク篠田さんだ。代表チームコーディネーターとして近くで見守ったルークさんに、あらためてWBCを振り返ってもらった。
<大会前インタビュー【前編】>
<大会前インタビュー【後編】>
“ヌートバー選手の通訳”のイメージも…… カメラには映らない本職
鈴木優(以下、鈴木):早いものでWBCから丸一年経ったね。まずはあらためてルークのWBCでの役割を教えてください。
ルーク篠田(以下、ルーク):この一年でいろいろな人と話してきたけど、やっぱり「ヌートバー選手の通訳」というイメージを強く持たれていて。実際の役職は「代表チームコーディネーター」だけど、そのメインの仕事はカメラに映らないので、円陣とかで通訳している場面がテレビに映っている分、通訳だと勘違いされがちですね。
鈴木:確かに、ヒーローインタビューとかニュースに取り上げられる場面でルークがたくさん映ってたよ。代表チームコーディネーターとしてはどんな仕事をしていたの?
ルーク:例えば、選手のバスがしっかり来ているかの確認をしたり、ホテルとの連携をチェックしたり。同時にグラウンドの方も確認するといったことの繰り返しだったね。
「コーディネーター」と聞いても想像しにくいかもしれないけど、NPBの球団にいるマネージャーが一番近いかなと思う。選手の移動と宿泊の手配、メディアとの調整は表に映らないからね。今回はヌートバー選手がいたから、日本メディアに対しては通訳も必要で。その場に応じて、帯同していたスタッフのうちの誰かが通訳を担当していた。専属ではなかったけど、周りの情報を全部把握していたから、自分が一番担当することが多かったよ。
鈴木:代表チームコーディネーターとヌートバー選手の通訳をするうえで、秋山(翔吾)選手の通訳をしていたキャリアが役に立った場面はある?
ルーク:もちろんあったね。メジャーでの選手の一日のルーティンを大まかには把握できていたから、球場入りしたらこれをするとか、食事はこのタイミングでとるとか、このタイミングだったら自分も他の仕事ができるなとか。「この練習があるからコーチとの話もあるだろうな」というのも。
鈴木:なるほど。MLBの中身も知っていて、通訳の業務もできるルークは適任だったし、だからこそルークにも注目が集まったんだね。「想像以上にルーク目立ってるじゃん!」と思ったよ。
ルーク:ヌートバー選手があんなに注目されたからだよ。自分が円陣をやると思ってなかった(笑)。
鈴木:ルークが通訳するときの言葉のチョイスが絶妙で、いい円陣だったよね。例えば、ヌートバー選手の言葉をミーティングで訳すときに、試合前の気持ちが高まるような言葉を選ぶとか、そのあたり意識していたことは?
ルーク:言葉によって、直訳したらニュアンスが変わってしまうときがあるから、もちろん本当の意味を踏まえたうえで、ひとつの言葉にまとめるより3つの言葉で表現することもある。その都度、1〜2文くらい聞いて「こういう意味だな」とまとめるイメージ。
そばで感じた投手陣のレベルの高さ
鈴木:大会前にインタビューしたときは、注目選手として伊藤大海投手と戸郷翔征投手を挙げていたけど、実際のWBCでの二人の印象は?
ルーク:戸郷投手はアメリカ戦で投げて、やっぱりアメリカの選手に対してあのフォークは効いていたし、何よりあんなに淡々と投げられるんだと。
鈴木:今回のWBCで見えたのは、日本人選手のメンタルの強さというか、ここ一番で発揮する能力だったよね。
ルーク:もしかしたら心臓バクバクしていたかもしれないけど、淡々と投げて抑えて、涼しい顔をしていたのが本当にすごいなと思った。その反面、伊藤大海投手は感情を表に出して思いっきり投げていた。タイプがそれぞれ違う分、アメリカ代表としても嫌だったと思う。二人とも活躍してくれてすごくうれしかったね。
鈴木:伊藤投手は普段先発だけど、WBCではイニング途中で投げてもしっかり抑えていて、近くで見ていてどうだった?
ルーク:僕が知っている限りでは言葉にしていなかったけど、自分の投げやすさよりチームの勝利を最優先する姿勢は日本チーム全体的にあって、それが強さだったなと思う。ダルさん(ダルビッシュ有投手)も普段は先発なのに、当然のように試合中にブルペンに行っていたのがやっぱりすごいなって。
鈴木:みんな良かったから選ぶのは難しいと思うけど、他に印象的だった選手はいる?
ルーク:阪神・湯浅(京己)投手。真っすぐの成分ではメジャーの選手以上のデータが出ていたり、ほかにもアメリカで通用するような数字が出ていたり。年齢的には若手だからこれからも楽しみだし、先発でもおもしろいと思うな。
鈴木:昨年オフの今永(昇太)さんのポスティングもそうだけど、メジャーのスカウトがWBCを見たことで日本のピッチャーの評価も上がっていそうだよね。
ルーク:NPB全体のレベルも上がって、どの球団にもアメリカで通用するようなピッチャーがいる可能性が大いにあるから、各球団網羅しなくてはいけなくなったと思う。ある球団の特定のピッチャーひとりを見るためだけに日本に来るのではなくてね。
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後編では、山本由伸投手と佐々木朗希投手による村上宗隆選手へのウォーターシャワーの裏話や、現在のルークさんの仕事についてお伝えする。
<後編はこちら>
インタビュー/元オリックス・バファローズ投手 鈴木優
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