メキシコ戦・村上宗隆への手荒い祝福を指示したのは? ルーク篠田さんがブルペンで迎えた世界一の瞬間

パ・リーグ インサイト 鈴木優

2024.5.20(月) 14:01

山本由伸投手・ルーク篠田さん・佐々木朗希投手【写真:本人提供】
山本由伸投手・ルーク篠田さん・佐々木朗希投手【写真:本人提供】

 日本中が歓喜の渦に包まれたWBCから早一年。侍ジャパンを裏で支えた代表チームコーディネーターのルーク篠田さんに、中学時代からの親友である私、鈴木優が当時の裏話を聞いた。

<前編はこちら>

◇◇◇

ダルビッシュ有・大谷翔平らMLB組が与えた影響

鈴木優(以下、鈴木):大谷(翔平)選手、ダルビッシュ投手をはじめとしたMLBの選手が、NPB所属の選手たちに与えた影響についてはどう?

ルーク篠田(以下、ルーク):アメリカ志向になった選手が増えたと思う。トレーニング方法、メジャーの球団の一日のスケジュール、用具のこととか。今までの侍ジャパンのなかで一番平均年齢が若かったから、情報が入ってきていない分も多少はあると思うけど…… ダルさんを見て育っている世代の選手も結構いて、向上心にもつながっていたと思う。

鈴木:確か強化合宿中も、ダルビッシュ投手がトラックマンとかのデータの見方をNPBの選手に教えていたんだよね?

ルーク:うん。データに関しては「回転数はこうだったよ」とだけ言われてもわからないから、例えば「この回転数でこの角度で、これ以上曲がっているからこの球種になるんだよ」と事細かく教えているのが印象的だった。その時点で若手の選手にとってプラスになっているよね。

鈴木:MLBとNPBでは、まだデータへの理解の差があると思うから、ダルビッシュ投手のようなMLBの第一線でプレーしている方が、直接NPBの選手に伝えるのはすごくいいことだよね。

山本由伸&佐々木朗希による、村上宗隆への“ゲータレードシャワー”の裏話

鈴木:今回のWBCでルークが一番映ったのは、メキシコ戦でサヨナラ打を打った村上宗隆選手に、山本由伸投手、佐々木朗希投手と一緒にスポーツドリンクをかけたときだと思う。その裏話を聞かせてもらえますか?

ルーク:アメリカのベンチには、基本的に水とスポーツドリンクの「ゲータレード」が置いてあるんだけど、やっぱり日本人選手はアメリカの甘いスポーツドリンクをあまり飲まなくて。だから、あのボトルがほぼ満杯な状態で残っていた。そして、グラウンドで村上選手のヒーローインタビューをやっているとき、たまたま山本投手と佐々木投手の2人がベンチの近くにいたんだよね。アメリカの文化として、サヨナラのときはぶっかけないと(笑)。

鈴木:自信のある推測だけど、これはルークからの提案だよね?

ルーク:うん、2人には「いいんですか?」って言われた(笑)。この文化をアメリカのメディアは知っているから、ドリンクの周りに2人が来た時点で察したのか、カメラをもう向け始めて「ゲータレードかけやるでしょ」という雰囲気が出ていて。「2人でかけに行って!」と言ったら、「え、いいんですか? 大丈夫なんですか?」と。持ち上げようとしたらめちゃくちゃ重くて、これは3人で運ぶしかないと思って僕も行きました。

世界一を喜んだのもつかの間……

鈴木:その次の日のアメリカ戦、世界一が決まった瞬間はベンチにいたの?

ルーク:マイアミでの試合は両日ともブルペンにいた。マイアミではメジャーの試合で使えるiPadが解禁になって、ブルペンでiPadを使える人が必要で。メジャーの球団で働いていた経験もあるし、機械トラブルが発生したときに大会運営の人とやりとりする必要もあったから、自分がその担当に。

鈴木:なるほど。じゃあ、世界一の瞬間はブルペンからすぐマウンドの方に向かったの? そのままブルペンにいたの?

ルーク:ブルペンに厚澤(和幸)コーチがいたから、厚澤さんと「いぇーい」と。「よっしゃ!」ってなったけど、試合直後の取材があるから喜んでいられなくて、「取材の選手は……」とか頭のなかで考えていた。

鈴木:一気に仕事モードになったんだ。

ルーク:喜んだのは10秒くらい。テレビ局のディレクターの人を探すために、すぐにバッグを担いでベンチの方にダッシュで戻った。

鈴木:マウンドでは歓喜の輪ができていたけど、ルークは取材対応の準備をしていたんだね。試合中ブルペンにいたってことは、8回にダルビッシュさん、9回に大谷さんという継投の準備も間近で見ていたんだ。

ルーク:2人とも先発だから、試合中の調整は慣れていない部分もあったと思うけど、あの2人が並んだときの空気は違ったね。あんなに近くであのコンビを見られることはもうないんじゃないかな。

鈴木:本当にレアな経験だったね。日本に帰ってきてからも取材対応とかで大変だったとは思うけど、帰国してから日本での反響の大きさは相当感じたんじゃない?

ルーク:そうだね。今でも電車に乗るたびに(広告で)ヌートバー選手の顔を見るとは思わなかったし、自分もたまに声をかけられるようになったよ。

「選手が一番良い選択をできるように」 ルークさんの現在の仕事

鈴木:今後、国際大会のときにオファーがあったらどうする?

ルーク:気持ちとしては、もちろん還元できるところはできる限りしたい。心の奥底では、トラウト選手との対戦で大谷さんが締めたというあの漫画みたいな終わり方はこれ以上ないなとも思っているけど(笑)。

鈴木:WBCから1年経った今は何をしているの?

ルーク:野球をメインに、自由にいろいろな仕事ができるのが理想的だなと思って自分の会社を設立した。日本にいる選手がメジャーでプレーするときに、間に入ってサポートすることで、選手が一番良い選択をできるように、あらゆる方面の橋渡し役になればいいなと思っている。

鈴木:選手からしても、ルークくらいアメリカの知識がある人にアドバイスをもらえるのはありがたいことだね。

ルーク:メジャーの球団で働いて、MLB機構でも働いて、国際大会も経験している人はなかなかいないから、そういう部分で説得力があるかなと思ってやっている。今後、昨年のオフみたいに日本人選手が何人もメジャーに行くようなことが増えるだろうし、その前にアメリカの生活に慣れたいとか、メジャーの選手と一緒にトレーニングがしたいという選手もいると思う。こういったケースも含めて渡米前のサポートもしていきたいね。

鈴木:ルークがこれまで現場で経験してきたことを、これからの選手に還元するという。野球界にとってもすごくいいことだね。

◇◇◇

 WBCが終わり、新たな道に進んでいるルークさん。彼のように、アメリカと日本のどちらの野球文化も熟知している人が、これからの野球界に貢献できることは多いだろう。

 今回のインタビューを通して、自分も負けないくらい日本の野球界に貢献できるように、しっかり勉強して発信していきたいと思った。また今後、ルークさんには日米の野球文化の違いや、MLBとNPBにおけるデータの活用についても聞いていきたい。

インタビュー 元オリックス・バファローズ投手 鈴木優

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